3時半まで待って。 | さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

酒場であったあんなこと、こんなこと。そんなことを書いてます。ほとんど、妄想、作話ですが。

いつもより早く家に帰ると、買い物にでもいったのか、妻の姿はなくて、飼い猫の「とら」がソファーの上でドテリンと転がって部屋に入ってきた俺をチラリとみて、また目を瞑った。
とらには悪いがそこは俺の席だった。
「おい、とら。ちょっとそこどいてくれるか?」
俺は、そうとらに呼び掛けたが、奴は俺の言葉が理解できない振りをし続けた。
つまり、そこを動こうとしなかったということだ。
俺はもう一回とらに言った。少し命令調に。
「とら、ちょっとそこどけ。」
しかし、とらは相変わらず、動こうとはしなかった。代わりに、尻尾をパタンとソファーに打ちつけた。
このやろう、シトを舐めやがって!
俺は、他の作戦に出ることにした。
キッチンに行くと、戸棚から、ホタテの缶詰めを取りだした。それから、冷蔵庫からは冷えた缶ビールも。
そして、パソコンデスクに行くと、そこの僅かに空いたスペースにそれらを載せ、パソコンを起動させ、それが立ち上がる間に、プシュッと缶ビールのプッシュトップを押しあけゴクリと一口飲みこむと、次にパコーンと派手な音を立て、ホタテ缶詰の蓋を開けた。
それから、「おーい、とらー!ほたてだよー!」とソファーを見ると、既に奴はそこにはいなく、俺の隣にちんまりと座って、シラコイ顔で、喉をゴロゴロいわせていた。
奴には音もなく瞬間移動できる能力がある。

俺はホタテをつまみつつビールを飲みながら、ツイッターを眺めた。
そこでは何人かの友人が呟いていた。
そしてなんということか、今日の俺と同様の状況の方もいた。
つまり、午前で仕事が終わり、今、暇してる、というひとが。
俺はホタテもビールも忘れ、宜しければ、大門あたりで夕方からのまないかと、個人的にメッセージを書き込み送った。
隣でとらが甘えた声をあげていたが、とらが俺の言葉を理解できないように、俺もとらの言葉は理解できないのだ。
俺は尻尾でパタンとやる代わりにホタテを一切れ摘みあげると、とらの鼻先にそれを持って行き、とらがそこに首を伸ばすや、それを遠ざけるって動作を数回繰り返した。
もちろん、とらの手のカシッが出る前にやめるつもりだったが、結果的には俺の血と引替に、奴にブツを奪われることになった。
腕から流れる血を吸いながら、パソコンのモニターを見ると、新着メッセージが届いていて、それはOKと言っていた。
そうと決まればこうしちゃいれない。
俺は残りのホタテを全部とらに与え、ついでに残りのビールも勧めてみた。
奴はクンクンとビール缶の縁の臭いを嗅ぎ、それから暫く考えていた。もう一度、クンクンと臭いを嗅ぎ、今度はペロペロと自分の口周りを舐めまわすと、これは違う、というようにそっぽを向いて、ホタテの方に顔をよせた。
俺は仕方なく、残りのビールをトイレに流した。

