この時が来て欲しいと願っていたわけじゃない、出来ることなら来ないで欲しいってズルく卑怯な事を思っていた、私は弱いって気付かない振りをして家族さへ欺き騙し続けていたから、なぜ?どうして?この人をずっと想い愛し続けていかなかったんだろうって他の誰かに心を預けた時点でもうそれは愛とは言えないんじゃないかって今さらになって後悔したし本当にこの人を心から愛していたんだって気付いて涙が溢れて滝のように止まらなかったんだ。私は地獄に落ちますか?この数十年をただただ後悔するだけの苦しい毎日だった、そしてそんな日は突然としてやって来た、家族が揃った部屋を静寂が包む、その時はついに来てしまった、いえ全ては私の無責任な行動が招いてしまった結果だ、旦那が静かに口を開く。


「確認だ、上の二人は本当に俺の子供じゃないんだな?」


「はい」


私は嘘をつかず正直に答えた。


そう上の子たち二人は当時の不倫相手との間に出来た子供だった、托卵、そんな言葉が頭をよぎる、いえ、言い訳、その事を隠して夫婦として過ごしてきたズルく卑怯な私の責任。


「そうか」


夫は静かにそう言った。


「ごめんなさい」


謝っても許される事じゃない、本当に卑怯で自分勝手な女だ。


「離婚しよう」


そう言い夫は離婚届を机に置いた、文句の無かった私は素直にそれにサインする、頬に涙が伝う、旦那は気付いていたけど何も言わなかった。


「慰謝料も何も請求しない、その変わり下の二人であるこの子たちには二度と会わせない、それがお前の罰だ」


「はい、わかりました」


溢れ出た涙を拭き私はそう答えた、子供たちは別に私を責めなかったけど夫を騙し傷付けていた事はきっと心の中では怒っていたんだと思う。


「ごめんなさい、お世話になりました」


こうして十数年の結婚生活は幕を閉じた。


下の子たちはまだ小さかったそれだけが心残りだった、たとえ二度と会えないとしても、それが私が受ける罪だから。


「ゴメンね」


そう子供たちに言い私は上の子たち二人と共に家を出た。


それから住む所を探し色々と手続きをし忙しい日々が続いた、そんな時上の子たちの父親である不倫相手と再会した、彼は旦那と出会う前に付き合っていた人だったが彼の浮気が原因で別れた、ほんと人の事を言えない、過去に浮気された気持ちを誰よりも知っていたはずなのに、私は浮気相手を拒絶すると一切の連絡を絶った、今さら遅いのかも知れないけど、こうして全てが無くなった私たちはまた一からの生活を過ごす事になった。


あれからいったいどれだけの月日が過ぎたのだろうか?まだ一番下の子が5歳ぐらいだっただろうか?


季節は夏を巡り冬になろうとしていた。


「もう上の子たちはとっくに巣立って一人の時間が増えたわね」


あれから子供たちはそれぞれが大人になり巣立って行った、私も仕事をしているけど最近は歳のせいか段々と体がしんどくなっていた、幸い二人の子供たちがお金を入れてくれてるから生活には困らない、だけど時折一人でいると無性に寂しく感じる時がある。


「あら?残りが無くなってるわ、買い物に行かないと」


そう言い着替えを済ませ買い物へと向かった時の事だった、目の前に懐かしい顔がいた、間違いない、見間違うはずなんて無かった、そこに居たのは離れ離れなっていた娘だった。


