あの朱音とのキスからしばらくが過ぎていたがバイトもあったし顔も合わせていた、だけど俺の心は落ち着かないしもうぐちゃぐちゃだ、言うなれば行方不明だった。


「はぁ〜、行きたくねぇーよ、学校にもバイトにも、あー、あーーー!クソ!!」


出来ることなら無かった事にしたい。


「ッくそ、俺のファーストキスだぞ、まあ我を忘れていたとは言え、まあ、めっさクソ美少女だったとは言え、そ、それでも!ファーストキスだぞ?はぁ〜」


そんな口文句を言いながら支度を終えた、マジで学校に行くのがこんなに億劫なのは初めてだ。


「着いたけど、なんか、遠かった気が、相当、来てんな、はぁ」


自分の席へと座る、するとやはりアイツが!


「あ!みーつけた!おはよう、切心!隣いいよね?」


「ダメだ!って座んなよ!!聞けよ!人の話を!」


「ん?何か言った?しつこいと殺すよ?」


「うわ出た!いつもの!お前はもうちっと女の子とは何ぞや?って勉強した方がいい」


「フン、そんな事学ばなくても僕はすでにそこら辺の女の子より可愛すぎるから❤」


「うわー、普通自分で言うかね?お前の頭の中を見てみたいよ、はぁ、疲れる」


ギュッと朱音が俺の腕に抱きつく。


「やめんか!離れろ!!」


ほんと朱音といると日常がけたたましく過ぎていく、でも不思議と朱音といると昔の事は思い出さなくなっていたんだ。



(ん?) チラッと朱音を見る


(いや、気のせいだ)


そう思う事にして講義に集中する、そうして今日も時間は過ぎていく。


「はぁー、お昼だけが落ち着く時間だよ」


今日はお弁当を買っていたから前みたいな事はなかった。


「ここならアイツにも見つかりまい」


いつものベンチではなく少し離れた木陰の涼し気な場所を見つけた。


「さあーて、ごはんごはん」


食べようとしたその時


「あーー!!いたーーー!!」


「げッ!この声はまさか?!!」


そーっと後ろを振り向くとそこには


「んなっ!?朱音!!!」


「もー酷いじゃないか!僕を誘ってくれないなんて」


「誘いたくなっかったから一人で居るんだよ→ボソ」


「え?」


「あ!いやいや!はははは、はぁ〜」


「一緒に食べよ❤」


「は、はーい」


こうしていつものお昼、なーんにも変わらない、本来ならこんな超絶美少女が!って喜ぶところなんだろうが、俺はまったく喜べなかった。


(ん?マジであの子の妹なのか?あれ?あの子どんな顔してたっけ?朱音のせいかな?あの子の顔思い出せなくなってきている?まあ辛い過去を忘れるのはいいんだろうけど、なんか複雑です、はは)


「なに?食べないの?それともアーンして欲しいの?」


「やめろ!食べるよ!食べます!」


そんなこんなで落ち着かないお昼は終わって行った。


「お疲れ様です」


バイトへとやって来た俺たちは店長たちに挨拶をする。


「おう、お疲れさん、んー相変わらず可愛いね〜朱音ちゃ〜ん❤」


「ありがとうございまーす❤」


(この!)


デレデレしてる朱音を無視して一人ロッカーへと向かう、そんな俺に気付いたのか朱音も後を追う。


「お前な、いつか本性バレるぞ?」


「別にバレてもいいし、でもさ、何度見ても愉快だよね、僕を見てデレデレ、きゃは、まじウケる〜、ははははは」


「お前は悪魔か」


「酷い〜サキュバスちゃんって呼んで❤️」


「呼ぶか!!!」


(サキュバスって男を虜にして何もかも吸い尽くす悪魔じゃ?んな!こえぇー!!朱音にピッタリだーー!!やべーー!)


「ん?なに?」


「ん?あはははは、なんでもないよ」


朱音に別の意味で恐怖を感じながらもバイトに精を出した。


「んあー、終わったー、明日は休みだー!」


「へぇ〜、切心お休みなんだ、ねえ?明日デートしようよ❤」


「ん?いーやーだ、ゆっくり眠るの」


「おいおい、普通こんな美少女にデートに誘われたら断らないぞ?」


(何も知らないで、ふぅ)


「そうだぞ!僕が誘ってあげてるのに!」


「なんだその上から目線は!とにかく明日は何もしないの!!ゆっくりさせてくれ」


「むーーーーっ!!」


そんな朱音の怒りん坊顔はほっといて俺は支度を終わらせ家へと帰って行った。


「あー、家だけが安全か、朱音もいないし、サイコー!!!」


その後風呂に入りご飯を食べ終わり、ベッドの中で休んでいたら、いつの間にかウトウトし眠ってしまっていた。


翌朝


うるせー うるせー うるせーわ


携帯の着信が鳴る。


「ん、んん」


携帯に手を伸ばし電話に出る。


「はい、もしもし?」


「あ!切心?おはよう、デートしよ❤️」


「ん、お前、なんで俺の番号、知ってんだよ?」


「てんちょーさんに聞いたんだよ❤」


「キサマ!どんな手を使った?」


「失礼だな!ちょっと体寄せて教えて❤って言っただけだよ」


「ざけんな!この常習犯が!!」


「いいから!早く起きて着替えて遊ぼ♥️」


「やだ!」


プツ、プープープー


「あ!切った、にゃろ!殺す!」


「ったく、ざけんな!あー、寝よ寝よ」


そしてまた俺は夢の中へと落ちていく。


しばらくして


ドンドンドン!!ドンドンドン!!


