ホトトギス | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

私鉄大畑緩線(仮)桐谷一丁目駅(仮)17時50分の各駅停車桐谷(仮)行きに乗込む。桐谷駅(仮)で西山坂線西湘古宿ライン(仮)18時5分発に乗りかえ、そのあと乗り換える事無く一本で比寿恵駅(仮)まで。
そんな予定に合わせ、俺は17時35分に職場を出た。
普通に歩いても職場から駅迄はどんなにゆっくり歩いても15分もかからない。

俺は桐谷一丁目駅までの道をひたすらに走っていた。
余裕を持って職場を出たはずだが、途中変わらずの信号に嵌ってしまったのだ。
そこの横断歩道は7分に一回くらいしか渡れない。
一度青をやり過ごすと、7分間はただただ歩道に立ち尽くすしかないのだ。あるいは隙をみつけて、車道を横切るか。
生憎車道では、多種多様の車が隙を与える事無く行き交っていた。
俺は仕方なく信号が青に変わるのを待つ事にした。
どうやら、信号が赤に変わってすぐにその横断歩道に到着したらしい。
やっと渡れるようになった時には既に7分の時間が経過していた。
「俺ちょっと煙草吸って行くから。」と途中で別れたはずの同僚が、信号が青に変わる頃には隣にいて、「ホント、ここの信号、長いよね。」と呟くと、俺より先に横断歩道への第一歩を踏み出した。
「ちょいと急ぐんで、お先に!」
俺はそう同僚に告げ、彼を追い抜くと、全速力で走り出した。もう電車の発車予定時間迄2分しかなかった。
駅に到着すると、時計はまだ17時49分だった。
間に合った!
ふーっと安堵のため息を吐き、改札を潜ろうとホームを見て、俺は違和感を覚えた。
ホームに電車を待つ人の姿が無かったのだ。
まるで、今さっき電車が出たばかりですよ、といわんばかりに。
いや、まだ到着迄1分あるはずだ。
駅のホームに備え付けられた時計も時刻が発車の17時50分までは1分あることを示していた。
俺の腕時計が狂っていたわけでは全く無い。
なんで?どういうことだ?
と、改めて壁に張られた時刻表を見ると、それは発車時間は17時49分ということを示していた。
17時50分だとばかり思っていたが、それは俺の勘違いだったのだ。
やりきれない思いで肩を落としていると、背後からポンと肩を叩かれ、さっきの同僚だった。
「間に合わなかったみたいだね。」
と、笑うと、俺の返事を聞く事も無く、地下の連絡通路に降り、反対ホームに顔を出すと、一瞬俺に手を挙げ、それからすぐに到着した俺とは反対方行きの電車に乗りこみ去って行った。

次の電車は18時だった。
まだ間に合わないわけではない。
巧く乗れるかどうか、五分五分だったが、西湘古宿ラインの桐谷発は18時5分。
桐谷一丁目から桐谷までは電車で3分。
連絡通路で乗り換え渋滞に嵌らなければ、間に合うはずだ。
連絡通路に一番近い車両に乗込み、到着するや否や連絡階段へ一番に躍り出て、走る事を心に決めた。
チャンスは最大限にいかすのだ。

次の電車到着迄10分あった、俺はipadでツイッターを眺める事でやり過ごすことにし、そして何時しかそれに没頭していた。

次の電車が来ると、俺は予定通り事を進めた。
考える事はみな同じなのか、連絡口に近い車両は他の車両に比べ混みあっていた。
それでも俺は、人の迷惑を顧みず、ドアが開いたらすぐに駆け出せる、ドアギリギリの場所を確保した。もう入れないよ!と入り口付近で踏ん張る乗客に尻を向けぐいぐいと彼等を押し込みながら乗込んだ。
普段の俺はそういう事を嫌うが、この日ばかりはそんなこと言ってられなかった。

