テレビ東京・制作室
「磯川主任、前回の特番は、非常に評判が良かったですね。視聴率もかなり上がったと聞いています」
「お陰様でね」
「何しろ、情け容赦なく人を殺していく極悪人たちの話でしたからね。身に迫るものがありました」
「だから、視聴者を釘付けにしたんだろうな」
「特に、キラー・クラウンと呼ばれたジョン・ゲイシーの事件は、今聞いても寒気がします」
「チャリティー活動に熱心な資産家が、実は殺人鬼だったからな」
「人殺しが快感になるというのは、信じられないですね」
「その事件もそうだが、デッド・バンディと呼ばれたセオドア・バンディもシリアル・キラーだ」
「彼は、たくさんのレイプ殺人をしておきながら、裁判では熱弁をふるって自分の正当性を主張したんですよね」
「動かぬ証拠があったり目撃者がいたりするのに、懸命に言い逃れをする姿は滑稽に見えるよ」
「また、グリーンリバー事件の犯人であるゲイリー・リッジウェイも恐ろしいですよね。まるで趣味のように女性を殺していくんですから」
「殺された売春婦は、48人になるらしいよ」
「怖いですよね」
「まったくだ」
「しかし、スタッフも大変だったでしょう。あれだけの資料を集めるのに、かなり苦労したんじゃないですか」
「そうなんだよ」
そう言いながら、制作主任である磯川は、カバンに入れていた事件のリストを出した。
「殺人鬼がテーマの特番だったが、主な連続殺人や大量殺人の事件はこれだけあった」
海外
1870年~ アルバート・フィッシュ事件 アメリカ 連続殺人
1888年~ 切り裂きジャック事件 イギリス 連続殺人 未解決
1913年 ワグナー事件 ドイツ 大量殺人
1913年 ペーター・キュルテン事件 ドイツ 連続殺人
1918年~ アックスマン事件 アメリカ 連続殺人 未解決
1919年~ フリッツ・ハールマン事件 ドイツ 連続殺人
1922年 ヒンターカイフェック事件 ドイツ 大量殺人 未解決
1929年 血のバレンタイン事件 アメリカ 大量殺人 未解決
1935年~ クリーブランド胴体殺人事件 アメリカ 連続殺人 未解決
1954年~ エド・ゲイン事件 アメリカ 連続殺人
1960年 ボドム湖殺人事件 フィンランド 大量殺人 未解決
1962年~ ボストン絞殺魔事件 アメリカ 連続殺人
1963年~ 天使の牧場事件 メキシコ 連続殺人
1964年~ ハマースミス殺人事件 イギリス 連続殺人 未解決
1964年~ エド・ケンパー事件 アメリカ 連続殺人
1968年~ ゾディアック アメリカ 連続殺人 未解決
1969年 シャロン・テート殺人事件 アメリカ 大量殺人
1972年~ キラー・クラウン事件 アメリカ 連続殺人
1972年~ アーサー・シャウクロス事件 アメリカ 連続殺人
1974年~ イル・モストロ事件 イタリア 連続殺人 未解決
1974年~ デッド・バンディ事件 アメリカ 連続殺人
1975年~ ピーター・サトクリフ事件 イギリス 連続殺人
1978年 人民寺院事件 ガイアナ 集団自殺
1978年~ ジェフリー・ダーマー事件 アメリカ 連続殺人
1978年~ アンドレイ・チカチーロ事件 ロシア 連続殺人
1982年~ グリーン・リバー事件 アメリカ 連続殺人
1986年~ 華城連続殺人事件 韓国 連続殺人 未解決
1993年 ブランチ・ダビディアン事件 アメリカ 集団自殺
1997年 ヘヴンズ・ゲート事件 アメリカ 集団自殺
1999年 コロンバイン高校銃乱射事件 アメリカ 大量殺人
2000年 ウガンダ終末教団殺人事件 ウガンダ 大量殺人
2001年 ネパール王族殺害事件 ネパール 大量殺人
2010年 ブラッドフォード殺人事件 イギリス 連続殺人
日本
1926年 鬼熊事件 千葉県 大量殺人
1938年 津山事件 岡山県 大量殺人
1945年~ 小平事件 東京都 連続殺人
1968年~ 永山則夫連続射殺事件 広域 連続殺人
1971年~ 大久保清連続殺人事件 群馬県 連続殺人
1971年~ 山岳ベース事件 群馬県 連続殺人
1972年 あさま山荘事件 長野県 大量殺傷
1972年~ 勝田事件 広域 連続殺人
1979年~ 北関東連続幼女誘拐殺人事件 栃木・群馬 連続殺人 未解決
1979年~ 長岡京殺人事件 京都府 連続殺人 未解決
1979年 梅川事件 大阪府 強盗殺人
1981年 ロス疑惑事件 ロサンゼルス 保険金殺人
1981年~ トリカブト保険金殺人事件 大阪府 保険金殺人
1989年 坂本弁護士一家殺害事件 神奈川県 一家殺害
1992年 市川一家4人殺害事件 千葉県 強盗殺人
1993年~ 埼玉愛犬家連続殺人事件 埼玉県 連続殺人
1994年~ 青酸連続殺人事件 大阪・兵庫・京都 保険金殺人
1995年 地下鉄サリン事件 東京都 大量殺人
