ココロノママニ テイネイニ〜三年目〜
ちょうど三年前のバレンタインデー。その日、ひとつの仕込みをしました。それは、お米と麹とアルコールが織りなす「自家製味醂」の旅の始まりでした。一年が過ぎ、二年が過ぎ。瓶の中の液体が、季節を重ねるごとに深く、濃い色へと移ろいゆくのを、ただ静かに見守り続けて三年の月日が流れました。そしていよいよ、待ちに待った開封の時。蓋を開けた瞬間「ふわ〜っ」と芳醇な香りが部屋いっぱいに広がります。変化を受け入れ、命を育む味!この三年間、私の身の上にも、世界にも、実に多くの出来事がありました。そんな慌ただしい日々を、この瓶はずっと傍らで静かに見守り、じっくりと熟成を続けてくれていたのです。かつてはお米と麹だったものが、時の魔法によって全く別の存在へと生まれ変わっていました。目に映るのは、吸い込まれるような透明感のある深い琥珀色。ひと口、舌の上に乗せてみると、まるで命そのものを育むようなじみ深い味わい広がります。あまりの優しさに、ついこのまま飲み干してしまいそうになるのを堪え、少しのお塩を。それは「お酒」から、料理に命を吹き込む「調味料」へと変わる、神聖な儀式のようでした。「この国の風土があれば、何だって自分の手で生み出せるんだ」そんな不思議な感動に包まれながら、一滴一滴を愛おしく濾して、瓶に詰めました。手元に残った「味醂粕」は、想像していたものとは少し違い、まるでお味噌のような佇まい。そのまま頂くには少し個性的ですが、これもまた新しい命の種です。「酒粕醤」があるのなら、「味醂粕醤」があってもいい。醤と合わせて、また新たな発酵の冒険を始めてみようと思います。次はどんな表情を見せてくれるのか。手仕事の愉しみは、こうしてまた繋がっていきます。