この日は、もつ焼きで旨い日本酒が飲みたかった。
その欲求を満たしてくれるお店が、飯田橋にある。
だから、仕事を終えると、俺は飯田橋に直行した。
しかし、いざ店に着いてみると、いつもは灯っている提灯は暗く、窓からのぞく店の内部も暗かった。
そして、ドアにはこんな張り紙が貼られていた。
ついでにこんなのも。
まったく当てが外れてしまった。
しかし、俺は前向きな男。
臨機応変、対応ができる。
それに、酒飲みは二店、三店、代替候補を用意しているものなのだ。
幸い、もつ焼き酒場の隣は沖縄料理の店であった。
過去に何度か訪れ、泡盛のボトルもキープしていた。
俺は、久しぶりに、そこを訪れることにした。
店に入ると、お店の女将さんは、俺を覚えていてくれていた。
「久しぶりねえ、何年振りかしら?」
「2年ぶりくらいですかねえ。」
正直、最後に来たのがいつだったか思い出せなかった。
とりあえず、オリオンビールを頼み、自分のブログをチェックした。
それによると2020年の3月6日に、この店のことを書いていたのが最後だった。
ブログをやっているとこういう時便利だ。
ブログは実際より2週間くらい遅れているから、2月の半ばくらいに訪れていたのだろう。
いずれにせよ、およそ2年半、ご無沙汰だったわけだ。
俺がこの店で注文する料理はほぼ決まっている。
海ブドウ、パパイヤチャンプル、じゅう。
じゅうとは豚の尾っぽの煮込みである。
この日は、それら以外にもモツ煮も頼んだ。
久々の海ブドウ。
俺が東京で海ブドウを食べるのはここだけだし、沖縄にも3年以上行ってないし、つまり、これも2年半、食べてなかったわけだ。
なんだか懐かしすぎて、箸を持つ手が震えた。
モツ煮はちょっと塩気が強すぎたかもしれない。
その時入れてあったボトルは、当然ながらすっかり流れていた。
新たにまたキープした。
「宮の華」という古酒泡盛だ。
女将さんは、「宮の華」のボトルとロックグラスと、氷の入ったアイスペールを俺の前に置くと、店の奥の戸棚からノートを取り出し、そこに何かを書き込んだ。それから何やらノートのページをめくりはじめた。
何ページかめくったところで、おもむろに顔を上げると、
「2019年の12月18日に、しまの風っていうのを入れたのが最後ね!」
と言って笑った。
ノートは、ボトルキープの管理帳だった。
ボトルに入れた日の日付を書いて終わりかと思ったら、ちゃんと別にノートにも記載して管理されていたのだ。
俺は妙に感心してしまった。
安定のパパイヤチャンプルー。これも2年半ぶりだ。
パパイヤのみでなくちょっと豚肉も入っているのが嬉しい。
最後はじゅう。
渋谷の台湾料理屋でも似たようなものを食べられるが、やはり味付けが異なる。
どちらも美味しく、甲乙つけがたい。
いや、比較するようなことではなかったか。
豚の尾っぽの料理と言えば、祐天寺のもつ焼き酒場でも食べられる。
もつ焼き酒場には振られたが、おかげで久しぶりに沖縄料理を満喫出来た。
終わりよければ全てよしだ。
ボトル、流れる前にまた来よう。