「あ、ああ!大きくなって、とても美人さんになったわ」


そう呟いた時


「ママ〜!」


一人の小さな女の子が娘へと近づいて来た。


「走ると転ぶわよ?」


「大丈夫〜ママ〜!」


そう言い小さな女の子は娘へとギュッと抱きついた、そんな女の子を娘も愛おしそうに抱きしめ返す。


「ほら!捕まえた〜」


「キャッキャッ」


仲睦まじい二人を見て私は自然と涙が溢れた。


「あの子は孫、私の孫なのね」


口元を手で抑え私はただ泣いていた。


「ちょっとここで待っててくれる?」


そう言い娘は女の子を残してどこかへ行った、すると女の子は私に気づいたのかそっと近づいてくる。


「おばちゃんどうしたの?どこか痛いの?」


近づいて来た女の子に私は


「ううん、違うのよ、ちょっと目にゴミが入っただけ、お嬢ちゃんお名前は?」


「のぞみって言うの、5歳」


「そう、のぞみちゃんて言うの、可愛いお名前ね」


「えへへ」


そう笑う垢な笑顔は天使だった、そしてなぜ近くで見届けられなかったのかと今さらながらに後悔が押し寄せていた。


「これあげる」


そう言うとのぞみは私に小さな星型のプローチを渡してきた。


「え?いいの?大切なものじゃないの?」


「うん、もう一つ持ってるから、ほらこうやって重ねると一つになるんだよ」


「わあ、ほんとだ」


「えへへ、だからあげるね」


「ありがとう」


そう言い私はのぞみの頭をそっと撫でた。


「バイバーイ」


そう言うとのぞみは小さな手を振り去って行った。


「バイバイ」


そう返事をした時娘が戻ってくる。


「あ、ごめんね、大人しくしてた?」


「うん、おばちゃんとお話してたの、ママみたいな人だったよ」


「ん?そう、さあ帰ろっか」


そう言い娘たちは手を繋ぎ仲良く帰って行った。


「元気でよかった」


二人を見送った私は買い物へと向かった、買い物を終え家に帰り着いたわたしはのぞみから貰ったブローチを見る。


「ごめんね、生まれた時に側にいてあげられなくて」


後悔、そんな二文字に今も胸を締め付けられる、私が不倫なんて托卵なんてしなければこんな事にはならなかった、だけどもう遅い、今さらやり直せるわけでもないのだから、そんなある日私は偶然にも元旦那と再会した。


「久しぶりだな」


「そう、ね」


元旦那は私と同じ歳というのが信じられないくらい若々しくカッコよくて素敵だった。


「少し話すか」


「うん」


そう言い缶コーヒーを二個買い近くの公園のベンチへと座った。


「元気そうだな」


「あなたも」


「あなた、か、その言葉久しぶりだな」


「再婚してないの?」


「ああ、子供たちの世話で忙しかったし仕事も結構立て込んでたからな」


そう言い缶コーヒーをグイッと一口飲む。


「そう、ごめんなさい、あなたたちの人生を狂わせてしまって」


「今さら謝るな、ま、正直上二人が俺の子じゃないって知った時は驚いたしお前を恨みそうにもなったけど、上の子たちとの数十年は嘘じゃないし無かった事にも出来ない、幸せでもあったから」


そんな元旦那を見つめているとふとあの頃の若かった時を錯覚しそうになった。


「何にしてもお前が元気そうで安心した、そろそろ行くよ」


「ええ、私も数十年ぶりに話せて嬉しかった、ごめんなさい、ありがとう」


そう言い二人して公園を後にし横断歩道を青になり渡ろうとした時


キキーー!キーー!!


「あ!危ない!!!真奈美!!」


「え?」


そう答えた私の前には元旦那が庇うように抱きしめられていた、そして


キキーー!ドーーーン!!


私たち二人はトラックに跳ねられた。


これも罰かな、勝手に不倫して旦那たちを騙してきた罰だったのかな、ねえ神さま本当に居るのなら私に償うやり直せる愛を下さい、意識が朦朧とする、横に倒れたまま動かない元旦那の手を握る。


「あなた、ごめんなさい、許して、グスン、あなたを本当に愛して、い、た、よ」


そう呟いて私の意識も途切れた、あの世でも私たち出会えるかな?それとも私は地獄に堕ちるのかな?もしそうならすごく悲しいな、時が静まり周りを闇が支配していく。


「ん、んんん」


意識が戻りゆっくりと目を開ける。


「ここは?いったい?私は確かトラックに跳ねられたんじゃ?は!あなた?あなたーー!!」


周りを見渡すと側で倒れている旦那を発見した。


「ん、あなた、んっ、あなた!あなた!」


側へ駆け寄り体を揺すり声をかける。


「あなた!あなた!ねえ起きて!あなた!」


すると


「んっ、痛ってぇぇ、ここは?」


旦那は体を抑えながらそう言い静かに立ち上がった。


「ん?真奈美、良かった、無事だったんだな、それよりどこだ?」


「分からない、私もさっき目を覚ましたの」


「そうか」


ふと携帯の画面を見るすると信じられない事が起こっていた。


「え?なんだよこれ、なんで携帯のディスプレイが2024年になってんだよ!」


「え?」


そう言い私も自分の携帯を見てみる。


「うそ!あなた、私のも2024年になってるわ」


信じられない出来事に私たち二人は愕然としていた。


「死んだと思って起きたらまさかの過去かよ!なにがいったいどうなって」


私たち二人はここに居るのもなんなのでぶらりと街を見て回る事にした。


「マジかよ!確かに2024年当時の街の風景だ、今ある街の一番デカいショッピングモールだって10年後に出来たものだし、今はその欠片さえない、どうやら信じられないが俺たちは過去の存在として今ここに居るみたいだな」


