『悪い奴ほどよく眠る』


2019年、本年最初の一本!

黒澤明監督が、官僚と大手ゼネコンの不正入札贈収賄事件を暴く❗

五年前に犠牲となった父の復讐の為、巨悪に立ち向かった男の末路は…‥?

現代でもアルアルな汚職ドラマを、ジックリと堪能しました!

このタイトルからすると、、
長らく不眠症の私は善人と言う事ですね(笑)

(★かなり久々の再々見かと思いますm(__)m)

◇ 1960年作品(東宝・黒澤プロ)
監督・脚本 : 黒澤 明
脚本 : 小国 英雄、久坂 栄二郎、菊島 隆三、橋本 忍
撮影 : 逢沢 譲
音楽 : 佐藤 勝
出演 : 三船 敏郎、森 雅之、香川 京子、三橋 達也、加藤 武、志村 喬、西村 晃、藤原 釜足、山茶花 究、三津田 健、笠 智衆、宮口 精二、南原 宏治、土屋 嘉男、三井 弘次、菅井 きん、藤田 進、田中 邦衛



〈簡単なあらすじ〉


西 幸一(三船 敏郎)岩淵 佳子(香川 京子)の結婚披露宴には、政財界から多くの来賓が招かれていた。



しかし、幸せ一杯の宴の筈が、、
会場は始まる前から大勢の新聞記者やカメラマン等が詰め掛けロビーに陣取り、物々しい雰囲気に包まれている。



「日本未利用土地開発公団」副総裁・岩淵(森 雅之)と娘・佳子、婚約後に岩淵の秘書となった娘婿の西、そして岩淵家の長男・辰夫(三橋 達也)らが入場し、粛々と宴がスタートするが、、


その直前に警視庁捜査二課の刑事(藤田 進)が、会場に乗り込み、披露宴の司会者だった公団の課長補佐・和田(藤原 釜足)を、ある疑惑の重要参考人として連行してしまった。。



司会の代役となった和田の上司で契約課長・白井(西村 晃)は、動揺を隠せぬまま披露宴は進められるが、管理部長・守山(志村 喬)と岩淵へ和田が警察へ連行された一件を耳打ちすると二人は、あからさまに顔色を変えた。。

また、疑惑が持たれる相手企業「大竜建設」にも、既に警察の捜査が入っており、来賓の社長・波多野(松本 染升)専務・金子(山茶花 究)も気が気ではない…‥

この公団の三人は、五年前にも新庁舎建設の不正入札事件に関与していると見られていたが、当時の課長補佐・古谷の自殺により、真相は闇に葬られてしまっていた。


宴は進み、ケーキ・カットの時間、
そこに運ばれてきたウェディング・ケーキは、その新庁舎の形をしていて、七階の一室に薔薇の花が一輪刺さっていた。そこは正に、五年前に古谷が投身自殺を図った一室であった。

一体誰が、このケーキを仕込んだのだろうか…‥?


翌日、何者かのリークにより、
「大竜建設」と公団との凡そ三十億円にも上る不正入札贈収賄の疑惑が発覚し、この大スクープは新聞各社の一面を賑わせた。


検察局の検事(宮口 精二・笠 智衆・南原 宏治)によって、和田の取り調べは進められたが、、一向に口を割らない和田は拘留期間が過ぎ釈放された。

先に拘留されていた「大竜建設」経理の三浦(清水 元)も同様に釈放されるが、出迎えた弁護士(中村 伸郎)からの社長の伝言に脅され、瞬時に走って来たトラックに身投げしてしまった。


和田も釈放後、自殺する為に公団の開発予定地である、火口に向かったが…‥

そこに立ちはだかる男…‥?

そして、翌日の新聞には、和田の自殺が報じられた。。


……‥……‥……‥…‥(★ネタバレしますm(__)m)


幼少期に兄・辰夫の不注意から起こした自転車事故により、以来、足が不自由になってしまった妹・佳子を不憫に思い、その佳子の幸せを何よりも一番に願っていた辰夫は、車の販売会社に勤めていた西と知り合い、意気投合して佳子に紹介すると、二人は相思相愛となり、トントン拍子に話が進み結婚する事になった。。

