※このお話はドラマ「ランチの女王」の登場人物による創作です。この先をお読みになる方はあらかじめご了承ください。











そこには勇二郎が立っていた。「こんな時間に何やってんだ、あんたは。」


「勇二郎さん…」


両手にステンレスコップを持っており、右手の分をなつみの方に差し出す。「寒いだろ。これでも飲め。」なつみが両手で受け取ると湯気がふわふわ立っているホットコーヒーで、手のひらからじんわりと温かさが伝わってくる。


「わぁ、あったかい。ありがとうございます。」なつみが勇二郎に向かって微笑むと、勇二郎もホッとしたように微笑み、なつみの隣に腰掛けた。


「風邪でも引かれたら困るからな。」なつみの座る背もたれに手を回しながら足を組む。距離はグッと近くなったが勇二郎の視線は景色を見たままだ。なつみはズズっとコーヒーをすすった。コーヒーの香りが鼻腔をくすぐり、おなかの中からじわじわ温まっていくのを感じる。


「おいしっ。」なつみは顔をくしゃっとさせ笑う。勇二郎はその顔を見ながら「あんたは何かを食べてる時が一番可愛いな。」となつみを愛おしそうに見つめながら呟く。


「何か言いました?」きょとんとした顔で勇二郎の方を向く。ぎょっとした勇二郎は「い、いや。気のせいだろ。」とそっぽを向き、コーヒーを飲む。なつみは特に気にする様子もなくコーヒーをちびちび飲んでいる。


「あの時…」と勇次郎が口を開く。「ん?」なつみがコーヒーを口に含んだまま勇二郎を見る。「あの時、健一郎が帰ってきてなけりゃ。あの時、俺の航空チケットをあんたが引いていれば。今頃俺たちは夫婦だったのか、なんて想像しちまうんだ。女々しいけどな。」勇二郎が背もたれに身体をドスンと預け、ため息をつきながら天を仰ぐ。なつみはゴクっとコーヒーを飲み込むと「…なんだかすみません…」としゅんと小さく縮こまる。「いや、あんたは悪くない。悪くないんだ。」勇二郎が慌てて座り直し、「それに、まだ諦めないといけないわけでもないしな。」と自分に言い聞かせるように言う。


なつみは縮こまったまま、目だけでちらっと勇二郎を見る。「どうして…私なんですか?勇二郎さんだけじゃなくて、純三郎くんも光四郎くんも。みんなかっこよくて、優しくて…。私じゃなくてもみんなモテるのに…どうして私なんでしょうか?」