『家族』


山田洋次監督の、
日本列島縦断ロードムービー!

1970年・高度経済成長期の日本、、
故郷を捨て夢を追い求め未開の地へ向かう家族。

コミカルに見せながらも、、
あまりに、厳しく悲しい出来事の連続。。

それでも、前進するしかない、家族の在り方を問う作品。。

昨年、BSプレミアムで『さくらと民子、そして・・~山田洋次が描いた家族のかたち~』というドキュメント番組で【山田 洋次】監督と【倍賞 千恵子】さんが出演されていて、倍賞さんが演じられた本作の主人公・民子という名前で、様々な家族の形を描いた三本の作品があり、その三部作を中心に回顧する番組だったのですが、、
私も番組を拝見して、この民子という女性の、さくらとはまた違った、そこはかとない芯の強さや逞しさを感じ取り、是非鑑賞したいと思っていた作品でした!

まずはその「民子三部作」最初の一本から!

◇ 1970年作品(松竹)
監督・脚本 : 山田 洋次
脚本 : 宮崎 晃
撮影 : 高羽 哲夫
音楽 : 佐藤 勝
出演 : 倍賞 千恵子、井川 比佐志、笠 智衆、前田 吟、富山 真沙子、塚本 信夫、花澤徳衛、森川 信、三崎 千恵子、ハナ 肇、渥美 清、春川 ますみ


〈簡単なあらすじ〉

長崎伊王島に住む家族、風見家の主・精一(井川 比佐志)は、島での仕事に見切りを付け、昔からの夢であった北海道・中標津の開拓村へ渡り酪農家になると一大決心した。

妻・民子(倍賞 千恵子)は、幼い子供・剛と早苗を抱え、最初は反対するも、持ち前の明るさで前向きに捉え、家族全員での移住を決意して、既に、酪農牧場を営む友人の沢 亮太(塚本 信夫)を頼りに中標津へ向かう事になった。


そして、
伊王島の人々に見送られ風見家は旅立った。



北九州の八幡を過ぎ~本土に入り瀬戸内海を沿って~まずは次男・力(前田 吟)の暮らす福山へ、、


一緒に暮らす精一の父・源造(笠 智衆)は、力が住む福山で隠居すると希望した為、途中下車して力の家を訪ねるが、、力からは、マイホームと車を買ったばかりで父一人世話をする余裕もないと打ち明けられる。

義父を不憫に思った民子は、精一に相談して、結局は源造も連れて中標津へ行く事になった。


こうして、
風見夫婦、幼児の剛にまだ赤ん坊の早苗と源造の五人での長い旅が再スタートする事になった。


新大阪駅に到着し、、東京への乗り継ぎ時間が三時間もあると言う事で、「大阪万博」見物に出掛けたが大混雑だった為、結局入場はせず外から眺めるだけに留めた。。

この辺りから早苗の様子がおかしいが…‥
東海道新幹線に無事乗り込み予定通り上野駅へ向かう…‥

この家族は無事、開拓の地へ辿り着けるのだろうか……‥?

……‥……‥……‥……‥(★ネタバレしますm(__)m)


上野駅に到着して、
精一は直ぐに東北へ向かおうとするが、
民子は早苗の具合が思わしくない為、病院で診て貰おうと、急ぐ精一を説得して、その日は旅館に一泊する事にしたのだが…‥
中々急患を診てくれる病院が見つからず、タクシーを走らせ、やっと見つかった頃には早苗はかなり衰弱していて既に手遅れだった…‥
そして、早苗はそのまま、息をひきとってしまった…‥

親の不注意から引き起こした最悪の事態に、子を持つ親としては他人事とは思えなかった。。
計り知れないショックを旅の途中で受けた家族。。


それからの旅は、
重苦しい虚無感に苛まれ、酷い疲労が家族を襲う。。夫婦はいがみ合う様になり危機的な状況になりながらも、最後は支え合い、
東北本線~青函連絡船~室蘭・根室本線を乗り継ぎ、遂に中標津へ辿り着いた。


友人・沢の自宅に到着すると、
家族は、その玄関先で、只々、安堵と疲労困憊からその場に座り込んでしまった。。

本当に、長い長い旅だった……‥


翌日、、
沢に案内され、家族が暮らす家に着き、いよいよ新たな生活が始めようと思った矢先…‥

村人が大勢集まった歓迎会の後、旅の疲れがタタッてしまったのか、源造はその夜、睡眠したまま、帰らぬ人となってしまった。。


もう一つの家族のお別れ…‥やるせなさが募る。


それから二ヶ月後、
六月になり、雪は完全に溶け、広大な平野に緑が一面に表れた頃、風見家に待望の牝牛が誕生した!

