『青べか物語』


特集「サヨナラだけが人生だ 川島雄三の世界」

「新文芸坐」で観たもう一本!

コチラも『グラマ島~』に負けず劣らずの、目も眩む程のオールスターキャスト(笑)なんですが、、全く趣向の違う作品でした。

【山本周五郎】氏の有名小説ですが、大正末期から昭和初期の時代設定を当時(昭和30年代)に置き換え脚色されたとの事☝

宜しければ、
少しの間、お付き合い下さい m(__)m


◆1962年作品(東宝・カラー)
監督: 川島 雄三
脚本 : 新藤 兼人
原作 : 山本 周五郎
撮影 : 岡崎 宏三
美術 : 小島 甚司
音楽 : 池野 成
録音 : 原島 俊男
出演 : 森繁 久彌、東野 栄治郎、左 幸子、フランキー堺、加藤 武、山茶花 究、乙羽 信子、桂 小金治、市原 悦子、丹阿弥 谷津子、南 弘子、中村 メイコ、池内 淳子、千石 規子、井川 比佐志、東野 英心、園井 啓介、小池 朝雄、名古屋 章、左 卜全、桜井 浩子


《簡単なあらすじ》

都会の生活に疲れた二流作家・先生(森繁 久彌)は、ネタ探しと静養も兼ねて、根戸川の東岸(千葉)の下流域にある浦粕を訪れた。

貝や海苔の収穫で、べか舟が水路に大挙係留する、都会とは別世界の風景が広がるこの集落、、

先生は当面の間、
増さん(山茶花 究)きみの(乙羽信子)夫婦宅の二階に居を構え、のんびりと執筆を始めるつもりでいた。


ある日、先生が岸辺でぼんやり一服していると、
一人の老人・芳爺さん(東野栄治郎)が、大声を発しながら近づいて来て、青く塗られた、おんぼろのべか舟を売り付けて来た。

この、ぼろ舟を買う必要性も、このやかましい芳爺さんに対する哀憐の情も無いが、芳爺さんに言いくるめられる様に、いつの間にか、この青べかを買わされてしまった。。

その日から、
近所の悪ガキどもが、この青べか舟を馬鹿にして、悪戯ばかり仕掛けて来て迷惑この上なかった、、

この集落では、
芳爺さんや、消防団のわに久(加藤武)、理髪店の浦粕軒(中村是好)等、他人の不幸や噂を笑い種にする下劣な町民が蔓延っていて、先生にとっては存外な場所だった。

まだ十三歳だという少女・繁あね(南弘子)は、幼い赤子を残したまま、両親共に出奔してしまい、仕方なく墓場に野宿する乞食娘で、着物も所々破け、はだけてしまい、顔や体は垢だらけ……先生は繁あねを不憫に思い食事を奢ってあげた。。

"ごったくや"と呼ばれる小料理屋「澄川」の女給・おせい(左幸子)は、先生に一方的に好意を持ち積極的に求愛するが、肝心の先生にその気はない様だ……

天婦羅屋の勘六(桂小金治)の女房・あさ子(市原悦子)は、どの男とも寝る"あばずれ"女だが、此処では、他人の女房と寝ること位は、日常茶飯事らしく、嫉妬深い勘六との喧嘩が毎日絶えない。。

洋品雑貨屋のドラ息子・五郎(フランキー堺)嫁(中村メイコ)やって来たのだが……
不思議(?)な宗教を信仰するその嫁は新婚であるにも関わらず、夜も五郎を寄せ付けないまま、性の不一致(?)でスピード離婚、、
町民からは、五郎は「おったたねぇ」不能だと吹聴される始末。。


しかし、こんな浦粕にも、
悲哀に満ちた物語があった…


↓↓…………(★ネタバレします)…………↓↓



人情話を二つばかり……

増さんの妻・きみのは足が不自由でいつも献身的に介抱する増さんの姿はハタから見ても仲良し夫婦そのものだった。
銭湯にきみのをおんぶして連れていき、増さんも女湯に一緒に入り、きみのの体の隅々までキレイに洗ってあげている。

