『華岡青洲の妻』


珍しく「日本映画専門チャンネル」にて鑑賞しました。

外科医「華岡青洲」の偉業の陰に、、
自らの命までも犠牲にした献身的な家族の物語。

中々の衝撃作、
残酷な場面等をストレートに描写していて、、(特に弱い方は)萎える場面もシバシバありますので、全ての方にオススメ出来る作品ではありませんが、、

スタッフ・キャスト共に最強の布陣で臨んだ、

渾身の一作!であると思います。


◇ 1967年作品(大映)
監督 : 増村 保造
原作 : 有吉 佐和子
脚本 : 新藤 兼人
出演 : 市川雷蔵、若尾 文子、 高峰 秀子、渡辺 美佐子、原 知佐子、伊藤 雄之助、丹阿弥 谷津子、浪花 千栄子、内藤 武敏
ナレーション : 杉村 春子


〈簡単なあらすじ〉



江戸時代中期、
妹背 加恵(若尾 文子)が、まだ八歳の時、乳母・民(浪花 千栄子)に連れられて行った先で薬草を積む華岡 於継(高峰 秀子)を見た。
外科医華岡 直道(伊藤 雄之助)の妻・於継を美しく賢い人だと誉める民の言葉をずっと忘れずに居た加恵は、大人になっても於継に対して憧れを抱き続けていた。

時を経て、今度は於継の方から、病院の跡取りとなる、息子・雲平(後の青洲・市川 雷蔵)の嫁に加恵を貰いたいと申し出て来た。
当時は身分が下と見られていた、華岡家に行く事に、些か不満だった父・佐次兵衛(内藤 武敏)を説得し加恵は喜び勇んで華岡家に嫁いで行ったのだが、、当の雲平は、京都に修行に出ており不在であった。

それからは、義父の病院の手伝いや、雲平の学費を得るために機織り等、辛く苦しい日々が続いたが、それでも於継や二人の姉妹・於勝(原 知佐子)、小陸(渡辺 美佐子)らに優しくされ、充実した暮らしだった。


そして三年が経ち、いよいよ雲平が修行から帰って来た。
すると、それまで優しかった於継は、息子への過度の愛情から、嫁の加恵に対して、激しく嫉妬して陰湿な嫌がらせを繰り返す様になって行った。

間もなく、父・直道が死去し、雲平は青洲と改名し、正式に病院を継ぐ事となる。

青洲と結ばれた加恵は、子供を授かるが、、
その頃は既に、姑の於継との仲は、より悪化していてお互いを憎しみ合う程の最悪の関係となっていた。

その後、長女・於勝(原 知佐子)が、乳癌を患い死去するが、、当時治療方法が無かった為に、身内を救う事の出来なかった青洲は、後悔の念から、実験中の麻酔の研究に没頭して行った。

それから、また幾年かが過ぎ、、
研究を重ねて来た麻酔薬が、動物実験でようやく成果を得られ、いよいよ人体実験が必要となった。

相変わらずいがみ合う姑と嫁、、
青洲の為なら命をも惜しくないと於継が麻酔薬の実験台になると言い出すが、加恵も妻として自分こそ実験台になると、、意地を張り合う二人、

青洲は、思案した結果、二人に同じ様に麻酔薬を飲んで貰う事にするが………

………………………
(★ネタバレしますm(__)m)



いきなりですが、、

大変、感動致しましたm(__)m
素晴らしい作品だと思います。

【有吉 佐和子】さんの同名小説を映画化した文芸作品ですが、伝記としての忠実性も高いとの事。。話の流れや、シナリオ等が秀逸で、凡そ三十年間の物語の、、大事な部分をしっかりと抜粋する演出と構成で、中だるみなしで、全く無駄がありません。。

増村&新藤コンビに若尾文子さんとくれば、間違い無いという事でしょうか!

1804年、今から二世紀も前、日本で始めて全身麻酔による乳癌摘出手術を行った、紀州の外科医「華岡青洲」。。

麻酔と言う歴史的な医学発明に際して、、多大な時間と労力、、そして時に、動物実験や人体実験を行い、大切な尊い命さえも犠牲にしなくてはならなかった研究に人生を捧げた一家。。

この「華岡 青洲」の成功を、美談等と呼ぶには、、悲しすぎて、痛ましくて、堪らない……



長女の於勝は、乳癌により先に他界したが、、
その後、次女の小陸も、血瘤に侵され末期の状態となる、、
加恵は、小陸を結婚もさせてあげられなかったと、義姉としての責任を悔い、看病しながら涙する。。

しかし小陸は、生涯結婚せず人生を家業に捧げて来た事に後悔は無く、むしろ良かったと言う、、
それは、姑と嫁の壮絶な関係を間近で見て来て、、自ら実験台となり失明までしてしまった、加恵の辛さは、見るに耐えられなかったからだった。。

当時の女性の人生とは、、こんなに辛く儚いものだったのか………


とにかく、雲平(青洲)に対する、姑・於継【高峰 秀子】さんと嫁・加恵【若尾 文子】さんとの関係が、、愛憎に満ちていて恐ろしい程の情念を感じる。。
意地の張り合い等と言う単純な理由等とは次元が違う、、生死をも厭わない程の緊迫感を生む、お二人の演技は凄まじかった!

青洲には将来人類を救う為に、最終的には、自分の家族を犠牲にしてまで、、やり通さなければならない責任と自負があった。

華岡青洲氏ら多くの医学者のお陰で、医療が進化を遂げ今がある。。

その陰で、支えた家族にも、、
深く感謝しなければなりませんね。。m(__)m

★★★★

冒頭でも書きましたが、、本作には、生々しい手術シーンや動物虐待とも取れるグロテスクな描写等が含まれており、、
正直言って、ビビりで、あまり心臓が強くない私は、途中で、何度か鑑賞を止めてしまおうかとも思った位でした。。

しかし、人間が生きていく為の現実に目を瞑らずに、勇気を持って(苦笑)観れた事で、最後は深い感動を覚えました。

…………………


⬆加恵役の【若尾 文子】さん、、
本作では、お色気はかなり控え目ですが、実家で姑の醜悪ぶりを吐露するシーンや失明後の抑えた演技は特に素晴らしかったです。
個人的には『しとやかな獣』『越前竹人形』の若尾さんが好きでしたが、本作は私の中で若尾さんBest1☝と思えるほどに好きな作品になりました❗


⬆於継役の【高峰 秀子】さん、、麻酔薬では無く只の眠り薬を飲まされていた事実を知り、悔しがり慟哭するシーン等は、本当に激しい憎悪と悲しみが表現された、渾身の演技でした。本作の高峰さんは『浮雲』にも勝るのでは?とも思ってしまいました。m(__)m

そして【市川 雷蔵】さん、、本作出演から二年後の1969年に惜しくも他界されていますが、、流石、映画界の大スターです!
いかにも母性本能をくすぐりそうな何とも言えない風貌、、医者としての強い眼力と家族へ向ける優しい眼差しの二面性、、母と妻が競い合ってしまうのも仕方ないですね……
 

素敵なシーン☝
オープニングの於継さんとエンディングの加恵さん、薬草畑を背景に、二人の微かに笑む美しい表情に尽きますね👍