1998年 和歌山毒物カレー事件 和歌山県 大量殺人
2000年 世田谷一家殺害事件 東京都 一家殺害 未解決
2001年 新宿歌舞伎町ビル火災事件 東京都 放火殺人 未解決
2002年 久留米看護師連続殺人事件 福岡県 保険金殺人
2008年 秋葉原通り魔事件 東京都 大量殺人
2012年 九頭竜湖冷凍庫遺体遺棄事件 福井県 連続殺人
2013年 向日市殺人事件 京都府 保険金殺人
「へえ~。結構たくさんあるんですね」
広報部の課長補佐である小川は、事件の多さに少し驚いた。
「一応、報告されている事件はこれだけだ。しかし、実際は、これらと同様の事件が他にもあるに違いない。我々が知らないだけで、世界中を探せばもっとあると思うよ」
「国家の情報を一切外に漏らさない国もありますものね」
「某国のようにな」
磯川が、薄笑いを浮かべながら呟いた。
「この中にある集団自殺というのは?」
「宗教絡みの事件であり、教祖が『もうすぐ世紀末が来る』と信者を騙して自殺させている。自殺を嫌がって逃げる信者を無理やり殺している教団もあって、いわば大量殺人事件になる訳さ」
「なるほど」
「予言の辻褄を合わせるために、大勢の信者を焼き殺した教祖もいたな」
「なんとも酷い教祖ですね」
小川の顔が、呆れ返ったと言わんばかりの表情になっていた。
「連続殺人や大量殺人というと戦争による殺戮もそうなるが、国同士がそれを認め合っているので、ここには含めていない。異宗教や国と国との揉め事が原因になるテロも、報復を大義名分にしているので外しておいた」
「戦争やテロを含めてしまうと、そうとうな数になってしまいますよね」
「だから、ここでの連続殺人や大量殺人は、個人が起こした事件に限定している」
「日本の連続殺人事件は、『永山則夫事件』が有名ですね」
「その当時、彼が拳銃を持って逃亡していたので、現場近くの住民は、自分も撃たれるのではないかと心配したようだ」
「ビクビクして、夜も寝られなかったでしょうね。あれからもう半世紀近く経っているのですね」
「逮捕後、永山が未成年だったので、裁判官がどのような判決を出すのか注目されたが、結局、死刑になった。この事件の判例は永山基準と呼ばれ、この後の未成年による殺人事件において参考にされたんだ」
「未成年でも、理由なく多くの人を殺すような重罪は、死刑にすべきですよね」
「確かに」
「その後に起こった『大久保清連続殺人事件』も、多くの若い女性が犠牲になりました」
「犯人の身勝手な欲望のためにね」
「女性の心理をついた巧妙な手口でしたね」
「最悪のペテン師だよ」
「それから、『あさま山荘事件』が衝撃的でしたねえ。人質を取って立て籠もった連合赤軍と機動隊との攻防が、生中継で放送されましたからね」
「あの事件で、機動隊員2名と民間人1名が撃たれて亡くなった。重軽傷を負った者もたくさん出ている」
「犯人逮捕後、彼らの自白により『山岳ベース事件』が明るみになったんですよね」
「リーダーが気に入らない同志を独断で殺すという所謂、内ゲバだな。『自己批判』や『総括』という言葉が、一般庶民に知れ渡るようになった」
「理想を掲げた革命家であるはずが、独裁者になっていたのですね」
「協調より支配ということだね。人の性だろうな・・」
「三浦和義が犯人だと疑われた『ロス疑惑事件』も記憶に残っていますね」
「事件直後、メディアは『重体の妻に必死で名前を呼びかける夫』と悲劇の様子を報じていたね」
「しかしその後、三浦の不自然な証言や妻に多額の保険金をかけていたこともあって、疑惑の目が向けられたのですね」
「その事件が起こる以前に、三浦の妻が頭部を誰かに鈍器で殴打されていた。三浦の愛人が『その襲撃は、彼に頼まれて自分がやった』と告白したために、疑惑はより大きくなった」
「新聞紙にそれが出たのでしたね」
「さらに、事件の2年前に三浦が交際していた女性も謎の死を遂げていて、それも三浦が関与しているのではないかと疑われた」
「もしそうだとしたら、保険金目当ての計画的な犯行になりますよね」
「被害者を装って、悲劇の夫を演じた最悪の男だな」
「金の亡者ですね」
「続いて、猟奇殺人事件のリストだ。海外では、先のリストと重複している事件が多い」
海外
1870年~ アルバート・フィッシュ事件 アメリカ 猟奇殺人
1888年~ 切り裂きジャック事件 イギリス 猟奇殺人 未解決
1947年 ブラック・ダリア事件 アメリカ 猟奇殺人 未解決
1954年~ エド・ゲイン事件 アメリカ 猟奇殺人
1964年~ エド・ケンパー事件 アメリカ 猟奇殺人
1972年~ アーサー・シャウクロス事件 アメリカ 猟奇殺人
1978年~ ジェフリー・ダーマー事件 アメリカ 猟奇殺人
1978年~ アンドレイ・チカチーロ事件 ロシア 猟奇殺人
1981年 パリ人肉事件 フランス 猟奇殺人
