※このお話はドラマ「ランチの女王」の登場人物による創作です。この先をお読みになる方はあらかじめご了承ください。











「なつみさん、ここにいたんだ。」純三郎は安心したような顔で、手に持っていた薄手の毛布を広げてなつみの肩にかけた。「そんな薄着じゃ寒いでしょ。風邪引くよ。」


「純三郎くん…探してくれてたの?」なつみが言うと、「なつみさんのベッド、もぬけの殻なのに上着が置いたままだったから。もしかして、どこかで寒がってるんじゃないかと思ったら心配でさ。」といった後、気付いたように「あっ、あのね、ベッドも覗こうと思ったんじゃないんだよ、たまたま目に入っただけで、決して…」 と慌てふためく。


なつみはふふっと笑い、「本当かなー?怪しいぞー。」とニヤニヤしながら純三郎をじーっと見ると、観念したように「本当はちょっとだけ覗きました。なつみさん、ごめんね。」と苦笑いしながら頭をガシガシと掻(か)いた。


「いいよ、覗いたことはこれでチャラにしてあげる。」と毛布の端を持ちながらヒラヒラと動かした。純三郎はパッと表情が明るくなり、「良かった。ありがとう。」と笑いながらなつみの隣に座った。


「ところで、こんなところで何してたの?」と純三郎が尋ねると、なつみは「早くに目が覚めちゃったの。ほら、仕込みの準備のために起きてるから身体が覚えちゃったみたいで。だから外の空気でも吸おうかなって。」足をぶらぶらさせながら言う。


「そっか。なつみさんももう、立派にうちの戦力だもんね。」と純三郎は嬉しそうに笑い、「そう言われれば、なつみさんがうちに来てから4ヶ月経つのか。」と指を折り曲げて数えている。


「うーん。まだ4ヶ月、って感じもするし、もう4ヶ月、っていう感じもするなぁ。」空を見上げながら感慨深そうになつみが言うと、純三郎は「色々あったからね。」と苦笑いする。


「迷惑ばかり本当にごめんね。」しゅんとした顔でなつみが言うと、純三郎はふんわり笑って「そう言う意味じゃないよ。濃密な4ヶ月だった、って意味だよ。何より…」


「何より?」


「なつみさんに会えた。俺、今年の夏のこと、多分一生忘れないと思う。」表情は柔らかいが真剣な眼差しでまっすぐなつみを見る。


「今までに何人か付き合ったことあるけど、どの人とも長く続かなかったんだ。店のことで毎日忙しくて、終わったらくたくただからデートの誘いを断ることも多くて、最後はいつも振られてた。振られるのは悲しいけど店のことで忙しいから仕方ないな、って思ってた。でも、違ったんだ。なつみさんと出会って違うって分かったんだ。」


「…何が違うの?」


「付き合いが長く続かないのは、店のことで忙しかったからじゃなくて、俺がその人のことを店や料理よりも好きになれてなかっただけだった、ってこと。なつみさんのこと好きになって初めて気付いた。」


純三郎の告白は続く。


「なつみさんのこと、ずっと頭から離れないんだ。一緒にいる時はもちろん、一緒にいない時も『なつみさん今何してるんだろう』とか、美味しいものを食べると『なつみさんこれ好きだろうな』とかさ。親父のデミグラスソースをきちんと引き継げたのも、なつみさんの『美味しい』をまた聞きたかったからなんだと思う。」そう言って純三郎がなつみを見つめると、なつみも純三郎を見つめ返す。


すると、今までの真剣な眼差しからふっと優しい表情へ変わり、「仕込みをしてる時も、料理を作ってる時も、いつもここになつみさんがいるんだ。」純三郎は自分の胸に手を当てた。


「嬉しい時も、悲しい時も、楽しい時も、辛い時も。どんな時だってなつみさんがいる。仕事でくたくたになった時こそなつみさんの笑顔が見たいんだ。どれだけ大変なことがあっても、なつみさんが笑ってるのを見るとそれだけで疲れなんて吹っ飛ぶ。あぁこれが好きってことなんだ、って初めて知ったよ。」


満面の笑顔で純三郎は笑う。


「なつみさん、大好きだよ。」