社員に対して還元するという意識は皆無。
何が「人財」なんだか。
きれいなスローガンだけ掲げて、実態は「人=コスト」としてしか見ていない会社がある。
そういう組織は、目先の人件費を削ることで、短期的には「スリム」になった気がするかもしれない。
でも、その裏で静かに失っているものが、どれだけ多いかには、なかなか気づかない。
最近、個人的に「これは末期だ」と感じた出来事がある。
休憩時間に12:05に席を立ち、13:05に戻ってきた。
きちんと1時間で戻ったにもかかわらず、
「契約書には12:00からって書いてるだろう!」
と呼び出され、罵倒されたことがある。
たった数分に目くじらを立て、昭和時代のようなパワハラ・モラハラを平気で行う管理職。
この出来事を俯瞰的に見たとき、「この会社は、人を大事にする感覚をとうの昔に失っている」と、逆にこちらが危機感を覚えた。
こうして、会社側が「コスト管理」名のもとに、権威主義を振りかざし、人の尊厳を少しずつ切り詰めていくとき、実は、最初に傷つき始めているのは会社自身の体力であることに気づいていない。
人をコストとして扱う会社は、最初に何を失うのか。
人件費を「削る対象」としか見なくなった組織は、
目に見えないところから、じわじわと大事なものを失っていく。
- プロジェクトを前に進める推進力
人を減らしても、プロジェクトの数はそのまま。結果、「やりかけで止まる仕事」が増え、本来将来得られたはずの利益や成果が、静かに消えていく。 - 一つ一つの業務の精度
少ない人数で多くの業務をカバーさせれば、精度は確実に落ちる。
ミスが増え、クレームややり直し対応が増え、そのフォローにまた人と時間が奪われる。 - 仕事と報酬のバランス
「やってもやっても給料が変わらない」「責任だけが増える」という状態が続くと、優秀な人から順番に、転職が“合理的な選択”になる。 - 残る社員の希望とモチベーション
頑張る人ほど疲弊し、「自分もここでは報われない」と学習してしまう。
昇給や昇進への期待は薄れ、「惰性で居るだけ」の社員が増える。 - 組織としての体力
コストを削って一時的に軽くなったように見えても、
実際には必要な筋肉まで削ってしまったダイエットと同じ。エネルギーがなく、非活動的な「やせ細った会社」になっていく。 - トラブルに耐えられる余力
無理な節約を続けた結果、いざトラブルが起きたとき、炎上した現場を鎮めるために追加のお金と人を投入せざるを得なくなる。結果的に、以前よりも多くのコストを支払う体質へと変わってしまう。 - 会社への信頼と評判
スキルの高い人間から順番に去り、
「ここは人を大事にしない会社だ」という評判は、静かに、しかし確実に広がっていく。残ったのは、「安く、言われたことだけをやる人たち」と、“元の力には二度と戻れない組織”だけになる。
結果的に、会社は体力を失う。
まるでダイエットをしすぎた人のように、エネルギーがなく、非活動的になる。
しばらくこの「切り詰めた状態」を続けたあと、やがて限界がくる。
そう、まさしくリバウンド。
あまりに切り詰めすぎた結果、最も根幹の基礎業務にも支障をきたすようになる。
プロジェクトや新しい取り組みを置き去りにしてきたこと、人が少ない状況でのリスクを軽視してきたツケが、一気に回ってくる。
一度ケガをすると治りが遅くなり、ケガ状態が慢性化した体がついに限界を迎えるように、会社もまた、慢性的なダメージから簡単には立ち直れなくなる。
トラブル対処に追加のお金を支払い、炎上している場所を鎮めるために人を入れる。
その結果、以前よりも多くのコストを支払う体質に変わってしまう。
しかも、スキルの高い人間が積極的に転職したことで、
組織としての出力は、もう元の水準には戻らない。
人を「コスト」だけの物差しで測る会社は、
もう片方の大事な部分を見逃している。
給料や支払うコストは、人の価値そのものではない。
会社から返せるものは報酬だけかもしれない。
でも、報酬だけで人の価値を測ることはできない。
それに、人だって会社を値踏みする。
コスト削減ばかり考えていると、いつの間にか、会社のほうが「選ばれない側」に回ってしまう。
人が会社から失うのは、報酬と仕事だけだ。
代わりの報酬と仕事は、人によってはとても簡単に手に入る。
だが、会社が失うものはもっと多岐にわたる。
ノウハウ、関係性、信頼、文化....その他、目に見えないもの。それらは、一度手放したら、そう簡単には戻ってこない。
人体のように「どれだけ冷遇しても一生付き合ってくれる」わけではない。
冷遇された部分は、自らの意志で、すっと抜けていく。
交換も、適合も、案外容易。
企業が人件費削減を考えるとき、報酬分の金額と引き換えに、目に見えないものを削っている。
ただ、そんなことも分からなくなるまで、経営サイドも現場も、プレッシャーに追い詰められているのかもしれない。
だからこそ、 「人件費」に関するリテラシーは、日本全体で上げていった方がいい。
企業側も、働く側も。
人を「コスト」ではなく、「一緒に価値をつくるパートナー」として見られる会社だけが、これからの時代も、生き残っていくのだと思う。