日本
1988年 名古屋アベック殺人事件 愛知県 強盗殺人
1988年 女子高生コンクリート詰め殺人事件 東京都 監禁殺人
2000年 ドラム缶女性焼殺事件 愛知県 監禁殺人
2002年 三島女子短大生焼殺事件 静岡県 強姦殺人
2009年 島根女子大生死体遺棄事件 広島県 猟奇殺人 未解決
「猟奇的といえば、『ブラック・ダリア事件』ですよね。犠牲者はたった一人ですが、まさに異様な事件だったと思います」
「遺体の状態だね」
「何しろ、腹部を真横に切断されて、体が上下2つに分かれていたんですから」
「まるで胴から腰を引き抜かれた人形のように捨てられていたな」
「最初に発見されたときは、マネキンだと思われたんですね」
「体の中の血が全部抜かれ、洗浄されていたこともあってね」
「それが人だと気付いた発見者は、腰が抜けたでしょうね。もし私だったら、失禁してたかも」
「はは」
「胃には、排泄物が入っていたようですね」
「脅されて、無理やり食わされたんだろうな。さらに、肛門と膣に大腿部の肉片が詰め込まれていたようだ」
「犯人は、何のためにそんなことをしたのでしょう」
「惨い殺し方からして、復讐のためじゃないか」
「復讐ですか・・」
「口元の状態がそれを如実に表している。口が左右に耳の近くまで裂けていたが、まだ生きている間にやられたようだ」
「うへぇー、現場を想像するだけで、鳥肌が立ってしまいます」
実際、小川は、自分の背筋がゾッとするのを覚えた。
「『エド・ケンパー事件』も悲惨だった。何しろ、被害者の首を切断して、その遺体を屍姦した後に食べたのだからな」
「犯人は、『異常』としか言いようがないですね」
「まさにサイコパスだよ」
「人肉食事件は、この他に、『アルバート・フィッシュ事件』『アーサー・シャウクロス事件』『ジェフリー・ダーマー事件』『アンドレイ・チカチーロ事件』『パリ人肉事件』がありますね」
「それら6つは、どれも人道に反する事件だ。もちろん、殺人だけでも重罪ではあるが、殺した上にその人の肉を食べるというのはどうもなぁ・・」
「かの『アンデスの聖餐』のように、生きるために止むに止まれず食べたのならまだ許せますが、自分の欲望を満たすために食べるというのは許せないですよね」
「絶対に許せんよ」
「一体、何がそうさせるのでしょうね」
「我々のような凡人には、到底理解できない衝動さ」
「その中に日本人も含まれているのが、残念ですよね・・」
「残念だ。ああいう奴は日本の恥だ。精神に異常があるとしか思えないよ」
「生かしておくと、また何をしでかすか分からない要注意人物ですね」
「日本では、未成年者たちが犯人だった『名古屋アベック殺人事件』や『女子高生コンクリート詰め殺人事件』も非人道的だったな」
「両方とも、殺し方が猟奇的でしたからね」
「特に『名古屋アベック』の方は、女性の首に縄をかけ、綱引きのように左右から引っ張って殺したようだ」
「苦しむ女性をニタニタ笑いながら殺していくなんて、良心の欠片もないですよね」
「まったく」
「『女子高生コンクリート詰め』の方も、女の子が加害者から受けた扱いは、惨たらしいものだった」
「ここで言うのも憚ってしまう内容ですね」
「最近の若い連中は、自分たちが面白ければ非人道的なことも平気でするな」
「今の学校の教師は、一体何を教えているのかと問いたくなりますよね」
「同様に、親も無責任だと責められるべきだわ」
「同感です」
「大体、子どもをしっかり教育しないから、こんな悲惨な事件が起こるんだ」
「教育は大事ですよね」
「一番大事だよ」
「この後に起こった『ドラム缶女性焼殺事件』と『三島女子短大生焼殺事件』も悲惨な事件でした」
「何しろ、生きたまま焼かれたんだからな」
「まるで、火炙りの刑です」
「拉致された女性たちは泣きながら命乞いをするが、犯人は容赦しなかった。彼女らは、長時間絶叫しながら死に至ったに違いない」
「何の落ち度もない人たちが、犯人の身勝手極まりない行為で殺されるのは聞くに忍びないですね」
「本当にそうだ。次は、それに輪をかけたような幼児・児童殺人事件のリストだ」
海外
1870年~ アルバート・フィッシュ事件 アメリカ 児童殺害
1957年 ボーイ・イン・ザ・ボックス アメリカ 児童殺害 未解決
1968年 メアリー・ベル事件 イギリス 幼児殺害
1972年~ アーサー・シャウクロス事件 アメリカ 児童殺害
1996年 ジョンベネ事件 アメリカ 児童殺害 未解決
2008年 ケーシー・アンソニー裁判 アメリカ 幼児殺害
日本
1988年~ 宮崎勤事件 東京・埼玉 幼児殺害
1997年 酒鬼薔薇事件 兵庫県 児童殺害
1999年 てるくはのる事件 京都府 児童殺害
2001年 付属池田小学校事件 大阪府 児童殺害
