らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】 -82ページ目

第270話 天使

携帯からの目次を作りました  



クリヨンをチェックアウトしてから

一番町のデパートに買い物へむかった。


真夏の日差しがキツくて

日除けの帽子を目深にかぶった。


真っ直ぐに伸びる仲良しの影と一緒に

汗ばんだ手をしっかりと繋いで

私達は並んで歩いた。


「まずは水着ね。 どれがいいかな?」


彼の好みを確かめる。

「これなんか似合うんじゃね?」

俊ちゃんは

シンプルな黒のビキニを指差した。


「じゃ、これにする。 猪苗代湖、本当に楽しみだな」


ニコリと微笑むと

俊ちゃんは少し冷房で冷えた私の肩を抱いて

レジまで案内してくれた。


結局私は

浅草公演のレッスンが始まるギリギリまで

仙台にとどまることにした。


一秒でも長く

俊ちゃんと一緒にいたかった。


キラキラと輝く時の刹那。


二人でいる時間は

永遠のようにさえ感じられたけれど

私はもう離れるときの切なさをかみ締めていた。

仙台駅の新幹線のホームで

俊ちゃんに見送られるシーンを思い描くだけで

涙が滲んだ。


「うんと楽しもうね。 最高の想い出つくろぉね。」


胸いっぱいになりながら言った。


私の気持ちを察したのか

俊ちゃんは繋いだ指に力を込めた。


言葉にならない溜息を同時に吐いた。


恋をすると

楽しいだけではすまなくなる。


そんなことは百も承知のはずなのに。




買い物を終えてからランチを食べ

俊ちゃんの住むマンションへ向った。


国分町から歩いて十分くらいの場所で

彼の部屋は十二畳程のワンルームだった。


「綺麗にしてるわねぇ。 A型?」


「んだよぉ」


部屋は本当に綺麗に片付いていた。


「もしかして、誰かと住んでるとかじゃないの?」


男の子の一人暮らしには見えなくて思わず確認した。


「一人だよー。 

俺だけ彼女いなくてさみしかったって言ったべ?」


「でもさー、なんで彼女いないの?

俊ちゃんに彼女いないなんて不自然ってか…

東京じゃホストにはみんな彼女いるし…

もしも彼女いるなら正直に言っていいんだよ?

別にいても当然だと思うし。 ちゃんと別れてくれればいいんだからさ?」


「いないからぁ~!

まりもの方こそ、彼氏いないのは不自然だべ」


「あたしは、本当に半年ちかく彼氏はいなかったの。

でもね、仙台に来てからなんか予感みたいなのあったなぁ。

前ぶれってか前兆ってか・・・。 うまく言えないけど。

だから俊ちゃんと出会ってすぐにわかったよ。

ねぇ、俊ちゃんは運命って信じる?」


「運命とかはよくわかんねーけど

まりもを始めて見たときに、この子は天使だって思ったんだ。

なんでそう思ったんだかわかんねーけどやぁ

おまえ、本当に天使なんじゃないの?」


俊ちゃんは時々

真顔で突拍子もないことを言う。


冗談ではなく比喩でもなくて

本気で私を天使だと思い込んでいるようだった。


「そうかもね。

私は俊ちゃんの天使なのかもよ? あはっ」


着ていたTシャツを脱いで背中を向けた。


「ねぇ、 羽はえてない?

もしかしてこれからはえてくるのかな? 

なんか私までそんな気がしてきちゃう。 あはは」


俊ちゃんは

背中のくぼみをそっと指でなぞりながら

「本当に羽がはえても俺のこと置いて飛んでいくなよわ」

と心配そうに言った。


私達は

いつのまにか不思議な扉をくぐりぬけて

御伽話の中に入り込んでしまったみたいだった。





俊ちゃんに抱かれると

身体はいつものように私を裏切らなかった。


潤んで溢れて

ピタリと馴染んで愛しさに身悶えた。




ビールの空き缶を灰皿にして

私はベッドの上で煙草を吸っていた。


ふと部屋の片隅に置かれている本が目に留まった。


彼の部屋に

本はこの一冊しかなかった。


「フラワーアレンジメント? なんであんな本あるの?」


綺麗な花の写真の表紙を眺めながら尋ねた。


「あー、俺ね、将来は花屋やるのが夢なんだ~」


「へぇー、 男の子なのに変わってるねぇ」


「花が好きなのやぁ。

昔さぁ~林間学校とか修学旅行とかで

人の写真ば撮らないで花の写真ばっかり撮って帰ったらやぁ

父ちゃんにすげーバカにされたんだ」


俊ちゃんは唇と尖らせながら言った。


「あはっ、そうなんだ。

ねぇもっと子供の頃の話きかせてよ。

なんでもいいわ。 私、俊ちゃんのこともっと知りたい」


俊ちゃんの顔から表情が消えた。


「別に、何もないよー……」


歯切れ悪くこたえると別の話題を振ってきた。


俊ちゃんは自分のことを

あまり話したくないようだった。


彼の表情や言葉は

わかりやすくありのままで

何一つ嘘はないように感じたけれど

ある部分だけがポッカリと空洞になっていて

そこだけはいくら覗き込んでも真っ暗闇で何も見えなかった。




「これは? どうしたの?」


俊ちゃんの左腕には

北斗七星の形の根性焼きがあった。


「あー…… これは自分でやったのさぁ」


「えー? 自分で根性焼きなんてするのぉ?

先輩にヤキ入れられたんじゃなくて?」


私は驚いて

彼の左腕をまじまじと見詰めた。


七つのケロイドは痛々しく

クッキリと痕を残している。


「もういいべ、 この話は……」


俊ちゃんが話をはぐらかしたから

私もそれ以上聞こうとはしなかった。


いろいろと話していくうちに

少しづつ俊ちゃんの成り立ちはわかってきた。


彼は三人兄弟の真ん中で

実家は美容院を営んでいるらしい。

学生時代はサッカー部で

昔の写真も見せてくれた。



「俺は天涯孤独なのやぁ」


何気ない会話の中で

ポロっと零れる言葉の中に

彼の心に満ちた深い悲しみを読み取っていた。


道に迷ってへたり込み

絶望している少年の面影を

俊ちゃんの中に見た気がした。


そしてそれが

なぜか自分の分身のように感じていた。


「大丈夫、私がついてるわ」


私は言い

左腕の傷痕に唇を押し当てた。


俊ちゃんは私の足に足を絡めて

ギュゥと締めた。


私は本当に

俊ちゃんの天使になりたかった。


それだけが

あの頃の私の望みだった。



なんか気持ちだけが先走っていて

あまり俊ちゃんのことを魅力的に描けていないかもですね。 まぁジワジワ描けるといいなぁと思っています^^

不思議な人だったので、この時点では私もよくわかってなかったのかな。 ただすごい引力で惹きつけられてて。


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