目の前の一人のために
身命を捧げるがごとき人生を

そのような人間になりたいと願っている
否、祈っている
強盛に祈っている


ポンと二年前の二月の記憶が蘇った

病院の帰り道
雪の降る田舎道で
一本の電話を受けた

困難な生活をおくっておられる
私よりも目上の方からの
救難の電話だった
事情はすぐに分かった
どれほど侘しい思いをし
どれほど心細くもあられただろう

問題の解決に足る力など
私にはなかった
私自身が
全く先の見通しが効かぬ
真っ暗闇の中を歩んでいるような
そんな毎日をおくっていたからだ

でも私は即座に
激励の言葉を添えて
問題の解決を快諾した
その方が
私を頼るしかないのは分かっていた
そして私にも
躊躇する理由も
ましてや拒絶する理由もなかった
極寒の二月に
身が凍えるような想いをさせることの方が
よほど罪深いと思った

その一瞬の勇気が
相手の心にも
勇気の火をともした

何にせよ困難なのは変わらない
躊躇なく
起こすべき行動を開始した

そのために逆風も浴びた
悪しくも言われた

だがだ
不思議なことに
見ている人はちゃんといた
今もって事の次第は正確には分からないが
当初のもくろみ通りの結果が
三日後には出ていた


その事件を思い出した
スッカリ忘れていた


なんだ
二年前に
もうやってたじゃん


利己的にならず
利他に徹して
さらなる大我を目指す途は
言うほどたやすくはない

しかしことに当たって
毛筋ほども己のことを考えず
身を投げ出す決断を瞬時に行えるのは
人として最も尊いあり方なんだ
私が目指す人間像は
そこにある

全ては
その瞬間に決する
人生ってのは
そうしたことの連続だ


あの瞬間の自分を思い出した
嬉しかった
感謝を覚えた


そして思った


勝った
求めずして
既に勝っていた


人間の真価は
最も困難な局面に於いて
顕著に現れる、と聞く

私にとって幸いであったのは
困難な局面との連続であったこと
常に自分と対峙するという
最も地味な闘いを
続けられたということ


これ以上の歓びと自信はない