「『アルバート・フィッシュ事件』と『アーサー・シャウクロス事件』は、連続殺人、猟奇殺人、児童殺害と3つ揃った最悪事件だったのですね」
「そうだ。『アルバート』の方は、殺されて食べられた数は400人にのぼり、ほとんどが子どもだった。アメリカ犯罪史上、最悪の殺人鬼と言われている」
「殺人の動機は、一体何だったんでしょう?」
「『幼少期に受けた虐待だ』と彼は言っている。それに、『神が殺人を指示したこと』とも言っている」
「『神が』ですか・・」
「まあ、精神に異常のある者が言うことだからなあ」
「『アーサー』の方は、何が動機ですか」
「そっちは、ある意味で『ベトナム戦争の犠牲者』と言えるな・・」
「戦争体験による後遺症ですか?」
「そのようだ。当時は、同じような精神障害を持った帰還兵がたくさんいたと言われている」
「社会復帰しても周囲に溶け込めず、かなり苦しんだようですね」
「彼らをモチーフにした映画も作られていたな」
「6歳の女の子が自宅で殺されたジョンベネ事件は、謎が多いですよね」
「一時、身内が犯人ではないかと疑われていたが、結局、分らず終いだった」
「後に、自分が犯人だと名乗り出た者もいましたね」
「ところが、自白内容がデタラメでシロだった」
「犯人になっても何のメリットもないのに、一体何が目的だったんでしょう」
「変質的な夢想家だったんじゃないか」
「変質的な夢想家という点では、日本の宮崎勤が挙げられますね」
「殺した子どもの頭蓋骨を骨董品のように扱っていたからな」
「宮崎勤は、逮捕されてからもまったく反省しなかったんですよね」
「そのようだ。宮崎勤にしろ他の犯人にしろ、まったく反省していない。それどころか、自分の両親のせいにしたり、世間のせいにしたりして同情を求めている」
「中には、警察をあざ笑うかのように、声明文や挑戦状を出した犯人もいますよね」
「まるでゲーム感覚だわな」
「しかし、幼い子どもが殺されるのは、心が痛みますよね」
「幼気な子どもをよく殺せるものだと、憤りすら覚えるな」
磯川は、少し顔を強張らせ、テーブルの上の冷めた珈琲に目を向けた。それを一旦飲みかけたが止めて、その横に置いてあった愛用のライターに手を伸ばした。そして、煙草に火を点け、徐に吹かした。
「当分、ネタには困らないですね。次回の特番も、また殺人鬼の話ですか」
「いや、次回は前回と違って、未解決事件の特集だ」
「はあ、未解決事件ですか」
「視聴者というのは、同じことを続けてやると『二番煎じだ、マンネリだ』と批判してくる。だから、残りの殺人鬼の話は、一年後にすることになった」
「そうですか。視聴率というのは、生半可なことでは取れないのですね」
「ライバル局があるからな」
「思った以上に厳しいですね」
「まあ、そういうことなんで、未解決事件に決まった。いうまでもなく、事件が未解決なので真相は分かっていない。だから、それを視聴者にも推理してもらおうということさ」
「視聴者参加型ですね」
「うん。それが狙いなんだよ」
一息ついて、珈琲を手にした小川は、テーブルの上に並べられたこれまでのリストを繁々と見た。
「未解決事件は、連続殺人や大量殺人、猟奇殺人や幼児・児童殺人のリストの中にもありますよね」
「かなりあるね」
「未解決事件で代表的なものと言えば、やっぱり『切り裂きジャック事件』ですよね」
「あの事件は、娼婦ばかりが狙われたが、残忍極まりない殺し方だった。様々な犯人説が出たが、未解決のままになっている」
「殺し方が異常でしたよね。バラバラにしたり内臓を持ち去ったりと、解剖の実験台にしたのではないかと思うような殺し方ですよね」
「後にこれを真似た事件も起こっていて、世の中に悪影響を与えた事件と言える」
「『ハマースミス殺人事件』と『ブラッドフォード殺人事件』ですね」
「他には、『ゾディアック』と『華城連続殺人事件』が挙げられる。目撃者がいるにも関わらず、犯人は捕まっていない」
「日本の未解決事件では、『世田谷一家殺害事件』が有名ですね」
「犯人がたくさんの遺留品を残していたので、すぐに逮捕されると思ったのだが・・」
「そうはいかなかったのですね」
「警察は大々的な捜査を行ったが、結局、犯人を特定できなかった。なぜ一家が被害にあったのかも、分かっていない」
「それほど、難しい事件だったのですね」
「ああ」
「犯人の異常な行動は、未解決になった要因の一つといえますね」
「通常、犯行後の犯人はすぐに現場から立ち去るものだが、そうしなかった。被害者宅に長時間居続けたようだ」
「単なる強盗殺人ではないのですね」
「キャッシュカードや貴金属類が盗られていなかったから、金品目的ではなさそうだ」
「パソコンを触ったり、冷蔵庫にあったアイスクリームを食べたり、さらに仮眠もとったみたいですね」
「並みの心臓ではできないことさ」
「犯人の本当の目的は、何だったんでしょうか」