美しい兄妹愛と友情が生んだ感動の恋愛ストーリーではあるが…‥
何処か寂しげで、ゾッとする程に冷徹に見える、眼鏡ごしの西の目は何かを訴えていた。

そして、火口で和田の前に立ちはだかった男とは、この、西 幸一であったのだ。


西の父は、五年前の不正入札事件で犠牲となり新庁舎から投身自殺をした古谷で、西はその隠し子だった。。

私生児として育った西は、この父を恨んでいたが、父の理不尽な死に直面して、首謀者への復讐を誓ったのであった。


西の本名は板倉であったが、友人で仕事のパートナーでもあり、大学卒の学歴があった西 (加藤 武)と戸籍をすり替え、西 幸一として岩淵家に接触を図り見事、婿入りする事に成功した。


そして、新聞では自殺と報道された和田は生きており、西の父と同様の被害者だとして、一緒に復讐をしようと誘うが、いくら騙されようと和田はあくまで上司三人への忠誠心を崩さなかった。西はどこまでも謙虚な和田を憐れんだ。


その後、
西は、賄賂を隠している貸金庫の場所を和田から聞き出し、現金を新庁舎の絵葉書とすり替え、その札束を白井の鞄に入れ賄賂を盗んだ様に細工した。白井は、その現金を見つけた岩淵と守山に責められた上に、死んだ和田と自分しか知りえない筈の賄賂のありかを何者かに知られている事に恐怖を覚え常軌を逸して行く。
西の巧みな手法により、白井を精神的に追い込み、遂には半狂乱となり廃人と化してしまった。


順調に計画を進めていく西だが、
最初は岩淵家に入り込む為の道具の一つでしかなかった佳子の純心さに打たれ、いつしか佳子への愛情が芽生えてしまっていた。

この戸惑いで復讐心が揺らぎ、悪になりきれない西……‥


一方、
第三者の存在を嗅ぎ付けた守山は、古谷の自殺事件に恨みをもつ人間と断定し、情報を得るため古谷の妻に会いに行くと、、


古谷の隠し子の存在と、一枚の写真によって、復讐を企てる男が、西だと言う事を突き止めた。。


守山は岩淵を訪れ、その件を報告するが、それを盗み聞きした辰夫は憤慨して、ちょうど帰宅してきた西に猟銃を向け発砲するが、間一髪で西はその場から逃げ去った。


形勢が逆転するかと思いきや、、
西は、直ぐに守山を拉致して軍需工場の焼け跡の廃墟に監禁して賄賂のありかを探った。。

その後、和田は廃墟を抜け出し、西に会わせる為にと、佳子を連れて戻ってきた。


全ての内情を和田から聞いた佳子は西に「幸せです」と話し、初めて二人は熱い抱擁を交わす。その、冷たい廃墟さえもロマンチックに映る。

空腹に耐えきれなくなった守山は、遂に賄賂のありかを吐き、あとは不正を暴く為の会見を開き、岩淵達の悪行を公に晒す事で、復讐計画は終了する、その後は、警察へ自首し身柄を守って貰う予定であったが……‥

外出から戻った佳子が、西と会っていたと察知した岩淵は、辰夫が猟銃を持って西の所へ行ったと嘘を付き、睡眠薬を無理矢理飲ませ意識が朦朧とする佳子から西の居所を聞き出した。。


暫くして、
辰夫に起こされた佳子は、父に騙された事を知り、辰夫と二人で西の居る廃墟に急いで向かうが、既に西はこの世から葬られていた。。


二人が向かう途中の踏みきり事故で大破した車に西が乗っていたのだ。。それも静脈に薬用アルコールを注入され飲酒運転事故に見せ掛けた、巧妙な隠蔽工作であった。。

一人取り残された板倉は、
「何の証拠もない、俺にはなにも言えない、どうしようもないんだ」


「これでいいのかー!」と、怒りに満ちた叫びも虚しく地下に響くだけだった。。。


そして、、
副総裁・岩淵が「秘書・娘婿の事故死」の記者会見を終えると、最後まで姿を現さなかった黒幕へ電話をする。。


その時、西の死にショックを受け記憶喪失状態となった佳子を連れた辰夫が、父との縁を切ると宣言して立ち去るが、直ぐに電話に戻る岩淵…‥ほとぼりが覚めるまで、暫く外遊を命じられホッとすると、ノイローゼ気味で一睡もしていないと、この黒幕に話す。。


最後に深く一礼。。この悪人でさえもひれ伏す様な黒幕とは?

