あれから数日経過。
最後の手段は『資生堂』。
「なーんだ、資生堂があるなら 最初からいこうよ」
なんて言ってはいけない。
化粧をし始めてまだ間く、化粧マジックによる大変身を夢見ていた頃、
資生堂の素敵なCMに胸を躍らせてつましいバイト代で一式購入。
しかし肌の調子が…。
人間、期待値が高いと失望も大きいもの。
何度かこれまでも試してみたものの、どうも合わないのだ。
母に聞くと、母も同じらしくどうも世代を超えて無理らしい。
それらの経験を経て『資生堂』もの(資生堂系列含む)に
別れを告げたのである。
できれば手を出したくなかった禁じ手『資生堂』。
しかし四の五の言ってはいられない。
何しろないんだもの、化粧水が。
この街でたった一つある『資生堂』へ一縷の望みをかけて出陣。
ちょうど資生堂カウンターの周りには人がおらず、
相方とともにいろいろ物色。
おお!それらしきもの発見。
softenerって書いてある。Made in NYだけど…。
匂いきついのはそのせいか?
でもこれを試すしかないかな。
さくっとほぼ決まりかけたその時、さっきまですぐ側で
アジア系の人と話し込んでいた強烈なおばさん登場。
「何をお探しかしら?」
「あの、資生堂の方ですか?」
「ええそうよ。しせーいどのことならもちろんよく知ってるわ。
今私が話してた彼女、私の親友。彼女ももちろんしせーいど使っているわ。
でも今度中国に帰ってしまうのよ。さびしいわ~。」
資生堂と彼女の中国人の友人に何の関係あるのか不明である。
嫌な予感がした。
私が苦手とするものに見ず知らずの人との会話というものがある。
目的を持っていった場所での見ず知らずの人との
おしゃべりというのはなんかこう居心地が悪くて、
開き直って言ってしまえばもはや苦痛なのである。
美容院は髪を切りに。買い物は物を買いに。
美容院とか、買い物先ではできれば人と話さずに済ませたい。
身の危険を感じた。
さっと身構えた私のもとに、強烈おばさんはにじり寄ってくる。
「何をお探し?」
「あの・・・肌を潤わせる水のような液体を探しているんです。
あ、でも決してトナーではなく、クリームではなく。
見たところこれのようなんですが・・・。」
「ああ、これはね、肌を潤わせるためのもので、肌を柔らかくするのよ。
こちらのもののほうがより潤うけれどあなたの肌なら
これはリッチすぎるわね。そうねぇ。何に例えたら分かりやすいかしら」
例えなんていりません。
私が欲しいのは化粧水だけです。
「そう、例えるならスポンジね。
ほら、何も水を吸っていないかたいスポンジと
水をある程度すったスポンジがあるとするでしょ。
その両方のスポンジに水を吸わせるとしたら
どちらのほうが水をよく吸いこむと思う?」
「・・・ちょっと湿った方ですかね・・・」
律儀に答えてしまう自分が悲しい。
「そうよ。その通りよ。 あなたの肌もスポンジのようなものなの。
そのあなたの肌を少し柔らかくしてあげるだけで
その後に与える水分がよく肌にとりこまれるということなのよ。
それが、このsoftenerの役割なのよ。」
何が悲しくてトナー育ちのおばちゃんに
化粧水育ちの私が化粧水の講釈を受けねばならぬのか。
「さあ、ちょっとつけてみるわね。両手を出してみて。
こちらには軽めのものを。こちらにはリッチなものをつけてみるわよ。
どうかしら。」
「い・・・いいですね・・・」
「どちらがお好みかしら?
そうだわ、そこのあなた、ちょっと彼女の手を触ってみてあげてちょうだい。
どちらがしっとりしているかしら確かめてみてちょうだい。」
資生堂の周りを所在なさ気にさまよっていたところをいきなり呼び止められる相方。
言われるがままに両手を出す私とその手をそっとなでる相方。
公衆の面前で二人して一体何をしているのか。
「さあ、どちらがよりしっとりしているかしら。」
「こ・・・こっちかな」
絶対適当である。目が泳いでいる。
「どうかしら。こちらのほうがしっとりしているって
彼は言っているけれど。」
どうして肌のしっとり具合の確認に第3者が必要なのか全く不明である。
「あの、私、これまで資生堂を使って肌が荒れたことがあるんですが、
ここに置いてある商品の中で一番肌に優しいラインはどれなんでしょう。」
やっと言えた。
自分の言いたいことが。
「そうねぇ・・・。」
あからさまに商品を必死に見比べるおばさん。
「これはアルコールフリーって書いてあるからこれかしらねぇ。」
すみません、素人ですか?
「そんなあなたにはこれがお勧めよ。トライアルキット。
全部が小さくて、このラインが全て試せるの。
これで一度試してみてはどうかしら。」
「いや、私が欲しいのは化粧水だけです。
他はありますので。」
日本の約2倍も値が張るのに、そのライン全てを取り揃えるなんて。
しかもこれまで避け続けた資生堂。合わない確率大なのである。
自分の持っている乳液などと合うかどうかも重要な点であるからして
キットは必要ないのだ。
ものすごい時間と忍耐力を使った末に、その日は強烈おばさんから
小さい化粧水(どろっとした方)のサンプルを2つ受け取った。
あまりの疲労に帰りは無言で帰宅。
化粧水の探しの旅 はもうちょっとだけ続くのである。