「宮澤さんの命を狙ったのかも知れないな。そのために、彼の家族も巻き込まれた。暴走族とのトラブルによる怨恨説や宮澤さんを敵視する団体に雇われたプロの殺し屋説もある」
「その辺りが、なんとなく臭いますね」
「今挙げた事件の他にも、殺人に関わる未解決事件はたくさんある。そうでない未解決事件まで含めると非常に多くなるが、これがそのリストだ」
海外
1841年 メアリー・ロジャース事件 アメリカ 殺害 未解決
1865年 リンカーン大統領暗殺事件 アメリカ 暗殺
1929年 血のバレンタイン事件 アメリカ 大量殺人
1962年 マリリン・モンロー事件 アメリカ 自殺
1963年 ケネディ大統領暗殺事件 アメリカ 暗殺
1965年 マルコムX暗殺事件 アメリカ 暗殺
1971年 D.B.クーパー事件 アメリカ ハイジャック 未解決
1971年 林彪事件 モンゴル 飛行機墜落 未解決
1981年 ナタリー・ウッド事件 アメリカ 事故死
1982年 グレース・ケリー事件 フランス 事故死
1982年 プリンセス・ドウ事件 アメリカ 撲殺
1983年 ベニグノ・アキノ暗殺事件 フィリピン 暗殺
1985年 ダイアン・フォッシー事件 ルワンダ 斬殺 未解決
1991年 ヨアン・クリアーノ暗殺事件 アメリカ 暗殺
1997年 ダイアナ元妃事件 フランス 事故死 未解決
2004年 アラファト議長事件 フランス 毒殺
2006年 リトビネンコ暗殺事件 イギリス 毒殺 未解決
2006年 ポリトコフスカヤ殺害事件 ロシア 暗殺
日本
1949年 下山事件 東京都 失踪・轢死 未解決
1949年 三鷹事件 東京都 列車暴走 未解決
1949年 松川事件 福島県 列車脱線 未解決
1962年 草加次郎事件 東京都 爆破・脅迫 未解決
1968年 三億円事件 東京都 窃盗 未解決
1973年 金大中事件 東京都 拉致 未解決
1977年 青酸コーラ無差別殺人事件 東京・大阪 毒殺 未解決
1978年 轢き逃げ連れ去り事件 大阪府 誘拐 未解決
1981年 新宿ラブホテル連続殺人事件 東京都 絞殺 未解決
1984年~ グリコ・森永事件 兵庫・大阪 誘拐・脅迫 未解決
1985年 パラコート連続毒殺事件 広域 毒殺 未解決
1985年 豊田商事会長刺殺事件 大阪府 刺殺 未解決
1987年 朝日新聞阪神支局襲撃事件 兵庫県 射殺 未解決
1988年 名古屋妊婦切り裂き殺人事件 愛知県 絞殺 未解決
1989年 徳島県男児行方不明事件 徳島県 行方不明 未解決
1991年 悪魔の詩訳者殺人事件 茨城県 助教授殺害 未解決
1991年 千葉市女子中学生誘拐事件 千葉県 誘拐 未解決
1994年 名古屋支店長射殺事件 愛知県 射殺 未解決
1995年 警察庁長官狙撃事件 東京都 殺人未遂 未解決
1995年 八王子スーパー射殺事件 東京都 射殺 未解決
1998年 赤城神社主婦失踪事件 群馬県 行方不明 未解決
2000年 女性漫画家殺人事件 東京都 絞殺 未解決
2001年 広島一家失踪事件 広島県 一家失踪 未解決
2001年 歌舞伎町ビル火災事件 東京都 放火 未解決
2004年 茨城大女子学生殺害事件 茨城県 窒息死 未解決
2007年 女性ネイリスト変死事件 茨城県 自殺 未解決
2008年 岩手17歳女性殺害事件 岩手県 高所落下 未解決
2010年 神戸市高校生刺殺事件 兵庫県 刺殺 未解決
2011年 南相馬女子高生行方不明事件 福島県 行方不明 未解決
2013年 王将社長射殺事件 京都府 射殺 未解決
「この中には、既に時効になっている事件もある」
「解決していない昔の事件は、そうなりますよね」
「号外が出た『ケネディ大統領暗殺事件』は、犯人とされる者がすぐに逮捕されたが、護送中に射殺された。口封じと単独犯にするためと思われる」
「銃を撃った者はマフィアと関わりがあって、暗殺の裏に誰かがいると憶測されましたね」
「暗殺を命じた黒幕がね。しかし、『死人に口なし』さ。真相は闇の中だ」
「そういう意味では、未解決事件と言えますね」
「ケネディ大統領と関係があったと噂されていたマリリン・モンローも、殺されたのではないかと言われている」
「一応自殺とされていますが、違うんですね」
「彼女は、映画の主演も決まっていて自殺する理由などなかった。『彼女との不倫関係が大統領のイメージを壊す』と恐れた取り巻きが、仕組んだのかも知れないな」
「英国のダイアナ元妃も単なる事故死ではなく、殺されたと聞きました」
「比較的オープンな王室とはいえ、やはりプライドは高い。当時は、皇太子のスキャンダルがあって、それが表に出ることを恐れたための所業という説がある」
「チャールズの不倫ですね」
「また、ダイアナが親密にしていた相手が、王室にとっては気に入らない存在であったとする説もある」
