※このお話はドラマ「ランチの女王」の登場人物による創作です。この先をお読みになる方はあらかじめご了承ください。
なつみは最初驚いた様子だったが、いつもの明るく軽やかな雰囲気とは違って真剣な光四郎を感じ、そのまま目を閉じてキスを受け入れる。
唇をほんの数センチ離したと思えば顔の角度を変えてキス。キス。キス。なつみは今、唇が重なっているのか離れているのかさえも分からなくなる。
息を吐き出したその隙間から光四郎の舌が入ってくる。考える余裕もないくらい光四郎に翻弄されていると、触れられているかどうか分からないほどのタッチで背骨をツーっとなぞられた。
思いがけない刺激に声が漏れるも、唇が塞がっているため声にはならなかったが、その反応で我に返った光四郎が唇をゆっくり離す。
「ごめん、つい触っちゃった。でも、なっちゃんとは今まで付き合った人たちみたいなお気軽な関係になりたくないから、約束する。なっちゃんが良いって言うまでは、キス以上はしない。」と真剣な表情でなつみに言う。
「今までの俺を知ってるだろうから信じられないかもしれないけど、今回だけは本気なんだ。俺の本気、伝わってる?」と光四郎が少し不安そうに聞くと、「それはまだよく分からないけど…でも、好きでいてくれてるのは分かるよ。それじゃダメ…かな?」と少し上目遣いで光四郎を見る。
「そんな可愛い顔されたらダメって言えないじゃん。」とふわり、となつみを抱きしめる。「まぁ、これから嫌というほど味わうことになるだろうからいっか。覚悟しててね、なっちゃん。」ギュッと力を入れて身体をくっつけたかと思うと、なつみの耳たぶを甘噛みし、耳元で「逆に許可さえくれれば、今からでもそれ以上のことするから…いつでも言ってね。」と吐息混じりに囁く。
なつみはバッと立ち上がり、「それ以上はしないって言ったじゃん!」と声を張るが、顔や耳、首筋までも真っ赤に染まっている。「もう、先に帰ってるからね!」と回れ右をしてぎこちなく歩いていくなつみを見て、「こんなことで真っ赤とか可愛すぎない?」とふふっと笑う光四郎。「置いてかないでよ!」と大声を出すとなつみはピタッと止まり、くるっとこっちを向いて早く早く、と手招きをする。
光四郎は立ち上がるとなつみの傍まで駆けていき、なつみの腰に手を回す。ギョッとしたなつみは光四郎の顔を訝し(いぶかし)げに光四郎の顔をじーっと見つめる。光四郎はしれっとした顔で「俺の中では全部キス以下だよ?だからなっちゃん、覚悟しててね?」と言い放ち、キラキラな笑顔をなつみに向け、チュッと頬にキスをした。
唖然(あぜん)として固まるなつみの腰を抱いたまま、ニコニコとなつみを見つめる光四郎。そんな光四郎を見てなつみはふふふ、と表情が和らいだ。
その時「こら、お前たち何してるんだ。」と前から見知った声がする。2人ともそちらを向くと勇二郎が立っており、なつみと光四郎の顔を交互に見たあと、「腰に手を回し、あまつさえキスだと?離れなさい!」と光四郎となつみの間に割って入った。「ほら、皆あっちで帰る準備をしてるんだ。お前たちも手伝いなさい。」と2人を促す。
光四郎は「ちぇ。せっかくなっちゃんといい感じだったのに。」と勇二郎に向かっていーっと歯を見せたかと思うと「どうせ勇兄のはヤキモチでしょ。ヤキモチも拗(こじ)らせると可愛くないよ?」としれっと言い放つ。
「なっ、お、お前…!」と言葉にならない勇二郎を置いてけぼりにして、光四郎は自分の上着を脱いでなつみの方にかける。「なっちゃん、身体冷えてきてるからこれ着といて。」
なつみはニコッと笑って「あったかーい!光四郎くん、ありがとう。」と言い、モソモソと袖を通す。勇二郎は何か言いたそうにしているが結局何も言葉に出来ず、「ほら、行くぞ。」とくるっと振り返り、歩き始める。
勇二郎の目がなくなった途端、光四郎はなつみの手を握り、あれよあれよという間に恋人繋ぎに変える。なつみは幸四郎を見て、次に勇二郎を見る。勇二郎が気付いてないことを確認すると、ホッと息を吐きながら繋がれた手を振って離そうとするが光四郎がギュッと握っているため離れない。
「なんで?やだよ。」と繋いだなつみの手の甲にそっと口づけをする。
「覚悟してね、って言ったじゃん。まだまだこれからだよ。」と当然のように言う光四郎とは反対に、なつみは真っ赤になりうつむきながら、これからどうなるのか…と心臓がドキドキするのだった。