第202話 しきたり
客から差し入れされたケーキは九つ。
律儀に丁度人数分入っていた。
「あのぉ、これお客さんからもらったので、良かったらどうぞぉ。」
私はケーキを配ってまわる。
姐さん達はみんな
「大丈夫でーす」と、曖昧な返事をする。
大丈夫ですって何?
いるの? いらないの?
どっちの意味?
わからない私は
冷蔵庫の上に置いてあった紙皿にケーキを移して
一人一人の化粧前に置いていく。
化粧前には
それぞれの名前が書かれた紙が貼り付けられている。
香盤表と化粧前に貼られた名前を照らし合わせて
全員の名前を一通り覚えようと試みる。
隣の姐さんは
『立花 杏』 という名前だ。
30歳くらいに見える。
さっきからひっきりなしに煙草に火をつけては
まだ半分も吸い終わっていない吸殻で灰皿を山盛りにさせている。
すごいチェーンスモーカーなんだなぁ
と、私は思う。
「お姐さんはストリップ歴は長いんですか?」
私は思いたって声をかけてみた。
杏姐さんは
立膝をついたまま顔の角度をゆっくりと変える。
「8年くらいだね。」
横目で私を捉え
ハスキーでくぐもった低い声で答える。
なんとも言えない迫力がある。
「8年ですかー! ベテランさんなんですね。 どこに住んでるんですか?」
「家はないよ。」
「えっ?」
「踊り子やってると家なんて必要ないだろう?
10日公演、休みなしで全国各地を回るんだから。
私はDX専属だけどね、ドサ周りの旅芸人みたいなもんだ。
のった劇場の楽屋が私の宿になるんさ。
ここは大部屋だけど、地方の劇場は個室の楽屋もけっこうあるんだよ。
慣れれば案外いいもんさ。
飯が出るところもあるし、風呂だってちゃんとついてんだから。」
杏姐さんは
立てた膝の上に頬杖をついて
顎を上げた状態で話しをする。
「へぇー、楽屋に寝泊りするのかぁ。
お休みなしで疲れないんですか?」
私は話を続けようと
会話の糸口を探る。
「どうして疲れんだよ?
日に4度、20分やそこら踊るだけじゃないか。
あとはゴロゴロしてりゃいいんだからさ。
これで疲れるなんざ言ったら、世の中の人に申し訳ないだろうよ?」
杏姐さんは首を傾げて
卑屈な笑顔を作る。
「たしかにそぉですよねー。」
私は相槌をうちながら
10日おきに地方を渡り歩く生活を思い浮かべる。
きっと彼氏も友達も出来ない。
杏姐さんの生牡蠣みたいな瞳を見ながら
一体何が楽しくて生きているのだろう
と、私はしんみりと考え込んでしまった。
杏姐さんは
シャネルの白粉を
パンパンパンっと顔にはたきはじめる。
話がとぎれたので
私は少し横になろうかと思い
ごろんと寝ころがった。
『?!』
肩のあたりを唐突に蹴飛ばされた。
「化粧前に足向けて寝るんじゃないよ。」
杏姐さんが眉間にシワを寄せて
寝ている私を見下ろしている。
「はっ・・・?」
私は意味がわからずに起き上がる。
「周りを見てごらん。
みんな頭を鏡側、足を部屋の中央に向けて寝てんだろ?
化粧前ってのは踊り子にとっては神聖な場所なんだよ。
足向けて寝るなんてもってのほかさ。
AVさんのおかげでたしかに客は入るけどねえ・・・
あんたらは、この業界のしきたりっつ~もんを何も解っちゃいないんだ。
覚えておかないと、のちのち、苦労するよ?
ストリップの世界にはルールやしきたりが山ほどあるんだから。」
杏姐さんは
眉根を八の字に寄せて
煙草の煙をプカっーと吐き出す。
「はぁ、すいません。
シキタリですか・・・。 はぃ。」
私は肩を狭めてペコペコと謝り
言われたとおりに
頭と足を逆にして横になった。
くだらねーーーーー!
てか、おっかねーーーー!
腹の中ではそう思っていたが
「郷に入らばなんとやら」だな・・・
と、すぐに思い直したのだった。
ストリップ界のシキタリ、いろいろあったよぉ~!
『アソコは見せても肛門は見せるな!』 とかね(笑)
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