「もしそうだとしたら、王室と関係のある誰かが依頼者になっていて、回りまわってパパラッチが引き受けたことになりますね」
「直接手が出せない誰かの代わりにね」
「こうして見ると、海外では暗殺事件が結構多いですよね」
「そうだな。もし犯人が逮捕されても、絶対に口を割らない。誰が黒幕なのか、明らかになることはない」
「日本では、1949年に国鉄絡みの事件が立て続けに起こっていますよね」
「組合関係者が疑われたが、真相は謎のままだ。GHQが仕組んだ組合潰しの謀略という説もある」
「GHQですか。その理由とすれば、日本の共産主義化を恐れたことが考えられますね」
「おそらくな」
「当時は、労働組合による運動が盛んでしたね」
「組合の中には、権力者側のスパイもいたようだ」
「目的遂行の為には、何でも有りですね」
「世の中では、我々が知り得ない所で醜い駆け引きが行われている」
「まさかと思うことが、たくさんあるんですね」
「この中の『豊田商事会長刺殺事件』は、一応犯人が逮捕されているが、非常に怪しい」
「殺害現場における犯人2名の様子がリアルタイムで放送されましたが、口封じのための雇われかも知れませんね」
「会長が殺されたことで、豊田商事に関する不正の真相が解明できなかったからな」
「真相は、神のみが知るですか」
「神もたまに騙されるよ」
「神より悪人のほうが一枚上手ですね」
「現状では、そう言わざるを得ないな」
「残念ですね・・」
小川は、少し薄くなった頭を右手で撫でながら力なく呟いた。
「ここには載せていないが、もう一つ大きな未解決事件がある」
「何ですか」
「某国による拉致事件だ」
「拉致事件・・。なるほど、そうですね。拉致事件がありましたね」
「1970年頃から始まり、約10年の間にたくさんの拉致被害者が出たが、その問題は未だに解決されていない」
「ほとんど目撃者もなく、手がかりもない事件でしたよね」
「ある日忽然と、神隠しのように人がいなくなるんだからなあ」
「特に若い人が狙われましたね」
「某国に連れて行かれたのなら、警察も手の打ちようがなかっただろな」
「ここにある『徳島県男児行方不明事件』なんかも、時期的に考えてそうですか?」
「父親が40秒間ほど目を離したすきにいなくなったんだから、誰かに誘拐されたと思うな」
「警察は、状況から誘拐ではなく男児が道に迷ったとして、辺りを大々的に捜索したんですよね」
「身代金の要求がなかったこともあってね」
「ひとりで山道を歩いて行ったとしても、大声で名前を呼べば返事をするはずですよね。道に迷ったとは、到底思えませんね」
「確かにね。ただ、誘拐だったとしても、某国があんな幼い子を本国に連れて帰るだろうか。ある程度の分別がないとスパイにするには不向きだし、日本の情報も得られんのだからな」
「そこは、人によって意見が分かれるところですね」
「そうだな。これ以外に、幼児の行方不明事件はたくさんある。ほとんどが未解決で行方不明のままか、遺体で発見されたかのどちらかになる」
「拉致ではなく、身内や変質者の犯行もあったのですね」
「ああ。これが幼児ではなく中高校生あたりなら、拉致された可能性が高くなるがね」
「現状では、連れ去られた人の一部しか戻っていませんよね」
「被害者の家族は、『一刻も早く返して欲しい』と願っているんだが、全く進展がない」
「日本の政治家は、一体何をやっているんでしょう」
「何もできないのさ」
「また某国の国民は、自国の工作員によって日本人の家族が離れ離れになっているという事実をどう思っているのでしょうか」
「拉致のことなど、何も知らされてないだろうな」
「嘆かわしいことですね・・」
「うん」
頷きながら磯川は、最後のリストを出した。
「最後に、『冤罪である』もしくは『冤罪ではない』といわれた事件だ」
海外
1908年 オスカー・スレイター事件 イギリス 老婦人撲殺
1932年 リンドバーク愛児誘拐事件 アメリカ 幼児殺害
1961年 A6号線殺人事件 イギリス 殺害・傷害
1973年 マイケル・パルデュー事件 アメリカ 連続殺人
1993年 ウエスト・メンフェス3 アメリカ 男児殺害
1994年 O・J・シンプソン事件 アメリカ 元妻殺害
2005年 マイケル・ジャクソン裁判 アメリカ 児童性的虐待
2007年 ペルージャ留学生殺害事件 イタリア 強姦・殺害
日本
1948年 帝銀事件 東京都 大量殺人
1951年 八海事件 山口県 夫婦殺害
1955年 五番町事件 京都府 刺殺
1961年 名張毒ぶどう酒事件 三重県 大量殺人
1963年 狭山事件 埼玉県 誘拐殺人
1966年 袴田事件 静岡県 強盗殺人
1967年 布川事件 茨城県 強盗殺人
1968年~ 小野悦男事件 千葉・埼玉・東京 連続殺人
