二度あることは | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

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残念ながら、このお店は、この日をもって終了してしまった。

 

かつて奥沢にYという主に青森郷土料理を出す居酒屋があった。

とらやの兄貴が、その店のご常連で、我々飲み仲間は彼からその店を教えてもらった。

とらやの兄貴はそこをアジトと呼んでいた。それに従い我々もアジトと呼んだ。

アジトには時々仲間内で集まって宴会を開いていたのだが、そのアジトがビルの老朽化で店を閉めざるを得なくなってしまった。その話を聞いた時には、ええっ!と心底驚き、悲しんだものだった。

それからというもの、それまでは数か月に一度だった飲み会が、月一になった。

我々は毎月足繁くアジトを伺った。

紆余曲折あって、当初の予定より閉店は延びた。

もう今日が最後か、と覚悟して臨んだ最後のはずの飲み会の日、女将さんから、

「実はね、お店、まだ続けられることになったのよ。」

と聞かされた時には、これまた「ええっ!」と驚き、夢か?と頬を抓ったものだったが、喜んだのも束の間、それから数か月後、閉店の時期は訪れた。

早いもので、閉店されてから、もう一年以上になる。

最後の最後、店を閉める際、大将は、「もう新しく店を出す気はないよ、故郷の青森に帰るよ。」、とおっしゃっていたのだが、なにが心変わりさせたのかは、わからないのだけれど、青森には帰らず東京に残り、お店を開きこそはしなかったが、同様の青森系居酒屋で、料理人として働かれていた。

それを教えてくれたのもとらやの兄貴だ。

「いい店がある。」とだけ聞かされて、ある居酒屋に連れていかれたのだが、そこで、出てきたお通しに、俺は「あれ?!」となった。

どうも見覚えのある料理に思えたのだ。

そして口にしてそれを確信した。

そう、これは、アジトの大将の料理だ!

と同時にひょっこり厨房から大将が姿を現せた。

まだ詳細を知らなかった俺は、

「なんだよ、大将、店もう出さないとか言って、出してんじゃん!」

などと文句を言ったものだが、実際は、大将が店を出したのではなくて、店に雇われていただけだった。

しかし、それでも、これで今後も大将の料理にありつけると、胸を撫でおろし、喜んだものだった。

が、結局のところ、その後、店を伺うことは無かった。

店は俺の家の近所とは言えなかったし、伺うからにはとらやの兄貴も一緒じゃないと悪いような、そんな気がしたのだ。

そんな折り、丁度とらやの兄貴から連絡が入った。

アジトの大将がいる居酒屋でまた飲み会を開きたいと思うが、どうか?の旨がメールには書かれていた。一も二も無くOKだったが、最後までメールを読んで、またも「ええっ!」と驚愕した。

なんと、今度の店ももうすぐ閉店してしまうという。

飲み会は営業最終日に催されるとのことだった。

その営業最終日、俺は妻と例の店へ向かった。

十数名集まっていた過去の会に比べると、ちょいとこぢんまりとした会だったが楽しい飲み会だった。

途中、大将も厨房から出てきて、一緒に飲んだ。

店の最後ということもあったのか、冷蔵庫の中の食材を皆使い切るかの勢いで、次から次へと料理がでた。

それから、これも、もう店も終わりだからと、日本酒の持ち込みも許してもらえ、近所の酒店にいって、よさげな日本酒を何本か買ってきた。

そして例によって例のごとく、俺は調子に乗って飲みすぎてしまい、後半、ほとんど記憶がない。

 

目覚めると、自宅で、俺は起き上がると、キッチンに行って冷蔵庫を覗いた。

おぼろげな記憶ながら、最後大将とハグをし、その時大将がなにかお土産にくれたようなおぼえがあった。

それともあれは夢だったか?

今までの例からすると、俺が胡瓜好きなことを知っている大将は、別れ際、お土産に胡瓜をくれたものなのだ。

俺の朧げな記憶が正しく、やはり今回もなにかお土産を貰って来たならば、それはやっぱり胡瓜だろう。

しかし、ドアをあけて中を覗いたものの、胡瓜の姿は見えなかった。

じゃあ、あれはただの俺の夢だったのか?

「おーい、昨日、大将から胡瓜貰ってこなかったっけ?」

居間にむかってそう声を張り上げた俺に、妻がどたどたと駆けつけてくると、おもむろに冷蔵庫の奥から何やら袋を取り出し、それをツンツン指先で突つきながら言った。

「カニなら、カニならありますから!」

 

実は胡瓜も貰ってきていた。

胡瓜は冷蔵庫の一番下の野菜室に入れられていた。

飲み会の翌日は日曜日で、俺は、朝から胡瓜と蟹をつまみに酒を飲んだ。

そして思った。

店はまたもなくなってしまったが、ことわざにもあるじゃないか。

三度目もきっとくるさ。

 

 

P.S.とらやの兄貴、奥様、k姐さん、むぅ氏、その節はありがとうございました。また、飲みましょう!宜しくお願いします。