※このお話はドラマ「ランチの女王」の登場人物による創作です。この先をお読みになる方はあらかじめご了承ください。











なつみは目が覚めた。今何時だろう?枕元のスマホを見ると午前4時半。仕込みのために起きる時間とほとんど同じだと気付く。あぁ、だから自然に起きちゃったんだ。身体が覚えるほどキッチンマカロニで過ごす時間が長くなったと実感でき、なつみは嬉しくなった。


せっかくだから少し風に当たろう。みんなを起こさないようにそっと寝袋から出て入り口から外に出る。


周りに照明がほとんどないが早朝ということもあってほんのり明るく、山の朝はぐっと冷え込むため肌寒く感じる。


長く居ると風邪ひいちゃうかも。少し歩くと見晴らしのいい場所を見つけ、そこのベンチに腰掛ける。遠くの山の縁(ふち)が少しだけ光っており、徐々に太陽が昇ってきていることが分かる。


今日はどんな楽しいことが待ってるんだろう。なつみはわくわくした気持ちになった。


1日が始まることが楽しみと思える日が来るなんて、2年前には想像もつかなかったなぁ。過去をそう振り返れるぐらいには今のなつみの心は満ち足りている。



修史は私のことだけは絶対に裏切らない。それだけを信じていた、2年前のあの時までは。その唯一の信頼を修史本人にぶち壊され、それからは色のない世界にいるようだった。


信じていた恋人に裏切られたショックから誰のことも信用できなくなり、今までつるんでいた仲間とも徐々に疎遠になった。もともと家族はいない。目標もなければ希望もない。一緒に居たいと思える人も、ここに居たいと思える場所もない。何もなかった。


ただただ毎日が過ぎゆく。その中で美味しくて安いランチに心を救われ、生きる希望が少しだけ湧いた。


それなりに働いて、もらったお金でランチを食べる。美味しいランチを食べる時だけは世界に色が戻ったような気がした。

私の人生はそうやって何ヶ月、何年、何十年と過ぎていくんだろう。そう思っていた。



そんな私にも、一緒に居たい人だけじゃなくて帰る場所まで出来るなんて夢みたい。毎日が楽しくて、嬉しくて、幸せで。


一緒に居たい人。そう言われて浮かんでくる顔がひとつある。そして、その人が自分のことを好きだと言ってくれているのも知っている。だが、他の兄弟2人も同様に自分を好いてくれている。


誰かを選ぶということは誰かを選ばないと決めること。私のせいで兄弟仲が悪くなったら。お店の運営に影響が出たら。そんなことになったら申し訳なくてここには居られない。それは絶対に嫌だ。


あの人が自分を好きだと言ってくれている。それだけで良しとしなくちゃ。それだけでも十分に幸せだから。


「これ以上何も望むものはないなぁ。」なつみは少し寂し気だが満足そうに呟く。


その時、背後で物音がしたのでなつみは反射的に振り向いた。