「そんな!私が醜くも願ってしまったから?だからこんな現実にありえないような出来事を今体験しているの?あなた、ごめんなさい」


申し訳なさそうに謝る私に旦那は


「謝んな、謝られたって今のこの事態が治まるわけじゃない」


いったいどれくらい二人してボーッと街を眺めていただろうか?ふと旦那が口を開いた。


「落ち込んでてもしょうがない、戻れる術がないのなら、もう一度、もう一度過去からやり直すしかない、今度は二人して間違わないように」


「あなた、うん、私もやり直せる事が出来るのならもう一度あなたを、そしていつか産まれてくる子供たちを愛して行きたい」


「ズルいなお前は」


「分かってる、でもこれが私の贖罪、あなたたちへの愛を償うべきだから」


そんな私の覚悟に旦那は何かを思っていたのかしきりに私の顔を見ていたけど納得したようにふっと笑った。


ありがとう!私は静かに心の中でそう言っていた。


「とにかくこの時代の俺たちの家に戻ろう、そしてあの日俺たちが出会った日まで普通に過ごすんだ」


「うん、あなた、それまで元気でね」


「お前もな、もう事故なんかに遭うなよ?俺は居ないんだからな?」


「うん」


そう言い握手をすると私ちはそれぞれの日常へと戻って行った、互いに18歳出会うまであと二年の月日だった、私たちは家に戻り日常生活を送っていた、そんなある日私は幼なじみに呼び出された、そう上の子たちの父親である男性に。


「悪かったな、忙しかったか?」


「ううん、大学入試の事とか色々と立て込んでただけ、それなりに忙しかったよ」


「そうか、俺もお前と同じところ行こうかな」


照れ笑いでそう答える。


「無理しなくていいよ、今変えたら大変になるよ」


「そうか?残念だな」


「それより話って?」


私はかつての記憶をフルで思い出す。


「この間の答え聞かせてくれ、俺の好きだって言った答えを」


私は静かに水を飲み深呼吸そして


「ごめん」


そう言い頭を下げる。


「え?」


断られると思わなかったのかキョトンとしている。


「ごめんなさい、あなたとはお付き合い出来ない、他に好きな人がいるの」


「そんな、だれ?」


「あなたの知らない人よ」


「そんな!この間はそんな素振りさえ無かったのに、いつ?」


「半年くらい前かな」


そうあの握手の日から半年余りが過ぎていた。


「半年」


「うん、完全に私の一目惚れ、まだちゃんと話した事もないの、でもいつか会えるって信じてるから」


多少の嘘を含め彼に正直にそう応える。


「そんなまた会えるか分からない奴の事を待って俺と付き合わないのか?」


「ごめん、もう決めた事だから、だからあなたとは付き合えない、私のことは忘れて他の素敵な人と幸せになって」


そう伝えると静かに席を立った。


「さようなら」


そう言うと彼を残してその場を去った。


「すぅー、はぁー」


ドキドキしていた、ハッキリと残酷だけど自分の気持ちを伝えられてどこか安心もしていた、それからしばらくは彼から着信が頻繁に来ていたけど何回か話して私の意思が変わらないと分かるとパッタリと連絡は来なくなった。


「もうすぐ会えるよ」


あの人と出会う日まで残り少し、高校を卒業して大学入試も終え、ほんの少しの休みを過ごしあっと言う間に季節は過ぎ去って行った、そして大学に入りしばらく経った時、桜の花が綺麗に咲き誇るベンチであの人を見つけた。


「隣いいですか?」


初めて会話した言葉を伝える。


「どうぞ」


読みかけていた本を閉じふと私を見上げる、ドキッ!心臓が壊れる!それくらい素敵でとてもカッコ良かった。


「・・・・・・」


言葉が出ない!あまりにもドキドキし過ぎて言葉が口から出ない。


「元気だったか?久しぶりだな」


ふと見た顔、そこには遙か昔から知ってた彼の優しい顔があった。


「うん、何とか頑張れたよ」


「そうか」


そう言うと再び読みかけの本へと視線を移す、そんな彼の横顔を見つめる。


(この人ってこの時から目眩しちゃうほどカッコ良かったんだ、ほんと何が不満だったんだろ)


そんな後悔がグッと押し寄せたけど今ある想いに素直に生きていくって決めたから。


「帰りどっか寄って行くか?」


「それってデート?」


「何照れてんだ?歳考えろよな、お前本当はもうババアだろうが」


「歳の事は言わないでよ、それに今は18だもん、若いんだから」


「見た目はな、中身はただのババアだ」


「もーーー!!!」


「あはははは」


懐かしい彼の笑顔、やっと取り戻せた気がしたんだ、それからデートしたりお茶したりそしてこの時代での初めてのキスをしたりとこんなにも当然あの頃とは違うかも知れないけど幸せだったんだと改めて感じていた、18歳も終わりを迎えようとしていた頃、初めての夜を迎えたんだ。