ある晩、どうしてきみのの足が不自由になったのかを増さんが先生に打ち明けた。

昔、増さんは酒を飲んでは喧嘩に明け暮れ、家庭を顧みずにきみのへの暴力も凄まじかったらしく、、長年そんな生活に耐えてきたきみのだったが、その暴力によって、きみのの足が複雑骨折してしまい不自由になってしまった…。

その時、きみのから「どうか殺さないでおくれ」と言われ、増さんは我に帰ったと言う。

それ以来、報いを受けるかの様に、きみのの為に酒も絶ち懸命に働いて養って行くようになったのだった。。

増さんは、恥ずかしげもなく涙と鼻水でグシャグシャになった顔で懺悔でもするかの如く先生に打ち明けた。。

きみのはきっと、
ろくでもない増さんを見捨てずに生きる道を残してあげたのだと思う。。
暴力を振るう行為自体、増さんに同情の余地などないが、、抵抗しなかったきみのは、弱い女ではなく、よほど芯が強い女だったのだろう。増さんを信じ、心底愛していたのかも知れない。きみのの足は一生治ることは無いが、それでも今は、幸せを実感している様な柔らかな笑みを浮かべている。

…………

また、とある日、
先生が青べかに乗り、少し遠出をして釣りをしていた所、停泊している廃船を見つけた。。

船の持ち主・幸山船長(左卜全)はこの場所に停泊して、長年この蒸気船の中で暮らしているという。。

それは何故なのか?船長は先生にだけ訳を話した。。

それは、昔叶わなかった、儚い恋の名残、、
船長には相思相愛の熱愛関係にあった娘・お秋(桜井 浩子)がいたが、、お秋の親からは、資産家との縁談話があった為、大反対されてしまった。
已む無く親の言いなりとなり、その資産家と結婚するが、この根戸川近くに住んでおり、船長の船が此処を通るとわざわざ土手まで来て、短い間だが遠くから間接的に二人は互いの愛を確かめあっていたのだと言う。。

時が経ち、お秋は出産して子供を持つ身になったが、変わらずにこの土手で触れ合うことの無い逢引きを繰り返した。、

船長もその後、結婚して子供まで授かるが、嫁とは初めから気が合わず愛情のないまま、その数年後、嫁は早逝してしまった。

そしてまた時が経ち、出産で体が弱り病を患っていたお秋も亡くなった。。

船長は、お秋の死を知った時、激しく落ち込みもしたが、何か、いいようのない感動を覚えたと言う。。

「あの娘は、死んでオラのところへ戻って来た…」

純真な船長のロマンス。。
浦粕の町民とは180度違う(笑)素敵な話。

このいい話し二つで、作品の趣が急に変わって来るから面白いもんですね(笑)

その後、、
先生にフラれた腹いせに、おせいが若船頭の倉なあこ(井川 比佐志)と共に偽装自殺を図ってしまい、町は大騒ぎとなる。。

おせいも倉なあこも無事ではあったが、、
原因を作ってしまった先生はいたたまれなくなり、、この浦粕を去る決心をする。。

そして、訪れた時と同じ様に、、浦粕橋でバスを待つのであった。

橋は、切れ目無くトラックが往来していて後戻りは出来ない。。

先生にとっては、悪い夢でも見てるかの様な、数日間だっただろう。。

「終」

……………………………………

本作は、雰囲気的には『洲崎パラダイス赤信号』の作風に似てるように感じました。

それは、きっと主人公の男が、何かと無口で主張性の無い無気力感が漂ってる所と、女性の方はアッケラカンとして積極的である所、、そして場所は勿論違うが、オープニングとラストが橋上でのシーンである等の相似点がある為、そう思ってしまうのかも知れません。

川島監督が意識して作ったかは定かではありませんが、、『洲崎パラダイス~』同様、市井の人々の悲哀を淡々と表現しています。

最初は、やかましくてデリカシーの欠片も無い無謀な町民達にウンザリするのですが、、観ていくウチに、この人達の出自さえ気になる程に魅力的に見えて、愛着さえ湧いてしまった。(笑)