電車が桐谷駅間近になる。到着を知らせるアナウンスが流れる。
そのアナウンスに彼は耳を疑った。
「電車到着遅れまして、誠に申し訳ありません。到着遅れた事、心よりお詫びいたします。」
はあ???
ツイッターに夢中になっていて気付かなかったが、電車は遅れて到着していたのだ。左腕に目をやると時計は既に18時5分を示していた。
乗車している大畑緩線の電車の窓越しに、西山坂線のホームから去って行く西湘古宿ラインの列車が見えた。

西湘古宿ラインは30分に一本しか来ない。次の西湘古宿ラインを待っているわけにはいかなかった。
そうなると比寿恵駅に最も速く到着する為には、次の西山坂線の普通列車に乗込み、山品(仮)で川上線(仮)に乗り換えるしかない。
この時間山品駅がまた混雑するのだ。
ったく!このボケが!
誰とも無く悪態を吐いたつもりが、俺の隣で俺同様ギュウギュウに押しつぶされているOLの耳には、それが自分へ向けられたものと聞こえたのか、凄い形相で睨まれた。
「電車到着遅れまして、誠に申し訳ありません。到着遅れた事、心よりお詫びいたします。」
駄目押しとばかりに、電車の車内放送がまたさっきの文句を繰り返した。
本気でそう思っているのなら、西湘古宿ライン待たせておくくらいの配慮をしろよ!
心の中でだけそう叫び、
「いえ、違うんです。すんません。」
と、隣のOLに頭を下げた。
しかし、俺の思い過ごしだったのか、彼女はそんな俺ににこりとするばかりか一瞥をくれることすらなく、正面の開き扉を睨んでいた。

西湘古宿ラインが既に言ってしまった今、俺は急ぐ理由が無くなった。
あきらめ気分で大畑緩線の電車から降りる。しかし、乗客のすべてが西湘古宿ライン上りが目的なわけではなかった。むしろ下り列車目的の者達のほうが多かった。そんな西山坂線下り列車目的の乗客が、今まさにホームに入って来た下り列車を逃さんとばかりに、走り出し、俺を背後から突き飛ばし、階段を駆け上がって行った。
彼等をやり過ごし、ゆっくり連絡通路を渡っても、西山坂線のホームへは1分もかからなかった。
しかし、もう下り列車は扉を閉め、ホームから去ろうとしていた。
幾人かの乗り損ねた乗客が悔しそうにそれを見送っていた。
俺が乗る次の西山坂線上りが到着する迄は、まだ10分もあった。
みんなどこで歯車が狂ってしまったんだろうな、と俺は思う。
少なくとも、あと一分早く桐谷一丁目駅についていれば・・・
たった一分遅れた為に、俺は既に少なくとも20分以上の時間を無駄にしていた。

山品駅で乗り換え比寿恵駅に到着したのは予定より30分も遅い時間だった。

料金節約のため大目白(仮)まで歩き、それから乗込んだタクシーは道を知らず、チンタラ走りながらナビを設定した。
設定した後も不安そうに辿々しく走行した。なぜここで?っていう所でブレーキを踏み、交差点に入るたび、「ええと?」と運転手はつぶやき辺りを見渡した。
そして、まるでそれを待ってましたとばかりに必ずと言っていい程、赤信号にひっかかった。
なんとか予定時間前に辿り着いたものの、車が停車した所でカチリとメーターが跳ねあがった。
巧く行けばワンメーターで着くというのに。
こんなことなら、せこい真似せずに比寿恵から乗っておけばよかった。
「ったく、憑いてねえ・・・・」
心でぼやきながら、千円冊を渡すと、釣りはいいよ、と断った。

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しかし、人生そう、悪い事ばかりでもない。
つまらない思いも、後になれば笑いに変わる。

結局ね、もがきあがいたところで、どうできるってものじゃないんだな。
待つしか無いってこともある。
先人は巧い事を言うよね。

鳴かぬなら鳴く迄待とうホトトギス。

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それはまあ、ホトトギスに限った話じゃないんだけど。

ありがとう。
次回も、楽しみに待ってます。