玄関の扉を叩く音が聞こえる。


「んあ?誰だよ?」


そう言い起きた俺はノロノロと玄関へと向かい扉を開けた。


「はーい?」


すると強引に扉を引き顔を出し


「おっはよー❤」


そう言ったのは朱音だった。



「んげぇ!な、なんでお前が?ってかどうやってここ知った?」


「んなの、てんちょーさんに教えて貰ったからに決まってんじゃん」


「あの人は!本当に朱音に弱いんだな」


「入っていい?」


「ダメに決まってんだろ!」


「あ!」


「え?」


「お邪魔しまーす❤」


一瞬の隙を付いて朱音は家へと上がり込む。


「お、おい!」


「うわー!広ーーい!あれ?おかしいな?バイトでここまで広い家に住める?」


「うるせーな、実家が家賃は払ってんだよ!バイトは生活費の為だ!ってかくつろぐなーー!!」


「ね!喉乾いた!何かちょうだい」


「テメェー!!」


そう言いながらも俺は冷蔵庫からジュースを取り出すと朱音に渡した。


「ありがとう❤」


「うるせー」


そう言い俺はベッドに潜る。


「ぷはぁー、美味しい❤」


すると俺の反応が無かったのか朱音は


「ん?あー!また寝てる!!」


そう言うと朱音は立ち上がりそーっとベッドに近付き


「とぉーりゃーー!!」


と思いっきり俺の上へとダイブしてきた。


「ぐはっ!!」


俺は痛みで悶絶する。


「貴様!な、なにしやがる?」


「起きないからだーよ!おりゃおりゃ」


「やーめーろー!!」


「ん?起きる?ねえ?あん?」


「わーった!起きる、起きます」


そう言い俺は仕方なく体を起こす。


「むふふ、よろしい❤」


(なんだコイツ)


「おい?降りろ!着替えられないだろ」


「あ!ゴメン」


そう言うと朱音は静かに降りる。


「ったく」


俺はそう呟き寝間着を脱ぐ、すると


「あーー、ここで脱ぐなーー!」


意外な朱音の反応だった、普段のあれからてっきり平気だと思っていたのだが。


「何照れてんの?」


「う、うっさーい!バーカ!」


ボス!


思いっきり腹を殴られる。


「テメェー、やめろ、ぐぐ」


「ふん!さっさと着替えろ、スケベ」


「人を殴っておいてなんて言い草だ」


仕方なく俺は着替えを始める。


「んで?何処に行きたいんだよ?」


「決まってんじゃん!遊園地❤」


「は?」


「なんで俺が彼氏でもないのに付き合わなきゃいけないんだよ」


「なんか最近偉そうになったよね?強気って言うかさ?」


「お前のせいだろ、お前といると何か変な感じになるんだよ」


「ナニソレ?」


「はぁ、分からないならいい」


着替え終わった俺は財布やスマホを持つと朱音と出掛ける事にした。


「ほら!」


そう言い俺はヘルメットを朱音に投げた。


「乗れよ」


バイクに跨り俺は朱音に声を掛けた。


「いいの?」


「特別だかんな?」


朱音はとても嬉しそうに笑うと後ろの席へと跨った。


「掴まってろよ?」


「オーケー しゅっぱーつ!」


「うっせぇー」


エンジンを掛け俺たちは走り出す。


目的地を目指しバイクを飛ばす、ギュッと体に感じる朱音の手はとても華奢でどこにでも居る普通の女の子のものだった。


「きゃはははは、バイクなんて乗ったの初めて〜サイコーだね?」


「あっそ、よかったな」


そう返事をすると俺はさらにスピードを上げた。



「きゃははははは、やっほーーー」


朱音は終始楽しそうだった、そんなこんなでバイクを走らせると目的地である遊園地へと着いた。


「あー、楽しかった♥️」


「良かったな」


バイクを停め二人して入口へと歩く、チケットを買わないといけない、俺は何も考えず二人分のチケットを購入した。



「半分出したのに」


「ん?いいよ、ほら」


そう言い俺は朱音にチケットを渡す。


「ありがとう」


そう言うと朱音はギュッと俺の腕に抱きついた。


「お、おい!」


「さりげない優しさ、ズルいね、女の子はイチコロになっちゃうね、そういう所もたまらなく好き❤」


「何も考えてなかっただけだよ、勘違いだって、ってか離れろ!!!」


「照れなくてもいいじゃん❤」


「照れてない!離れろ!!!!」


そんなラブラブなやり取りがしばらく続いた、回りの人達は何やってんだ?このバカップル?とでも思っていたんだろ。


(付き合ってすらいねぇーよ)


などとは虚しくなるので口にするのはやめる事にした。


「はぁ」


タメ息だけが空に木霊する。


「どうしたの?早く行こうよ❤」


そんな幸せそうな朱音の笑顔を見て


(ほんとこいつ泣けるくらい超絶美少女だな)


「はいはい」


そう言い俺はノロノロと朱音の後を追う。


「何やってんだ、俺は」


行き場のない心に戸惑い、俺はただ流されるしか術はなかった。