とにかく、名優達の丁々発止の罵り合いは迫力満点(笑)で圧倒されました。。(◎-◎;)

ドタバタ調ながらも、そこに人情話を淡々と挟む所等、起伏のある作品になっています。

◆根戸川とは江戸川?
◆浦粕とは浦安、、?
あくまでもフィクションですので、、私の表現にご無礼がありましても、何卒ご容赦の程お願い致しますm(__)m

今や、浦安市には千葉県の誇る(いや日本が誇る☝)巨大テーマパークがありますが、、

この、浦粕に関しても、先生にはそれまで経験した事の無い未知の世界の一大テーマパークだったのでは無いかと思いました。
そんだけ、其々のキャラが濃い~かった(^_^;)

これも、先見の明とでも言いましょうか?(笑)


◎○▲△◎○▲△◎○▲△◎○▲△


《出演の皆様について》

【森繁 久彌】さん、顎ヒゲだけを伸ばし個性的な芸術家気どりの容貌だが、無口で余計なことを言って茶化したりする様なタイプでは無い、、と言うか、人間嫌いにも見える男でしたが、それを拷問かの如くあの集落に放り込んだ所が、本作のミソだったのでしょうか。。
結局は、踏んだり蹴ったりで浦粕を逃げる様に出ていく。。大名優・森繁氏は、抑制を効かせ過ぎてる感が否めず…かなり難しい役柄であったのは間違いないでしょう……m(__)m

【東野栄治郎】さん、とにかく声が大きくてやかましく下世話な爺さん、、原作通りの役柄なので仕方なしで(笑)相変わらずの名演でした!因みに愛息【東野 英心】さんも本作で映画デビューしてましたが、、コチラは、まだまだ、暴れハッチャけて(笑)はいませんでした☝

【山茶花 究】さん、鼻につくようなイヤ~な男を演じても不思議と嫌いになれない名バイプレイヤーですが、ここまでシリアスな役柄を、私は初めて観ました。これが、また沁々としていてとても良かった!この作品の収穫の一つでした☝

【乙羽 信子】さん、その増さんの暴力が元で足が不自由になった女房、台詞も殆ど無く静かに頷くだけでも十分に不憫さが伝わりました。流石の存在感ですね!

【左 幸子】さん、この手の役柄はお手のもので、色気たっぷりに先生を誘惑するが、中々ナビかず、、最後は偽装自殺まで図ってしまうなんて、シャレになりませんよね。。(笑)

【市原 悦子】さん、"あばずれ"の色女を、とにかくエネルギッシュに演じられています!終始おみ足を露にしてセクシーでした!襖の陰から覗き見する様な家政婦らしさは微塵もありませんでした(笑)、アッパレ!

【丹阿弥 谷津子】さん、出番は一回きりですが、、赤子を産んで子供(繁あね)に世話を任せて出奔していた女……"すれっからし"っぷりを見事に演じられていました!

【フランキー堺】さん、やはり"ドラム"すこ役が良く似合ってますね(笑)!可愛らしい一人目の嫁【中村 メイコ】さんと、妖艶な二人目の嫁【池内 淳子】さん。軍配は完全に後者に上がりましたね(笑笑)、変な噂もイヤでしょうが、、芳爺さんの「五郎のノボリがオッタッタ!」の連呼も(クララが立った訳じゃあるまいし…)如何なモノか……(笑)

そして、忘れちゃならない💡
【左 卜全】さんも、非常に味わい深い役柄でした。黒澤監督の『どん底』が、それまで私の「ベスト・オブ・卜全」でしたが、本作もそれに勝るとも劣らない名演でした👍

最後に、オススメは(笑)☝

【桜井 浩子】さん、あのウルトラマンのフジ・アキコ隊員!の十代の頃の姿。とても美しい役処でした👍


次回の川島雄三監督作品は『東京マダムと大阪夫人』を、頑張って書いてみようかと考えてます \(__)

では ✋✋