「医は仁術」という言葉とは裏腹な、「医は算術」なんて言葉が昔からある。
(他には『薬九層倍』とか)
それを、こうも露骨に、目の前で見せられることになるとは。
いやはや、言葉がない。
鬼畜だな、コイツ。
(おかげで病棟内の看護師たちも事なかれ主義で、空気の冷たい事よ)

 


今日ぐらいは、このブログの更新はお休みだなと思っていた。
(別に休んでも構わないんだけどね)

 


病院まであと5分というタイミングで、男性から電話が入った。
明後日、木曜日の13日に退院して自宅に帰れ。
14日金曜日の検査は、自宅からおもむけ。
先ほど、回診時に、主治医からそのように伝えられた、と言う。
抗生剤を長期間投与しているので、明日、肝機能と腎機能を調べる為に血液検査をするとも言われたと。
なので、身の回りの荷物を、私が一足先に持って帰られるように、バッグを持参して欲しい。
それが、電話の内容だった。

 


私の頭の中は「?」でいっぱいになって、しばらく言われている意味や状況を飲み込めなかった。
軽くパニクった。

 


詳しい話は病室で聞くとして、そのまま病院に向かう。

 


男性の本日の体温は36.4度。
三日続けて平熱。
今朝から抗生剤の点滴も行われていない。
つまり、バイタルが落ち着いたのだから、自宅に帰れということらしい。
その後のことは、金曜日の検査結果を受けて、手術の可否を検討し、手術と決まればその時に再入院を考えましょう。
そのような話があったそうだ。

 


男性は、今に至るまで、主治医から詳しい病状説明を受けていない。
(インフォームドコンセントって言葉、ここでは何なんだ?)
その説明を求めると、そうでしたね、では回診後に話しましょうとなったそうだ。
私も同席したいと願ったが、この主治医のこと、それがいつになるか全く見当がつかない。
同席は諦めた。

 


今日の訪問で、金曜日の検査外出(のハズだったのだが)で着る服を、一式、持っていっていた。
それがそのまま、退院時の着衣に変わりそうな展開。
その他、投函されていた郵便物、昨年11月に購入した自転車関連の書類、等々をひろげて確認。
(自転車を私に譲りたいと男性たっての希望。今後のことがあるので、男性のペンで関係書類に「私に譲る」旨を、今日の日付で書いてもらった。とは言え、私は自転車を使わない人なので、所有権は私が保持しつつ、ブツそのものは必要としている人に使ってもらうことにした)

 


洗濯物を預かって、辞去。
協力者に会い、木曜日退院時に必要な車両を確保。
(金曜日もお世話になるんだが)
併せて詳しい事情説明と打ち合わせ。

 


息子さん夫婦へ、詳細をLINEで報告。

 


一気に事態は流動化。
どのような展開になるか、全く見えない。
私がかかわることなので、そうスンナリと進むわけがないとは思っていたが、よもやこのタイミングで退院を切り出されるとは、思ってもいなかった。
完全に虚を突かれた。
(外で検査を受けてこいと一時外出届けの記入を求めておきながら、同じ口で、退院を告げてくるなんて、普通は考えないよねぇ)

 

 

たぶん、病院のホンネは、死ぬんなら他で死んで、ってことだと思う。
言葉が過ぎるが、有り体に言えば、男性は、生保のお世話になっている死にぞこないの高齢者。
とてもムゴイ話だが、この病院が、それぐらい考えていても不思議じゃない。
それくらい、事が事に至れば、病院としても面倒で厄介なだけの話なのだ。
本当にムゴイ話だ。
でもこれが、この社会の現実。
そのムゴイ話に、一人でずっと向き合ってきたんだが。

 


ま、いい。
トコトン付き合うまで。

 


チョットだけ不安要素は感じていた。
3日前までポツポツと空いていたベッドが、ここ2日で全部、埋まってしまっていたのだ。
だから、私としては「男性の体温、下がらないで欲しい」と願っていた。
この病院のことだから、新たに入院を必要とする患者が次々と現れたら、もっと効率的に診療点数が稼ぐために、男性を退院させる可能性もなきにしもあらずと、薄ら感じていたからだ。
何せ、体温さえ落ち着けば、男性に必要な処置は、経過観察と輸液のみ。
それじゃ診療点数は稼げない。

(それに加えて面倒ごとを抱えたくないと考えるのも道理と言えば道理か)

 


何にせよ、明日は血液検査。
(おそらく退院させるための方便として使われるだけ。よほど悪くなければね)
明日、明後日のバイタル値によって、展開がまた変わる可能性もある。
または、病院の思惑通りに退院させられて、一晩、自己管理を強いられて、金曜日にはまた体調を崩している可能性もある。
その日は地域の拠点病院に検査予約が入っている。
もし状態に、緊急に医療管理下に置かれる必要が生じているならば、多少の無理をおしても車で運び、病院のストレッチャーに乗せてしまう手もあるなぁ〜、なんても考えたり、打ち合わせたりしたが、現実は思惑通りにはいかないんだよねぇ。

 

 

ガンだ、検査だ、手術だとなれば、身内に連絡を取って承諾を乞う。
しかし、事が病床不足となったら、男性当人にしか退院を告げない。
男性の年齢は87才だ。
発熱で3週間も抗生剤を投与され続けたんだ。
前提条件として、心臓と腎臓に重篤な持病を持つ。
再生不良性貧血でもある。
当人も、自分の最期を覚悟している。
(今日は気になる咳をしていた。大丈夫か?)

 

 

それほどまでに、体力的にも精神的にも追い込まれている患者が、「自宅へ帰れ」と退院を告げられる事例に、私は初めて遭遇した。
私の父親も、男性と似たり寄ったりで、最期は9ヶ月の入院生活をおくったが、一度として身内である私の頭を飛び越えて、主治医が父親に直接何かを宣告するということはなかったんだが。

 

 

病院のことも、主治医のことも、これはもう仕方がない。
今晩からは、出たとこ勝負の毎日になる。
(今までもだいたいそんな感じだったな)
昨晩、「今週は大変だなぁ」と、一人、冷や汗をかいていた。
加えての展開だが、いずれにせよ、最善手で即応するのみ。

 


男性には、苦しんでもらってばかりで申し訳ないが、もう少し、私と付き合っていただこう。