大門につくと、まだ予定の時間より早い時間で、俺は目に付いたセルフサービス型のアルファベットで名前が書かれた大型チェーン喫茶店に入った。
喫茶店という呼び方は適切では無いのかも知れない。
店に入ると、若くてそれなりに可愛い女性店員が「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ。」と笑顔で挨拶、誘導し、差しだされたメニューから欲しいものを選ぶ。同じアイスコーヒーでも後ろにSだとかMだとかLだとかTだとかGだとかVだとかEだとか頭を悩ますアルファベットが表示されていて、それを訊ねるのは原宿駅でキラー通りはどこですか?と訊ねるくらいに「殺してくれ!」と言っているようなもので、結局、我々は何も訊ねず、値段で判断、「アイスコーヒー。」と言いながら、「これで。」と安い方から三番目くらいを指で示す。「グランデで宜しかったですね?」そんな確認の質問を聞き、そうかGはグレートではなくてグランデだったか!と初めて気付き、「アイスカフェ、俺、グレートね!」なんて言わなくて本当に良かったぜ!とほっと胸を撫で下ろしたら、なんですか?これは?こんな馬鹿でかいのイラネエって!と叫びたくなるデカイカップに入った、上に生クリームがこんもりと乗せられた、俺こんなの頼んだっけ?的なものを手渡され、もしかしたら気取ってアイスカッフェなんて言っちまったのがいけなかったのかな?と反省しつつ、手渡されたそれをトレーに乗せてそれから座るべき空席を探してフロアをウロウロする。煙草をぜったいに吸ってはいけないフロアにつづいて、その奧にささやかにそれを吸ってもいい席も用意されている、そんな店だ。コーヒー以外にもジュースや紅茶、ビールまで置いている。入口近くの陳列棚にはベーグルやらサンドウィッチ、ピタに菓子パン、ケーキまで揃っている。しかし、やけに時間のかかるウインナーコーヒーは勿論、ウインナー入りのナポリタンやら、チンの音の後に届くグラタンやら、大盛り不可のライスカレー、缶詰めチェリーの入ったクリームソーダなんかは置いてない。銀皿に二瘤に盛られ、ウエハースが添えられたバニラアイスクリームだって勿論無い。
そういう店を喫茶店と言っていいのかどうかわからないが、そういう店に入って、俺はアイスカフェオレの安い方から二番目を頼んだ。
ガムシロップの有無を訊かれたので、いらないと答えた。暫くといっても10秒ほどで、それがトレーに乗せられた。金額が告げられ、俺はあれ?と首を傾げる。それは一番安いカフェオレの金額だった。
俺はそれよりも高い方を選択したのだと告げると、店員は謝りそれを調理場に戻し、また新しいそれをつくりだした。
先程よりおおきなカップに入ったアイスカフェオレが目の前のトレーに乗せられた。
今度こそ俺は金額を支払い、トレーをもって、煙草を吸ってもいい席へと行って座った。
間違って作られたあのカフェオレはどうなるのだろう?捨てられてしまうのかな?それだったら、俺が貰ってやっても良いんだけどな。なんて事を思いながらアイスカフェオレを飲んでいると、携帯が震えた。
メールではなくて、電話だった。かけてきているのは妻だった。
どうしようか?出るべきか無視するか・・・3秒ほど迷ったが俺は結局電話に出ていた。
どこにいるのかと聞かれたので、大門と答え、3時半になったらモツ焼きの店に行くのだとその店の名を伝えた。私も行くと妻は言った。
今どこにいるのか、どれくらいで来られるのか、店の場所はわかるのか、妻に訊きたいことはいくつかあったが、生憎ここは俺の家ではない。俺は、OKとだけ告げると電話を切った。
切ってしまってから、言い忘れたこともあったことを思いだした。
まあ、いいな。
時計を見ると、もうすぐ約束の時間で、俺はアイスカフェオレを飲み干し席を立った。結局、煙草は吸わなかった。
まあ、いいさ。吸ってもいい席であって、吸わなければいけない席ではない。
俺はトレーを回収棚に置くと、誰ともなしに「ごちそうさまでした。」と言って、入口に向かった。
入口の自動ドアがあくと、店員が「ありがとうございました。」と声を挙げた。俺はもう一回振り返って、頭をさげて、外に出た。

そこからすぐの例のモツ焼き居酒屋の前に行くと、開店前だというのにもう数名人が並んでいた。
俺もその最後尾に並ぶ。
並びながら、周囲を見渡すと、通りを行きかう人々の間に、こちらに向かってくる約束した呑み友の姿が見えた。

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?

さてと、今夜はどこ行く?