一旦は治まったかに思えたが、夕方になるとまた下腹部が疼き出した。
そして嫌な予感が的中した。
浜松町の駅を降り大門の駅前を通り過ぎる頃、それは一段と酷くなっていた。
ちょいとおならでもしようものなら、ガスとは違った液状のものも飛び出してきそうな経験上感覚を肛門に感じた。
俺は必死に肛門括約筋に力を入れた。
これから焼肉飲み会だっていうのに・・・
本番の飲み会前に一人、大門あたりのはじめての居酒屋にでも入って、軽く飲んでようかとの計画はそっちのけ、俺はトイレを捜して彷徨いはじめた。
出来れば清潔、洋式、個室、ウォシュレット付きがいい。
外資系のハンバーガー屋やらカフェやらなら、おそらくそんなトイレを備えているような気がしたが、そういった店は客も多けりゃ客質も様々だ。
俺が事を済ませている最中、ドアの向こうに高橋メアリージュン似の若い女性がいつのまにかやってきて、トイレが使用中と知り、一旦席に戻れば良いものを俺が出るのを待っていて、そんなことは知る由もない俺の激しい排泄音やら、呻き声やらがドア越しに聞かれ、さらに事を済ませスッキリした顔でドアをあけた俺と入れ違いに、「やっと空いたわ！」と俺をチラリと睨みながらトイレに入った彼女が、俺の残り香に顔を顰めたのみならず呼吸困難、ひいては気絶、失禁なんて状況にならないとも限らない・・・・そう考えると、やはりそれらの店のトイレを使うのは第一選択にはできなかった。
それにトイレ一回借りるのに、コーヒーに何百円も出すわけにはいかない。例え100円であろうと、食べたくもないハンバーガーを買うわけにはいかない。
俺は、他になにかいい対策が無いかを思い倦ねた。
ふと、ナチュローが目に入った。ナチュロー。略さなければナチュラルローソン。自然なローソンだ。
自然とそこに足が向いていた。
幸いにもそこはイートインも出来るローソンだった。
店で購入した弁当なり飲み物なりを、店の一角に設置されたスペースで椅子に腰掛け食べたり飲んだりできるのだ。
ということは・・・・
案の定、当然のようにトイレも存在した。
よしっ！
俺はここで借りる事に決めた。
しかし、タダというのも申し訳ない。
こういうとき俺は水を買う事にしている。
それも2Lサイズのペットボトルだ。
ガムやら飴やらのほうが安くつくが、あちらは小さい。買う方、売る方ともに購入感、販売感に乏しい。
仮に100円のガムを購入し、ジャケットのポケットにしまい、そのついでに「ええっと、トイレ貸してもらえませんかね。」とお願いし、貸してもらっても、トイレから出る頃には、ひっきりなしの客の対応に追われ忙しい店員は、そんなこと忘れている。そして、「どうもっ！」と挨拶して出て行く手ぶらの俺を見て、「誰？？？なんだよ、トイレ借りにきただけかよ！ったく、ウチは公衆便所じゃねえんだぞ！」と、いうことになりかねない。
その点2Lサイズのペットボトルは良い。
いかにも買い物しましたという感がある。
トイレを借りた後、重そうなペットボトルの入ったビニール袋をぶら下げ「どうもっ！助かりました。」と出て行く俺をみて、おそらく店員は「いいえ、どういたしまして。わざわざお水まで買って頂き申し訳ないっす！」と思うだろうし、それに個人的にも水は役に立つ。
直に飲むことは勿論、口を濯ぐ事も、擦り傷の血を洗い流したり、火も消せる。夏の暑い日には頭から被っても気持ちがいいし、冬の寒い日には温めれば湯たんぽにもなる。効果の程はわからないが、害獣の侵入を阻止する事も可能らしい。たまに家の周囲全体に渡って、水入りのペットボトルを並べている家を見かける。
そんなわけで、俺は2Lサイズのペットボトルの水を買った。
果たしてナチュローのトイレは俺の望み通りで、俺は危機一髪から免れた。
出すものを出し切り、すっきりした顔でペットボトルの入ったビニール袋をぶら下げ、お礼を言って店をでると、もう約束の時間まで10分もなかった。
店はこのナチュローの通りの一本向こうの路地裏にあった。歩いて1分かかるかどうかだ。
ちょいと早いが俺は店に入って、みんなの到着を待つ事にした。
俺が2Lサイズのミネラルウォーターペットボトルをずっと持ち歩き続けていたのには、実はそんな理由があったのだ。
ところで、こちらのお店では一度もトイレに立たなかったわけだけど、もしかして、意外に、清潔、綺麗、個室で洋式ウォシュレットでした？
その確認も兼ねて、またいかなければなりませんね、ここは。