第146話 拒絶
家に帰ると
部屋に電気がついていて
いつもはまだ寝ているはずのヒカルが起きていた。
「ただいまぁ、もう起きてたんだ。」
私はヒールを脱ぎながら
笑顔を取り繕う。
「おつかれ。」
ヒカルはとくに変わった様子はなく
缶ビールを飲みながら
リビングでテレビを見ていた。
「あぁ~、疲れたぁ。シャワー浴びてくるねぇ」
私はなんとなく居心地が悪くて
すぐにお風呂場に向かった。
私がシャワーから上がって
洗面台の前で化粧水を叩き込んでいると
ヒカルがいつのまにか後ろにいて
抱きついてきた。
ヒカルは
バスローブの隙間から胸に手を入れ
私の首筋に唇を這わせてくる。
「あぅ・・・ごめん。 今日は疲れてるんだ・・・。」
私はとてもそんな気にはなれず
ヒカルの手を押しのけてしまう。
ヒカルの誘いを拒絶するのは
この時が初めてだった。
ヒカルはやめようとはせずに
力をこめて私を抱き寄せ
唇を重ねてくる。
「ぅん・・・ごめん。 やめて・・・」
私が思わず顔を背けると
ヒカルは癇癪を起こしはじめた。
「んだよ! 仕事でしてきて俺とは出来ないのかよ!」
私は一瞬呆然となり
頭の中が真っ白になった。
でも
ヒカルのその言葉に
傷つくだけの元気すら残っていなかった。
ただウンザリとして面倒臭く
勘弁して欲しいと感じていた。
「そういう問題じゃないでしょ・・・。ほんと疲れてんの。」
私がそっけなく言い
リビングに逃げると
ヒカルはまだ食い下がってくる。
「今おまえの事が抱きたいんだよ! 俺の気持ちもわかってくれよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
私にはヒカルを受け入れるだけの余裕はない。
ヒカルの方こそ、私の気持ちもわかってよ! と言いたかった。
心も体も限界まで疲れている。
SEXなんて絶対にしたくない。
でも、言葉でそれを説明するのは無理だと解っていたし
それ以前に今はもう何も話をしたくはなかった。
ヒカルは構う事なく
ソファーに私を押し倒した。
何がなんでもヤル気なんだ・・・。
私はヒカルの強引なところが気にいっていた。
ヒカルは自分に自信のある人だったから
いつも強引なところがあった。
そして
多少強引に事を運んでも
それが許されるタイプだった。
でも
この時ばかりは
ヒカルの強引さを憎んだ。
この瞬間の私は
愛や恋には届かない
もっと根源的な内面の危機を抱えていたのだと思う。
私は腹が立ってきて
ヒカルの事を思い切り突き飛ばした。
「もう! 本当やめてよ! ウザイってば!!」
とうとう切れてしまった。
自分の心に余裕とゆとりが全く無ければ
例え愛する人の事でも思いやる事は出来ない。
ヒカルはとても悲しそうな表情を浮かべて
私の事を見詰める。
切なそうに噛み締めている唇からは
何も言葉が出てこない様子だ。
ヒカルのその顔を見ていると
自己嫌悪に陥ったけれど
まだヒカルの事を許せない自分がいる。
ヒカルとの関係に亀裂が入ったと感じた瞬間だった。
やっぱり・・・
AV女優と付き合える男なんているわけがない。
はじめから解っていたはずなのに・・・。
疲れた全身に
絶望感が広がっていった。
今ならヒカルのジレンマも解るんですけどね。当時はヒカルの我侭としか思えなかったな。
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