1974年 甲山事件 兵庫県 園児死亡
1990年 足利事件 栃木県 女児殺害
1994年 藤田小女姫殺害事件 ハワイ 射殺
1994年 松本サリン事件 長野県 大量殺人
1995年 東住吉事件 大阪府 女児焼死
1997年 東電OL殺人事件 東京都 OL殺害
2003年 志布志事件 鹿児島 選挙違反
2002年 氷見事件 富山県 強姦・強姦未遂
2008年 地下鉄痴漢捏造事件 大阪府 痴漢
2009年 凛の会事件 大阪府 制度不正利用
「元妻とその友人を殺したとして、O・J・シンプソンが逮捕されたのはびっくりしましたね」
「当時は俳優だったが、それまではアメリカン・フットボールのスーパースターだったので、全米が注目したよ」
「フリーウェイでの逃走劇もテレビで生中継されたんでしたね」
「状況から有罪確定と思われたが、刑事裁判では無罪となった」
「ドリーム・チームと呼ばれる優秀な弁護士たちを彼が雇ったからですね」
「彼らは、人種問題を盾にしたんだ。この逮捕は人種差別だとね」
「ところが、民事裁判では有罪となったんですね」
「その時はもう、シンプソンに優秀な弁護士を雇う金がなかったからな」
「持っている財によって、有罪・無罪が決まるというのはアメリカならではですね」
「いや、アメリカだけじゃないよ。どこでもそうだよ。金を持っている者が勝つんだよ」
「『地獄の沙汰も金次第』ですか」
「ああ」
「でも、弁護士というのは因果な商売ですね。薄々犯人と分かっていながら、犯人ではないと弁護するのですから」
「そうだな。彼らにとって一番重要なのは、事実や正義ではなくて実績さ」
「黒を白にするという手腕ですね」
「もし、同じような事件が2つあって、一方では原告につき、もう一方では被告についた場合、まったく異なる事を言うだろうな」
「そのことを誰かが指摘しても、『仕事ですから』と言うのでしょうね」
「割り切った顔で、平然とね」
「しかし、調べると結構あるものですね」
「日本においても冤罪らしき事件がたくさんあるな」
「これなんかは、映画にもなっていますよね」
「終戦後すぐに起こった『帝銀事件』や『八海事件』だね」
「『帝銀事件』の方は、犯人は別にいて冤罪だと言われていますね」
「当時、『元陸軍関係者が真犯人』という説が有力だったが、画家の平沢貞通が逮捕されてしまった」
「運悪く逮捕の条件が揃っていたのですね」
「しかし、被害者の中で生き残った誰もが、『平沢が犯人だ』とは断言しなかった。それでも警察は、平沢を犯人だと決めつけた」
「後に矛盾が出てきても、それを無視したのでしたね」
「面子をかけた警察の意地だな」
「『八海事件』の方は、共犯とされた者たちが裁判で無罪になりましたね」
「結局、単独犯であることが分かったからね」
「この事件を基にして、『真昼の暗黒』という映画が作られたのでしたね」
「監獄の中で、必死に無罪を叫ぶ主人公が印象的だったな」
「私もかなり前に観ました」
「この事件が起こってから数年後、京都の歓楽街で殺人事件が起こるが、真犯人はこの映画を観て自首をするんだ」
「五番町事件ですね」
「事件の発端は喧嘩だった」
「たまたま通り合わせた少年たちが怪しいとされ、逮捕されたんでしたね」
「最初は無実を訴えていたが、連日の警察の厳しい取り調べによって少年の一人が自白してしまう」
「『もうどうでもいい』と思ったんでしょうね」
「しかし、自白した場所から凶器のナイフは出なかった」
「それでも警察は、少年たちが犯人だと決めつけたのですね」
「ところが、少年たちとは全く関係のない真犯人が、自ら名乗り出た」
「もし、名乗り出なかったら、少年たちは犯人のままだったのですね」
「『自白が唯一の証拠になり得るのか』その信憑性に疑問を投げかけた事件だったな」
「警察の取り調べ方が問題ですよね。過去の事件では、強要された自白で有罪になり、服役した後で冤罪を主張する人もいましたね」
「『狭山事件』だね。あれは、事件に関連する人たちが次々と死んでいく不可解な事件だった」
「無実を信じた同和団体などが、彼の救援運動を行いましたね」
「それでも、判決は覆らなかった」
「逆に裁判で無罪になっても、真相がはっきりしていない事件もありますね」
「『甲山事件』なんかがそうだ」
「西宮市の知的障害施設内で起きた事件ですね」
「そこの女児が突然行方不明になるが、その2日後にも男児が行方不明になるという異様な事件だった」
「捜索によって、二人は浄化槽の中で発見されますよね」
「二人とも溺死だった」
「事故の可能性もありましたが、警察は殺人と断定し保育士を逮捕したんですよね」
「現場の状況からね。彼女のアリバイも疑問視されていて、さらに『彼女が男児を連れ出すのを見た』という園児たちの証言もあってね」
「その後、『女児の方は、自分たちがやった』という園児の証言が出てきたのでしたね」