「帰りたくない」


何度目かのデートで私はそう言った、すると彼はそっと私を抱きしめて耳元で囁いた。


「じゃあ行く?ホテル❤」


ドキッ!心臓が止まりそうだ!言い忘れていたけど当時の私の初体験の相手は旦那じゃない。



「う、うん」


私は照れながらそう応える、手を握り歩き出す、妖しい光が誘う大人の世界へ。


「ここでいい?」


そう彼が言った場所はまるでお城のような作りをしていたホテルだった。


「うん」


ギュッと手を握り二人してホテルの中へと入って行く。


そして初めての夜を迎えたんだ、初めてはとても嬉しくて愛しくて痛くて幸せでその後もずっと彼に抱きついたまま離れたくなかった、するとまた私の耳元で彼が「もう一回する?」って言ったんだ、当時の彼はどこか遠慮がちに見えたんだけど今の彼は全てが積極的で魅力的だったんだ、もちろん夜の方も❤


「いいよ」


そしてまた肌を重ね合う、時間さえ忘れてただお互いの体を求め合っていた、夜が明けて朝を迎える。


「朝帰りなんてお前の両親に怒られるんじゃないのか?」


「大丈夫だよ、両親には友達の所に泊まるって言ってあるから」


「そっか、何か食って帰るか?」


「うん」


私たちはご飯を食べる為に近くのカフェへと向かった、カフェに入るとお互いに注文し席へと座る。


「昔からコーヒー好きだったよね?」


「うん?感覚だろ?この歳の時も飲んでたけど砂糖入れてたし、今はブラックが一番しっくり来て美味しい」


「そう言えば砂糖2、3個入れてたねww」


「笑いすぎ」


そう言って彼はまたコーヒーを口に運ぶ。


「ふふ」


「へ、まあ中身はただのイケメンのジジイだからな、そういうお前もババアだがな」


「もう、ババアって言うのやめて」


穏やかで幸せな日々、あの頃には感じなかった愛しい想い、私は嬉しかった。


「行くか?」


「うん」


会計を済ませると二人して店を後にした、そして手を繋ぎ歩き出す。


「どっか行きたい所ないの?」


「あなたと一緒に居られるだけで幸せなの」


「あっそ」


「償いだから側に居させて、ね?」


「もういいって償い償いって軽くうざい」


そう言うと優しく私の頭を撫でてくれた。


(ほんとあの頃の私は大バカだった)


「うん?」


「ううん、何でもないよ」


ギュッと彼の手を握りそう答える。


ぶらっとしていた時不意に声を掛けられる。


「真奈美?」


「え?」


振り向くとそこには幼なじみの彼がいた、私と旦那の顔を交互に見ている。


「その人が前に言ってた好きな人?」


「うん」


「初めまして」


旦那が幼なじみにそう答える。


「どうも」


ぺこりと幼なじみが顔を軽く下げた時幼なじみに声を掛けて一人の女の人が近寄ってきた。


「もう待ってよ、早いよ」


「彼女さんですか?」


旦那が幼なじみにそう言う。


「いや、たまたま遊びに来てただけで、彼女じゃないっすよ」


そう言うと女の人が反応した。


「酷い〜デートしようって何回も誘って来たじゃん」


私は幼なじみの浮気癖をあの別れた時に知ったつもりだったけど、こんな時から色々な女の子に声を掛けて遊んでいたなんて小さい頃から知ってたつもりだったけど少し驚き内心呆れてもいた、ほんと何でこんな人と関係を持ってしまっていたんだろう?と私は自分自身に吐き気すら覚えていた。


