揺れ動く日本語「推し」(名詞化動詞の意味拡張)
・「(私の)推しは高橋藍
選手です!」
というような表現が今や一般的になった。もともとの「推す」の意味は、
1. 有力な根拠を土台にして考える
2. その立場に適したものとして、その人(物)を採るように勧める。」(2020年『新明解国語辞典第八版』三省堂)
のふたつだった。
新しい意味での「推し」は、2の意味の発展で、スポーツ選手や芸能人を応援し、イベントに出かけ、グッズを買いまくる対象のことだ。広辞苑(岩波書店)の最新版は2018年(第七版)で、やはりまだ登場していない。
従来の
・彼を総裁候補として、推すことにした。
の場合は、活躍できる場に信頼できる人を連れ出し、周りの人の承認を得るというニュアンスだ。自民党や立憲民主党の総裁選挙が近づき、久しぶりによく使われるようになった。
新しい「推し」は、他の人に推薦する意味が薄れ、個人的には知らない人物を自分のテリトリーに取り込むという感じだ。スポーツの「推し」仲間では、対象とする選手が同じ同士を「同担」(同じ担当)と言うらしい。同担は仲がいいのかと思いきや、むしろお互いに張り合って避けたがることもあるらしい。この点も伝統的な「推す」との違いを感じる。
この「推し」は「『推します』の助動詞省略による名詞化」の形で使われるのがほとんどだ。新しく辞書に載せる場合は終止形(*)ではなく「推し」の形になるだろう。
(*)日本語教育界では辞書形と呼ぶ