第026話 援助交際
あんまりにもあっさりと返事をした私に
おやじは大袈裟に驚いて
目をパチパチとさせている。
冗談だったのかもしれない。
私が真顔なのを見極めたおやじは
私の気が変わらないうちにと
具体的な約束と段取りを決めはじめた。
「わかりました。よろしくお願いします。」
シャネルのピアスを思い浮かべながら
柄にもなく礼儀正しい返事をする。
おやじは疑いの色を浮かべながら
私の顔をじっと観察している。
「ちゃんと行くってば。」
愛想良くおやじにサービスウィンクをしてみせた。
待ち合わせの日
時間通りにやってきた私を見て
おやじは機嫌良さそうに西新宿にある
京王プラザホテルに車を走らせた。
会話はなかった。
手馴れた様子でチェックインしているのを
手持ち無沙汰でただぼんやりと眺めていた。
ロビーには観光客や
ケーキバイキング目当ての
金持ちそうな主婦がたくさんいて
いかにも水商売風の私は
ひどく場違いな様に思えた。
シティホテルなど初めてだったので
男がチェックインしている時に
女がどのようにして待てばいいのか
知るはずもなかった。
そういえば
泉さんもシャネルのピアスをしている。
私は待っている間に泉さんの事を思い出していた。
泉さんはアクセサリーは全て
シャネルで統一しているのだった。
何種類も持っているのでバリエーションが豊富で
いつも本当によく似合っている。
ショウタイムの時
泉さんの動きに合わせて
耳元で揺れるそのピアスや
照明を浴びて胸元で存在感を現すシャネルマークを見て
心底憧れていたのは私だけではなかっただろう。
私のシャネルへの強い憧れは
泉さんへの憧れが投影されていただけなのかもしれない。
「まりもちゃん、行くよー!」
「はい。」
エレベーターの扉が開いた。
私はその箱に乗り込む。
箱の内側から見た「扉の閉まっていく光景」は
スローモーションのようにゆっくりと私の目に映り
この光景をきっと一生忘れないだろうと思わせた。
それはとても象徴的で深く心に刻み込まれたのだった。
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