「良かった、新しい人見つかって、いくら幼なじみって言っても関係が悪化するのは嫌だったから、でももうお互いに連絡とかやめた方がいいと思うの」


「真奈美」


「残酷だけど私はあなたをただの幼なじみにしか思えない、これから先何万年過ぎたとしても」


そう伝えると旦那の手を握り


「行こ」


そう言ってその場を離れる事にした。


「あなたがどんな人かなんて知らない、でも真奈美の幼なじみであるのなら女の子に優しい人であって欲しい、真奈美は俺が幸せにする、誰にももう渡さない」


そう言うとギュッと私を抱きしめてくれた。


その時の幼なじみの顔は何とも複雑な顔をしていたんだ。


「行こう」


そう言い私は旦那に手を握られ歩き出す。


「さよなら、あっくん、幸せになって、幼なじみとして私からの最後のお願い」


そう言って私はもう彼の顔を見ずに旦那の手を握り返し並んでその場を離れた。


「良かった、のか?」


「勘違いしないで、もう過去の弱い私じゃないの、弱さに負けて彼と関係を持ってしまった私じゃないの、幸せに生きてくれたらそれだけでいい」


「そう、か」


旦那でも不安そうな顔してたんだ、強いって思ってたけど、ちゃんと弱い所もあったんだって分かって嬉しかった。


「大丈夫だよ、これからはずっと側に居るから、何があっても」


「ああ」


こうして一つの想いに決着を付けると私たちはこれから先の未来へと歩みを進めた。


そして私が20歳になったそんなある日


「どうした?」


「う、ごめん、何か気分悪くて、う、トイレ!」


そう言い私はトイレに駆け込んだ、そしてしばらくしてトイレから出た私に彼が声を掛けた。


「大丈夫か?」


「大丈夫、じゃないと思う、多分だけど、検査して診ないと」


「ん?」


彼は何を言ってんだ?って顔をしていたけど、私がお腹を優しく撫でてるのを見て悟ったようだ。


「あ!もしかして?か?」


「う、うん、多分、だから病院に行かないと」


「ああ、俺も付き合う、心配だからな」


「うん、ありがとう」


そう返事をすると彼は優しく微笑みそっと私のお腹を撫でてくれたんだ、それからすぐ私たちは産婦人科へと向かった、もちろん結果は。


「おめでとうございます」


分かっていたけど先生にそう言われると改めて嬉しかった、だってやっと本当に愛しい人の初めての子供を妊娠したんだから。


「あなた!!」


「ああ、おめでとう、良かったな、また俺はこの子たちの父親になれるんだ、真奈美、ありがとう、体大切にしような?」


「うん!」


産婦人科を後にした私たちは家へと帰りそれからしばらくは穏やかな日々が続いた、久しぶりのデートをしていたそんなある日、私は彼からプロポーズをされたんだ。


「真奈美!俺ともう一度結婚してくれ!永遠に愛してると誓うから」


もう一度!その言葉は二人にしか分からない言葉、だけど私も今度こそ、この人と永遠に幸せになるって決めたから。


「はい!こんな私でよければ、また一緒に居させて下さい!こちらこそお願いします」


そう言うと私は彼に抱きつき胸に顔を埋めた、そして見つめ合い、誓いという名のキスをしたんだ、それからは怒涛の日々だった、互いの両親に挨拶に行ったり、結婚式場の下見に行ったりと忙しい日々は過ぎて行った。


「今日この日を迎えられて私幸せだよ」


「ああ、俺も」


互いに20歳になったある日、私たちは結婚式を迎えていた、そう私のお腹が少し大きくなり始めていたその季節に。


「行くか?」


「うん」


こうして結婚式は始まった、親戚一同が集まり、愛を誓い、口づけを交わす、みんなに祝福され結婚式は幕を閉じた。


それから私は元気な赤ちゃんを産んだ、その可愛い顔は旦那にそっくりだった、私は愛する人の子供を産めた事にかつての後悔と嬉しさの涙を流していたんだ。


「ありがとう」


全て分かってるからというようなそんな涙を浮かべた旦那から改めて感謝をされたんだ、お礼を言うのは私の方だったのにね、こうして新しい家族とともに新生活へと私たちは突入した、マイホームを建てるまでそれなりに大きいマンションへと引っ越した、それからの日々は赤ちゃんのお世話や家事など忙しい時間を過ごしていた、旦那は仕事がない時などは家の事を手伝ってくれていたから私への負担は少なく子供のお世話に集中でき愛情を注ぐ事が出来た。


「ただいま」


仕事が終わり旦那が帰宅する。


「おかえりなさい」


「ただいま」


そう言うと旦那は私を抱きしめすぐキスをしてくる、昔よりスキンシップが多くなった気がしてる、でも嫌じゃない、嬉しくて私もギュッてしてキスに応える、この頃には息子ももうすぐ5歳になろうとしていた。


「パパ〜❤」


「ん?おいで❤」


そう言い旦那は息子を優しく抱きしめ抱える。


「パパ大好き❤」


「ああ、俺も愛してる❤」


二人を見てるととても和む、息子は旦那に似て5歳にしてすでにイケメンだった、これは将来が楽しみだった。




「だいぶアイツも手が掛からなくなってきたな」


「そうね」


見つめ合う、そっと近づく唇、そして、二人は夜に溶けていく。


またしばらく過ぎて、私は二人目を妊娠した。


「体大事にしろよ?」


「大丈夫だよ、二人目なんだから」


上の子も私のお腹に耳を当てたり話しかけたりしてお兄ちゃんになる準備は出来てるみたいだった。


「もうすぐ会えるよ♥️」


上の子の頭を撫でそう伝えた。


そして無事に二人目を出産した、また家族が増え、さらに賑やかになった、この頃旦那は実家の後を継ぐために社長業の勉強をしていた、旦那のご両親は大きな会社を経営していた。


