揺れ動く日本語「心に刺さった」(受難表現の前向き用法) | MARK AKIYAMAのブログ

揺れ動く日本語「心に刺さった」(受難表現の前向き用法)

前回に続いて、受難表現の前向き用法として「心に刺さった」をとりあげる。

 

 ・学生時代、本を読んで心に刺さった言葉を紹介したい。

というような使い方で、何かの表現に感動した時に使われる。

 ・「この歌詞が刺さった! グッとフレーズ」(TBSテレビ番組)

のように、「心」が省略されることも多い。

 

 この「刺さる」も「まみれる」と同様、従来の受難表現に前向きな感動表現が加わったのだ。辞書に載っている意味は

(*)「とがったものの先が何かの表面を突き破って、中に入る」内容が多く、「感動、共感する」意味は掲載している辞書としていない辞書とに分かれる。

 この感動の「刺さる」が出現する前は「心の琴線に触れる」が大流行(はや)りだった。あまりにも一つ覚えのようにみんなが使っているので、もっと強力な言葉が求められたのだろう。同じような意味なのだが、「触れる」に比べて「刺さる」は語感が強い。

 

 ところで、筆者は中学生時代、某教師に筆者の容姿をある動物に例えられたことがあり、その時の言葉が未だに心に刺さったままだ。

この「刺さった」を、ゆめゆめ新「刺さった」意味で解釈しないでいただきたい。

 

                                        

(*)山田忠雄・他編2012『新明解国語辞典第七版』三省堂