「『殺そうとしたのではなく、手を引っ張ったら浄化槽に転落した』という事故だね」
「園児たちの証言をどう捉えるかが問題になりますね」
「証言の信憑性だね」
「最初の園児の証言は、警察が誘導したものだという声もありました」
「だとしたら、予断による見込み捜査になるな」
「何としても、容疑者を自白に追い込みたかったのでしょうか」
「おそらくね。結局、長い裁判の末に無罪となるが、何とも釈然としない事件だった」
「『松本サリン事件』では、8人の犠牲者が出ましたよね」
「死に至らなくても、猛毒によって重い後遺症が残った人もたくさんいたな」
「後になってオウム真理教の仕業であることが分かりますが、それまでに犯人扱いされていた方は、本当に気の毒でしたね」
「自分の妻が被害者になった上、自分自身が疑われたからね」
「メディアでも、容赦なく実名が挙がりましたよね」
「『松本サリン事件』以外に、真犯人が捕まって冤罪がはっきりした事件は、『氷見事件』『地下鉄痴漢捏造事件』『凛の会事件』などがある。他は、『冤罪かも知れない』もしくは『冤罪でない』と意見が分かれる事件ばかりだ」
「『地下鉄痴漢捏造事件』は、示談金目的の罠でしたよね」
「痴漢の被害届を出した女性が、実は犯人とグルだったからね」
「警察は当初、まさか被害者が共犯だとは思ってもいなかったでしょうね」
「警察も騙されるところだったよ」
「この事件のように、冤罪であることがはっきり分かった事件は稀ですね」
「誰もが事件に巻き込まれる可能性はある。巻き込まれたときに、無実を立証しにくい状況も考えられる」
「そうなると、犯人だと決めつけられますね」
「客観的な物証が乏しいと有罪にはなりにくいが、逆に無実と断定するのも難しい場合もある」
「『藤田小女姫殺害事件』なんかは、殺害の動機や証拠が揃っているにも関わらず、逮捕された男は、未だに自分の無実を主張し続けていますね」
「『自分は手伝っただけで、主犯が他にいる』と言ってるな」
「でも、その名前を出さないのですね」
「『出すと、自分の家族が殺される』と言うんだよ」
「真相は、どうなんでしょう」
「被害者の藤田小女姫さんは、よく当たる占い師として人気があった。顧客がたくさんいて、その中には著名な政治家もいたんだ」
「現職の総理大臣もいましたね」
「そういうことから、政治の裏側のこともよく知っていたようだ」
「ということは、それを世間に知られたくない政治家の誰かが、彼女と息子さんの命を狙ったということになりますね」
「その可能性もあることはあるが、非常に薄い。もし、依頼主が政治家なら、素人ではなく玄人を雇うはずだ」
「プロなら、証拠を残さないですからね」
「大体、犯行時の防犯カメラには、彼しか映っていなかったからな」
「単なる言い逃れかも知れませんね」
「多分そうだろうな。いずれにしても、彼が犯行に関わっていたことは否定できないのであり、終身刑は当然だ」
「こう見ると、冤罪が疑わしい事件もありますが、冤罪らしき事件も結構ありますよね」
「ああ。もし冤罪だったのなら、犯人にされた人の人生が狂わされたことになる」
「そんな人は、本当に気の毒ですね」
「無実で牢獄に入れられ、最悪の場合は死刑だからね」
「潔白の叫び声が、神や仏には届かなかったのですね」
「確かにな。しかし、そんな事件がある一方で、それとは真逆の事件もあった」
「『小野悦男事件』ですか」
「そうだ。首都圏女性連続殺人事件だ」
「この事件は、異例でしたね」
「彼は、逮捕された後も一貫して無実を訴え続けた。獄中から人権団体に手紙を出し続け、その甲斐あって救援会も結成されるようになった」
「確か、文化人や弁護士、宗教関係者たちも参加したんですよね」
「裁判で無罪になって彼が釈放されたときは、冤罪のヒーローになったものだ」
「誰もが彼の無罪を信じて支援したその結果ですからね」
「ところがその後、再び彼の周りで殺人事件が起こる」
「首のない遺体が発見され、被害者は彼の同居人の女性でしたね」
「さらに、女児が首を絞められるという事件が起こり、目撃情報から小野が逮捕される。彼の家を捜索すると、裏庭から腐乱した首が出て来た」
「『万事休す』ですね」
「動かぬ証拠が出て来たんだからね」
「これを知った支援者たちは、どう思ったでしょうね」
「『どうも自分たちが間違っていたようだ』では済まされないよな。断崖絶壁に立っていて、後ろから不意に突かれて落とされたような気持ちだったろうな」
「まさかの犯人ですからね」
「誰も人を信じられなくなったんじゃないか」
「そんな心境になりますよね」
「人は、見かけだけで判断してはいけないという見本のような事件だったな」
「小野以外にも、清廉潔白を装った真犯人がいるかも知れないですね」
「いるだろうな」




