「お疲れさま」


「ただいま、今日は少し疲れた、まだまだ覚えないといけない事がたくさんある、お前たちには苦労かけるが、許してくれ」


「大丈夫だよ、側で支えるわ」


ギュッと抱きしめ合う、二人目が産まれてから久しぶりのハグだった。


「落ち着いたらゆっくり出来るから、その時はデートしよう、な?」


「うん」


その後勉強を終えた旦那は両親の後を継ぎ社長へと就任した、旦那が休みの日はデートをしたりお茶を飲んだりと子供が産まれてから久しぶりに二人の時間を過ごしていた。


そして互いが30歳になろうとしていた頃


「早いな、上の子はもう10歳、下の子も5歳になる、ちょうど結婚して10年か」


「そうね、喧嘩もなくここまで来れた」


「お前のおかげだ、ありがとう」


「ううん、私は罪を償う事が出来たから、あなたたちを愛していけてるから」


そんな私の言葉に旦那は応えるようにきつく抱きしめてくれた。


「これからだ、まだまだ、これからだ」


ズルいな、優しくて、カッコよくて、私を本当に愛してくれている、死ぬまで一緒に居たいって思わせてくれる、ねえ?私はちゃんとあなたを愛せている?


それから私たちが30歳になった時に私は三人目を妊娠し出産した。


念願の女の子、そのあまりの可愛さに旦那はデレデレだった。


旦那はどんなに忙しくても子供たちの世話をちゃんとしてくれる、遊びに連れて行ったり一緒に寝たりお風呂に入ったり
子供たちもとても幸せそうだった。


そんなある日


「仕事も最近だいぶ落ち着いて来たからな、そろそろ念願だったマイホームの話でもするか?」


旦那がそう言うと子供たちは


「わーい!大きいお家〜お引越し〜」


「こら、落ち着きなさい、今から色々やって建てて貰うのよ?数年後になるわ」


「ああ、そうだな」


私たちがそう言うと子供たちは


「えーーー!そうなの?なーんだ、むぅ」


「出来るまでの我慢だ、な?」


そういい旦那が子供の頭を撫でる。


「はーい」


この日は子供たちの意見も聞きつつどういう家にするかと言う話し合いをした。


それからしばらく経ったある日、私と旦那は二人だけでデートに出掛けた。


「海なんて初めてだね」


砂浜の木に腰掛け私はそう言った。


「そういや、海だけは来た事なかったな」


「うん」


「あれから結構過ぎたな、この時代に戻ってから」


「うん、最初はね信じられなかったけど、でもあなたとやり直せる時間を貰ったって思ってるから、こんな事あるんだね、神さまに感謝しなくちゃ」


「バーカ、きっとお前が本当は誰よりも優しくて素直で純粋だから許してくれたんだよ、でなきゃ、不倫した奴らは全員やり直してんだろ?」


「そう、かな?でもあの頃はあなたが居たのに他の人に揺れちゃったから、言い訳になるけど、あの頃、あなたの愛を信じる勇気が無かった、あなたはなんでも出来て、カッコ良くて、優しくて、女の子にもモテモテで、こんな私があなたの隣に居てもいいのかな?って、本当弱くて情けなかったよね」


そう言い悲しそうな顔をしてた私を旦那は優しくギュって抱きしめてくれた。


「それでも、俺は、お前を愛した、世界中を敵に回してもな、俺にはお前しか見えない、お前しか俺の目には映らない、それくらいお前を愛してる」


「うん」


涙で濡れた返事、そしてそっとキスを交わした。


その後少し高めのレストランで食事をした。


「奮発したねwww」


「まあ、たまに、だからな、子供たちにはナイショな?バレたら怒られる」


「ふふ、そうだね」


ゆっくりと話しながら食事し久しぶりのデートを楽しんでいた。


「帰るか?」


旦那がそう私に聞いた、だから私はゆっくりと旦那に近付き抱きついた。


「いや」


その言葉で全てを悟った旦那は私の手を握り静かに歩き出した、そして車を走らせ辿り着いたのは、この街で一番綺麗なホテル街だった、車を駐車場に停め二人して中へと入っていく。


「どの部屋がいい?」


そう旦那に聞かれ私が考えあぐねていると、旦那は後ろからギュッと抱きつき首元を責めてきた、ズルい、ベッドへと行く前からこうやって女の子の快感を高めるのは旦那の一種の才能なんじゃないのか?とさえ思えてく。