この、一頭の牝牛から、酪農家としての家族の生活が始まる。

そして、もう一つの生命も民子に宿っていた。

家族へ再び希望の光が射した瞬間、
未開の大地を踏みしめ、生命の尊さを再び感じる幸せ。

元を正せば、男の身勝手さに、家族が振り回され不幸になっていく理不尽な話で…‥
そこに同情等、要らないなんて思う方も居るかも知れませんが、、哀れかな人間は、失敗して初めて失ったモノや大事なモノに気付く事があるもので、、そこを責めてしまっては、その先の未来まで全てを否定するしかなくなってしまいます。。

事と次第によっては寛容にならなければ、始まらない事もあるようですね…‥

辛く悲しい出来事も明るい希望に満ちる時も、一緒に生きていく家族って、やっぱりいいですね。

私にも許されるならば、と前置きして…‥
「民子みてぇな嫁子さ貰って」(笑)
もう一度、暖かい家族を築いてみたくなりました。(* ̄∇ ̄)(苦笑)

★★★☆


◎○●◎○●◎○●◎○●◎○●◎○●

前半は珍道中で、、
次男・力の車に無理矢理乗り込む家族、大阪万博のシーン等、ほのぼのとして、とても楽しい。


特に、【笠 智衆】さんのリアルお爺ちゃん(笑)ぶりが最高で、大阪のレストランでビールを呑むシーンは、ホントに嬉しそうで、微笑ましく、可愛いかった!(笑)
とにかく、民子を信頼して、何でも言う事を聞く優しいお爺ちゃんでした。
因みに、笠さんの生涯出演作品数は、360本を超えられているとの事ですが、個人的に本作の笠さんは、特に秀逸な一作ではないかと思いました。


【井川 比佐志】さん、無骨な昭和男だが、父の葬儀の後「民子、俺はアホやったね…‥」と反省し嗚咽するシーンに、自分に対する怒りや悲しみが集約され、やるせなくなるが、、時が経ち、ラストで幸せそうに照れ笑いする顔は何とも言えぬ、いい顔でした!



何と言っても民子役の【倍賞 千恵子】さん❗
あっけらかんとした天真爛漫さから、どん底に落ち放心状態と化してしまう、、愛娘の死に自分を責め、青函連絡船の船中で「うち、帰りたかぁ、島帰りたか、」と弱音を吐く民子があまりにも可哀想だった。。太陽と月の様な二面性を自然に表現する、倍賞さんの演技の幅には、とことんシビレました!!

勿論、皆さん長崎に生まれ育ったという体の演技をしているのですが、(方言が正しいのかは分かりませんが)会話から何から、とても自然で本当の家族になりきっていました👍 

また、本作では、ロケ先の地元の方々も多数出演されているとの事ですが、その辺の棒読み台詞はご愛嬌ということでm(__)m(笑)





モノカラーの回想シーンは家族の時折のエピソードが散りばめられ、感慨深く涙がジワりとしました。。

それにしても、
山田洋次監督は、情緒ある風景の美しさも、さることながら、人物の何とも言えぬ豊かな表情を、余すところなく映像に投影させる事に長けていて、正に人間ドラマの巨匠だと、改めて感じました。

そして、私達観る側はその幸せを、少しお裾分けしていただいているのだと思いました。

……‥……‥……‥……‥


【花澤 徳衛】さん、悪徳地主風のスケベ爺さんも中々リアルで、民子に迫りますが、民子の方が一枚上手で、チャッカリ無利子で金を借りてしまう(笑) 昔はあんな露骨にスケベな爺さん、居たなぁ!なんて(笑)


そして、カメオ出演の【渥美 清】さん、、
かなりナーバスなシーンでの登場でしたが、しっかり爪跡を残してました!



昭和の原風景は懐かしく、とてもノスタルジックで、、昔撮った8mmビデオが押入れの奥から見つかったみたいな映像の様に感じました。

今から思うと、私が五歳時に観た大阪万博。
特に「太陽の塔」は、その後トラウマにはなりましたが(笑)、連れて行ってくれた親には感謝しかないですね!

m(__)m