ラストには、
再び『悪い奴ほどよく眠る』のタイトル……

またまた、ラストでしてやられてしまった。

ホンモノの『悪い奴』、、
この、姿も見せない巨悪とは何者だったのだろう、岩淵自体が政界進出を目論んでいるという所からも、その政界に君臨する大物ではないか?との推測は容易に付きやすいが……

結局、この不正の真実を、公表し罪を問う事も出来ず何も解決されぬまま、事実を揉み消される…‥どこまでも私利私欲だけに生きる奴らに、背筋が凍る程の空恐ろしさを感じた…‥


佳子を愛してしまった、私情から復讐心が揺らぎ、それが致命傷となる。

復讐から愛に目覚めた男の悲しき結末、、
純情一途な娘を真の不幸に突き落とした父の罪は重いが、それを動かした黒幕は、今夜もぐっすり眠るであろう不条理に憤懣やる方ない。。

★★★★

……‥……‥……‥……‥……‥……


本作での黒澤監督の社会批判は辛辣で、
観るモノへ問題提起しています。

不正入札事件を取り上げた本作は1960年の公開で、あくまでもフィクションですが、それから凡そ六十年経っても…‥相変わらずこの様な不正事件は後を経たず、明るみに出ないだけで、日常茶飯事に横行しているのでしょうか?そして、庶民の血税で、ある限られたモノだけが私腹を肥やしているのか?真実は分かりませんが…‥

当時流行だったという、松本清張氏原作の社会派ミステリー映画とは一線を画した、黒澤監督のパワーが、迫力ある独特な映像美を生み出し、その上、シェイクスピアの『ハムレット』を意識した不条理な世界への復讐劇は、この上なくドラマチックで、只々、敬服しました。

それでも、
黒澤映画の中では、地味で評価が低いと思われる作品ですが、、m(__)m
個人的には『天国と地獄』然り、現代劇の本作が、かなり好きで黒澤映画マイベスト5には入れたいと思う作品です!

調べると、かの【フランシス・フォード・コッポラ】監督は、自身のオールタイムベストテンとして黒澤明監督の『用心棒』と一緒に本作を挙げていましたが『ゴッド・ファーザー』の冒頭の結婚式のシークエンスは、本作のオマージュとの事。ナルホド!

また、
西が吹く口笛のメロディーは、どこか素朴で郷愁さえ感じますが、、彼の憎悪の気持ちとは凡そ似つかわしくない為、最初は、その違和感に不気味さを感じさせるのですが、、後半に行くに従いその口笛は、佳子への心踊る愛情表現にかわり、次第にウキウキするような楽しげなメロディーに聴こえてくる。この辺の印象操作は見事!としか言いようがなく、『野良犬』のワンシーンで使われた対位法をアレンジして本作では、各シーンで使われていました。

そして、
ラストにもタイトルを持ってくる等のニクい演出は(笑)、如何にも橋本忍氏らしい演出の様に感じますが、、
中野 量太監督の『湯を沸かすほどの熱い愛』では、本作と同様にラストにタイトルを持って来ていて、字ヅラも「ほど」が付く等、似ているので、きっと意図的なのではと勝手に想像してしまいますが、真相や如何に?(笑)

……‥……‥……‥……‥……‥



【三船 敏郎】さんの、内に秘める復讐心
【香川 京子】さんの、辛苦を堪える健気さ
【三橋 達也】さんの、罪悪感と使命感
【森 雅之】さんの、善悪の二面性の恐ろしさ
【志村 喬】さんの、飄々と悪びれないさま
【西村 晃】さんの、小心者の狂気の沙汰
【藤原 釜足】さんの、崩れゆく忠誠心
【加藤 武】さんの、悪への苛立ちと慟哭……

本作は、適材適所に優れた俳優陣を配した、政財官スキャンダル映画の屈指の名作であると共に、日本映画の底知れぬ力と深みを感じる作品でした。

何度観ても、名作は廃れず!ですね。

◎○●◎○●◎○●◎○●◎○●◎○●

最後に、
本作も大活躍❗恒例の【三井 弘次】劇場☝
(初めてですがm(__)m)




ベテラン新聞記者という役柄ですが、、
あの高音&皮肉タップリに追及されると、
さぞ、うっとおしいでしょうね(笑)
 ホントにどの作品を観ても、唯一無二のコミカルさにハマっています❗