「んっ、ここではやめて、他のお客さんが居たらどうするの?」


そう注意しても聞く耳を持たない。


「だったら、んっ、早く決めろよ」


そう言い首筋から下へと旦那の唇が移動する、さらに旦那の手元が私の胸に当たる。


「んっ、この部屋でいいよ」


私は半分やけっぱちになりながら部屋のボタンを押した、カチャ、部屋のカギが落ちてくる、そのカギを拾うと旦那は私を部屋へと連れて行った。



「いい部屋だ」


「うん」


シャワーを浴びようか?そう考えていた時私は強引に旦那にキスをされた。


「んっ、チュッ❤チュチュ❤チュッ❤」


何故だろ?今までキスなんてたくさんしてきたはずなのに、脳から麻痺しちゃうくらいのこんな快感なキスは初めてだった。


「俺はお前があの日、他の男とそんな関係にあったって知った時、憎しみよりも嫉妬の方が強かった、俺の愛した女を他の誰かに取られた、他の誰かにこの体を触られた、そんなおかしくなりそうな嫉妬の方がな」


そう言うと旦那はさらに強く痛いくらいに私を抱きしめ唇を貪って来たんだ。


「んっんっ!チュッ❤んっチュッ❤」



「だから今度は誰にもお前を奪いやさせない、お前は永遠に俺の物だってこの体に刻みつけてやるから、死にたくなるくらいにな」


「アッ❤あなた❤んッチュッ❤チュッ❤」


これ程までに一人の男に愛されるオンナがこの世に何人いるのだろうか?こんなにも愛されて幸せで出来るなら一緒に死にたいとさえ思える、そんな愛に出逢える確率は何パーセントくらいなんだろう?私は本当にあなたに愛されていたんだって今さらながら実感してたんだ。


「抱いて、お願い、強く抱いていて❤」


私のそんな言葉に旦那は服を脱ぎ去ると静かに覆い被さってきた、そして年甲斐もなく二人で激しく体を重ね合って愛を確かめ合ったんだ。


それから念願のマイホームが完成し引っ越してから少しして私はまた妊娠したんだ。


この時私たちはお互いに35歳、長男を産んでからちょうど15年目、三番目の子が5歳の頃だった、そうあの離婚という名の運命の日まで残り5年余りの出来事でちょうど折り返し地点だった。


「おいおい、勘弁してくれよ、15歳差かよ、ふぅ」


「兄さん、いいじゃないか、また家族が増えるんだから、ねえ、母さん?」


「そうね」


私はそう言い自分のお腹を優しく撫でた。


「ママ〜?弟かな?妹かな?」


「さあ〜どっちかな〜?お姉ちゃんはどっちがいいですか?」


「う〜ん、妹!妹がいい!お人形さん遊びしたりお洋服着せ替えしたりして遊ぶの」


「ふふ、きっと可愛いわね」


穏やかで幸せな時間、そんな瞬間はあっという間に過ぎ去って、私は出産を迎えて、無事に女の子を産んだ。


「わあ〜妹だ〜、可愛い〜❤お姉ちゃんだよ〜❤早く遊ぼうね♥️」


そんな娘の笑顔を見てるとたまらなく胸が幸せで本当に良かったって思った。


それから幾年月の季節が過ぎ去り、もうすっかり私は歳を取っていた、それもその筈だ、だって下の子がもう20歳になろうとしているのだから。


成人式を終えたそんなある日


「お父さん、お母さん、今日まで育ててくれて本当にありがとう、報告があります、私ね結婚したい人が居るの、出会ったのは18の頃だったけど、20歳になったら結婚しようって約束してたの」


