秋田犬に真の漢を見た | 近江人(オミット)しよう。

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自身の体験談やサバイバル、社会問題、釣り、工作等の様々なジャンルを書いています。

もう古い記憶の話である。私が小学生か中学一年生だった頃だと思う。父親の実家には祖母と三男が住んでいた。盆と正月の年に2回行くのが通例だった。玄関の外に低い塀があって門があった。服装から盆だったと思う。塀の中に白黒茶色の秋田犬がいた。虎毛という種類らしい。

拝借画像


もの凄い形相で吠えてきたが、叔父が出てきて犬を制止した。
叔父が飼い始めた秋田犬だった。帰りに玄関を出ると犬は吠えなかった。
正月に実家に行くと犬は尻尾を振って歓迎してくれた。動物を触るのが好きな私は恐る恐る頭を撫でた。叔父は様子を見ていた。リュウコと呼ぶので雌犬だと解釈していたが、叔父に問うと龍虎だという。なんとも勇ましい名前だ。クライングフリーマンではないか。
夕方に叔父が犬と散歩に行ってみるかと言う。二つ返事で引き受けた私は、赤黒に編み上げた太い引き綱を持って出発した。犬は非常に賢くて、私の歩調に合わせて真横を歩く。住宅街の四辻に差し掛かると右手から犬が来るのが見えた。首輪も無い野良犬のようだ。茶色で耳が長く垂れている。龍虎と体長は同じようだが細い。面長なので洋犬が混ざった交雑種のようだ。野良犬は道路の左右にフラフラしながら地面の臭いを嗅ぎつつ時折、小便をかけている。50m程の距離で野良犬が、こちらに気付いた。尻尾をブンブン振りながら走り寄って来る。5m程の間合いで龍虎にギャンギャン吠えたてる。龍虎は無言無表情で歩調を変える事もなく野良犬に進んで行く。野良犬は吠えながらもジリジリ後退するが、間合いは詰まって行く。1mの間合いとなった瞬時に引き綱が強く引かれた。一瞬の間に、龍虎が野良犬の首に噛みついていた。大きく前半身を振る。野良犬は1m程の高さに宙を舞いコンクリート塀に叩きつけられた。ギャイーン、悲鳴と共にアスファルトに落ちて半回転するとヨロヨロ立ち上がり、キャインキャインと連呼して逃げて行く。ブンブン振っていた尻尾は股の間に下がって地面を掃いていた。遠ざかる野良犬を見ていると龍虎が私を見上げている。穏やかな顔だ。目が合うと、もとの歩調で歩きだした。そのまま散歩を終えて帰宅した。

あの光景は鮮明に覚えている。もう大丈夫だ、さあ行こうか。と言う声が聞こえた気がする。格好いい奴だと感心したものだった。あれから、罵声を浴びせて威嚇する相手には無言で向かって行く。相手の眼を睨み付け間合いを詰める。殆どの場合、相手が逃げるのだが、例外もいる。それは私と同じタイプだ。そういうタイプは大声で威嚇する事は無いので判別しやすいが、逃げる事はなく闘いとなるので厄介だ。