先ほど この写真を拝見して

 

泣けて泣けて もうどうしようもなくなりました。

 

こんなに小さいのに、彼女はもう、役者という仕事がどういうことなのか

 

わかっている。

 

役者・市川海老蔵を、今日 支えられるのは 自分しかいないのだ。っていう決意が

 

小さな背中から感じられて。

 

 

 

きっと、今日のシアターコクーンの天国桟敷は、歴代の名役者が 

 

ずらりと並んで 二人を応援していることでしょう。

 

 

 


 

 

 

。。。

 

実は 姐さんも 約20年前 少し似た経験をしました。

 

「フェルメールの囁き」という フェルメールの絵画をモチーフにした

 

不思議なドラマのお仕事をいただき

 

TBSの緑山スタジオで3日間の収録が決まっていました。

 

1日目の収録が終わり、夜の10時過ぎだったと思う。

 

帰り支度をして楽屋を出たところで マネージャーに手招きされました。

 

「お父様が亡くなったので 今から病院に行きます。」

 

心不全だった。

 

夕方の休憩時間に、父と電話で たわいもない話をしていたところだった。

 

全く何も状況が飲み込めないまま

 

広尾病院の薄暗い霊安室で 冷たいベッドに横たわった父と会った。

 

どれくらいの時間そこにいたのか よく覚えていない。

 

とにかく 繰り返し こう言っていたと思う。

 

「私は 明日も朝から撮影があるので 目が腫れたら困るので泣く事が出来ない。」

 

 

 

自分の肉が斬り裂かれるような苦しさと涙を 悲しみの壺に入れて

 

私は霊安室で鉛のような蓋をした。

 

撮影が終わるまでは開けないって心に決めて。

 

 

翌朝、当然 テレビ局の人たちも共演者も みんなその事は知っていたわけで

 

でも、昨日と変わらないように普通に接してくれる事が 

 

何よりも ありがたかった。

 

 

役者の仕事って、自分が別の人間になって話をしたり動いたりするわけで

 

その別の人間を描くためには 元の自分は、波一つ立たない水面のような精神状態でなければ

 

それが上手くできない。

 

そう。

 

例えば、血だらけのキャンパスや 水でぐしょぐしょに濡れたキャンパスには

 

絵が描けないように。

 

 

私の楽屋の化粧前に 小さな袋が置いてあったことを覚えている。

 

共演していた国生さゆりさんからだった。

 

腫れた目を冷やすシートのようなものが、一つ、入っていた。

 

取り立ててメッセージのようなものも入ってなくて

 

それが ありがたかった。

 

スタジオでは 何一つ昨日と変わらず そんなことをしてないかのように普通に 

 

一緒に撮影に臨んでくれた。

 

ありがたかった。

 

 

メーク室で 辛い想いをした。

 

突然、一人の役者が 私のところへ走り寄ってきて

 

私の手を握り「お父様にお世話になった自分は辛い」みたいな事を言いながら

 

顔を歪めて涙を出そうと始めた。涙は出てなかった。

 

辛かった。

 

こっちは悲しみの壺に鉛の蓋をして 撮影に臨もうとしているのに

 

なぜ、その蓋を 無理矢理こじ開けようとするのだろうか。

 

泣きたいのはこっちなんだ。開けてたまるか。

 

その役者が離れてくれるのを ただ我慢して待っていた。

 

 

 

スタジオに入って 誰かと芝居の話をしている時の方が楽だった。

 

出番直前、セットの薄暗がりに一人でじっと立っていると

 

まるで 頭から水を垂らしているように

 

自分の意思とは関係なく 目から涙が出てきて困った。

 

じっとしていると涙が出てくるので 小さく足踏みをしていた。 

 

 

 

 

その日、確か自分の子供?が死んでしまい 胸に抱きながら

 

「安らかに天国へ行ってください」みたいな台詞を

 

延々と遺体に話しかけるという芝居をしなければならなかった。

 

どうしたって、鉛の蓋を開けなければならない瞬間があった。 

 

監督さんにお願いした。

 

「これは、二回は出来ないと思う。テストなしで 本番一回で撮ってください。」って。

 

 

姐さんは、未だに そのシーンを見たことがないです。

 

辛すぎて。

 

未だに 辛すぎて。

 

どんな顔をして泣いて、どんな声で台詞を言ったのかも覚えていない。

 

実は、そのドラマも見ていないです。

 

フェルメールの絵画を見るのも 未だに苦しいです。

 

 

 

 

役者は 因果な商売。。

 

 

この「フェルメールの囁き」は 海外で高く評価され

 

幾つかの賞を獲ったと、最近 知りました。

 

このシーンの、この涙だけは

 

世界中のどんな名優の演技よりも 本物の涙だったこと。

 

役者としては ありがたかったことなのかもしれないのです。

 

 

 

 

因果な仕事です。