そんな娘の言葉に旦那は


「そうか、良かったな、おめでとう、お前が元気で今まで生きてくれて本当に良かった、幸せになるんだぞ?」


「お父さん」


「私もお父さんと同じ気持ちよ、幸せになりなさい」


「お母さん、うん、ありがとう」


こうして一番下だったこの子も結婚の為に家を出て私たち二人だけの生活になった。


「月日が過ぎるのは早いな、あの、やり直しの日からとんでもない時間が過ぎ去った」


「そうね、本当に感謝してるの、神さまに、あの世に行ったらありがとうって言わなきゃね」


「ふ、そうだな」


それからの日々も怒涛だった、それぞれが結婚したり子供を産んだり、下の子が結婚し出産してから5年が経ったある日、久しぶりに孫を連れて家へと帰省した。


「ただいま〜」


「あら〜お帰りなさい、疲れたでしょ?」


「うん、今住んでる所からは遠いからね、仕方ないよ、旦那の仕事もあるから」


「そうね、のぞみ〜、おばあちゃんですよ〜こんにちは〜❤」


「ばぁーば、こんちは、ばぁーば、ギュッは?」


「あー、可愛い〜❤ギュッ❤ギュッギュッ❤食べちゃいたい❤」


「ばぁーば、痛い〜❤」


「相変わらずね、母さんも、あれ?お父さんは?」


「ん、んあ、あの人急な会議が入ったって文句タラタラで仕事に行ったわよ、のぞみに会える時間を潰しやがってって」


「あははは、お父さん、のぞみに激甘だからな、下手したら私やお姉ちゃんの時より病気かもwww」


「そうねwww」


旦那は社長で跡継ぎは息子たちなんだけどお前たちは好きな事をやれって継がなくてもいいって言っちゃって、でも長男たちはやる気満々みたいで、今は経営のノウハウを学ぶ為に二人して家族と一緒に海外に行ってる。


「ばぁーば、じぃーじぃは?」


「ん、じぃーじぃはお仕事よ、夜になれば帰ってくるから甘えなさい」


「うー、眠くなっちゃうもん、じぃーじぃ早く帰って来ないかな❤」


なんて可愛い、天使だ、天使以外の何物でもない!思えばあの時この子がくれたブローチ、大切にしてたやつ、あれは娘が結婚の時にお守りだからってあげたんだっけ。


あの時の事を思い出すと自然と涙が出てくる、今こうやって孫と過ごせている幸せな時間を思うと本当に神さまに感謝しかない、きっとこの子が、のぞみが不思議な力でやり直すチャンスをくれたのかな?って今ではそう思えて来るんだ。


すると泣いている私にのぞみが


「ばぁーば?おめめ痛いの?どうしたの?」


「ん?ううん、何でもないの、目にゴミが入っただけよ」


「うー、ばぁーば?これね、のぞみの宝物あげる、はい」


そう言いのぞみが差し出してきたのはあのブローチだった。


「え?いいの?でものぞみの宝物なんじゃないの?」


「うん、でもね、ばぁーばにあげる、ほら、のぞみも片方持ってるんだよ」


「え?」


のぞみが持っていたのはくっつけると一つになるあの日のブローチだった。


その時聞いた話だが、このブローチを買った時片方しか無かったんだけどのぞみが気に入って欲しいって買ってもらった物だったらしい、そして私が娘にあげたブローチを見た時、もしかしてと合わせてみたら一つになったから驚いたらしい。


「こんな事って、こんな夢みたいな事があるなんて、じゃあ本当にこのブローチが私たちの運命を変えてくれたのね」


涙が溢れて止まらない、私は泣きながら目の前にいたのぞみをギュッと抱きしめた。


「ありがとう、のぞみ」


愛しいのぞみを抱きしめつつ私はただ泣いているしか無かった。


それからさらに年月は過ぎ去り、あんなに小さかったのぞみが20歳を迎えようとしていた。


それぞれが独立し会社も息子たちが引き継ぎ、私と旦那は静かな老後を過ごしていた。


「もう死ぬまで長くない、この数十年間、お前とこうして居られて幸せだった」


「それは私の方ですよ、あなたとちゃんと最後まで居られて幸せでした、あなたとやり直せた人生は永遠の宝物でした、ねえあなた?生まれ変わってもまた私と恋してくれますか?」


そんな私の言葉に旦那は笑顔を向けながら


「来世の事は、分からないな」


って愛しい顔で私にそう言ったんだ。


最後に言いたい、浮気や不倫して幸せになろうだなんて甘いんだよ?誰も傷付かない恋なんてこの世には無いんだから、バレないならいいやなんてそんなのは後で後悔するだけ、私みたいに人生をやり直せるわけじゃないんだから、私はただ愛の奇跡に触れただけなんだから、今あなたの側あるその愛を信じて生きてあげて。


こうして私たちの物語は終わりを迎えた。


・・・・・・・・・


ピーポー ピーポー 信号機が点滅する。


赤に変わりそうな時二人の男女がぶつかる。


「あ!ごめんなさい」


「こちらこそ」


すれ違い気になりふと見つめ合う。


「じゃあ」


「ええ」


二人は互いに歩き出し信号が赤に変わる


愛しい風が吹き抜けていく


過去の愛を再び運んできたように


ふと気になり互いに振り返る、静かに瞳か重なる、懐かしい色を描いて


「また」


男の口がそう言った気がした。


「ええ」


女の子もそう返してくれた気がした。


今度こそ互いに歩き始める、何か新しい予感を抱きながら


そしてまた静かに愛は動き出す。        おわり。