GHKR | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

電車の中で食べようと思ってビールとともに購入した、普段は手を出さないような高級(俺にしては、)帆立燻製缶詰、缶切り不要なことはありがたかったが、例え缶を開けられてもその中身を食べる手段が自分の指しかなく、食べるのを諦めざるを得ないという状況は、結果的には吉と出た。
誰かも言っていたが、ビールだけ飲んでる分には、胃は満たされることは無い。
胃に入ったビールは、その場は胃を満たしたかに見えるがすぐにそれは吸収され、尿として出てしまう。生化学的なアルコール代謝のことは置いといて。
そんなわけで、甲府駅に降り立ち、トイレで膀胱にたまったものを排出してしまうと、若干酔っている事を別にすれば、俺の胃はすっからかんだった。
時として、目的地についたものの既に満腹、
「もう、俺、喰えないよ。」
と、こちらは飲まず喰わずで空腹感絶頂のマリイに、つい口を漏らし、
「はあ、オマイさん、なに言っちゃってんの!」
とマリイの逆鱗に触れることも度々あったが、今日に限ってはその心配は無用だった。
全然普通に食べられる。
時間的にも丁度昼時だった。
「どうするよ?なんか食べ行く?」
訊ねた俺に、マリイは言った。
「そんなの決まってるじゃん。GHKR!だよ。」
「GHKR???」



「GO・HAN・KU・RE!」

数字でかくと5890.
甲府駅前の鰻屋さんだ。
以前甲府に来たとき知って以来、そこはすっかりマリイのお気に入りだった。
大袈裟かもしれないが、
「ここの鰻食べにくるためだけに、甲府に来るのもありなんじゃね?!」
と言われても、「そうさのう。」、とこっくり首を縦に振ってしまうくらい、そこは我々にとっては旨い店と記憶付けさせられていた。



山梨ではみな鰻をこうして食べるものなのか、それともこの店だけに限った食べ方なのかわからないが、少なくともこの店では、鰻の吉田味噌焼きという、他ではあまり見ないものが頂ける。
鰻が吉田味噌という甘辛の味噌で焼かれ、その上に乗せられた胡瓜の千切りと共に食べるのだが、味噌のややも強めな甘辛さと胡瓜のさっぱりとした瑞々しさが相俟って、なんとも旨い。
日本酒にもとても合う。
しかし、オーソドックスな蒲焼も食べたいし、できれば白焼きなんかも食べられたら嬉しい。
だが、それら全てを単品で頼んでいたら、会計時、目が飛び出ることになるだろう。
ここは、どれかひとつに的を絞らざるを得ないか・・・とメニューをみたら、なんと、その三点が少しずつ食べられるお手ごろセットが存在した。
というわけで、三点セットをお願いした。
注文が入ってから捌き始めるこの店は、出来上がり間で40分ほどかかる。
その間のアテに、胡瓜の漬物と骨せんべいもお願いした。
注文してから思い出したが、こちらの骨せんべいも、注文が入ってから揚げ始めるので、すぐには出なかった。
骨せんべいが届くまで、胡瓜とお通しの漬物をアテにチビチビと飲む。



10分ほどで、鰻骨せんべいが届くわけだが、これが揚がりたてとあって、熱々で旨い。
「こんな旨い骨せんべいはじめて!」
と言っても過言ではないくらい旨い。
当然、おかわりしたのだが、それに関しての言及は、今回の主役である吉田味噌焼きの印象を薄めることになりかねないので、今回は控える。



で、お待ちかねの三種セット。



これも山梨の特徴なのか、この店独自のものなのか、わからないが、注文時、何も言わないと、この店では、鰻重を頼んでも、ご飯は別盛りで出される。
もちろん、ご飯に蒲焼が乗ったタイプのものも、最初に「そうしてくれ」とお願いすればやってもらえる。



白焼き



蒲焼

そして、



吉田味噌焼き。

まったくもって酒が進む。



お新香は奈良漬付き。



肝吸いはデフォ。
(最近、肝吸い別料金って店、増えてる気がするのだけど、気のせいか?)

すっかり満足してふと卓上をみると、
「あ、爪楊枝!」
普段目にするものとは違う、一本一本丁寧に手で削って作りました、といった風(実際は手作りではないんだろうけど。)の爪楊枝が、瓶に差さって置かれていた。
俺は手を伸ばすと、それを3本ばかり引き抜き、そっと自らのポケットに忍ばせた。







続く。

ではまた。