第319話 再会 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第319話 再会

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仙台駅のホームで二人は再会を果たした。


俊ちゃんに逢うまでは

途中で新幹線を降りて引き返したいと思う程

仙台に対する恐怖心でいっぱいだったのに

顔を見た瞬間、その思いは消えてしまった。


差し出された俊ちゃんの手に触れると

雑踏も行き交う人々もただの背景となり

『何を怖がる必要があるだろう』と本心から思えた。


「ただいま」   「おかえり」


なにもかもが愛しかった。

今にも零れ落ちそうな涙のせいで瞳が滲み視界はぼやけた。


私が俯いて唇を噛み締めていると

俊ちゃんは私の手をひいて優しく歩き始めた。


国分町のビジネスホテルにチェックインしてから

すぐに二人で不動産を回ることにした。


『国分町まで徒歩圏内で家賃十万円以下のところ』

新居に求める条件はそれだけだった。


不動産屋の担当と一緒に部屋の内見に向かった。


一件目は古いアパートで家賃は8万円だったけれど

どうしても私が気にいらずに断った。


二件目に紹介されたマンションは

築年数も新しく設備もそれなりに整っていた。


国分町まで歩いて5分、そんなに広くはないけれど3LDKで

8階建ての7階にある一部屋だった。


家賃は管理費込みで14万円だと言われた。


「ここに決めようよ! 綺麗だし、USENついてるのがいいよ」私が言うと

俊ちゃんは「家賃が高い…」と首を横に振った。


「えーー! 14万ならやっていけるよ。 これからは私もちゃんと半分払うし。

7万だったら、前に俊ちゃんが住んでいたところと変わらないでしょ?」


「う~ん… 家賃は俺が払うよ。 だから10万以内のところにしよう」


「どうして? 私も払うってば! お願い! ここが気にいったの!

それに、もう疲れちゃったよ。 早く決めてゆっくりしたい」


結局、私の我侭を通して契約の運びとなった。


東京育ちの私にとっては

繁華街に徒歩五分、しかも3LDKのマンションが

10万円代で借りられることは驚きだった。


敷金と礼金、前家賃などを含めて

その場で現金70万円程を支払った。


すぐに入居できると言われたので

そのまま鍵をもらい、布団と日用品を買って部屋に戻った。


カーテンもなくガランとした部屋はとても冷えた。


「やっぱりこっちは寒いねぇ。

東京はまだコートを着なくてもいけるけど、仙台はもう冬ってかんじだなぁ」


「そうか? これ、すげー暖かいから俺は全然寒くねぇわ」


俊ちゃんは

さっきあげたばかりのセーターを

指先でつまんで微笑んだ。


ほんの少しだけ、腕の丈が短かったけれど

セーターは俊ちゃんによく似合っていた。


「あは、愛情がこもってるから暖かくて当然ね」

私は照れながら言った。


セーターも彼が袖を通してくれたことを

喜んでいるように見えた。


コンビニで買ってきた缶コーヒーで手を温めながら

離れていた時間を埋めるようにいろいろな話をした。


「いい部屋が見つかって良かった。 これで安心だね。

今まで遠くから仕事に通わないといけなくて大変だったでしょう?

本当にごめんね。 これから、うんと尽くすから許してね」


「気にすんなって。 おまえが無事に戻ってくれただけで…」


俊ちゃんはそこまで言うと言葉に詰まり顔を背けた。


「どうしたの? …泣いてるの?」


俊ちゃんが鼻を啜る音が何もない部屋に響く。


私は自分のことで精一杯で

今までずっと俊ちゃんの気持ちまで考える余裕がなかった。


私があんな形で仙台をあとにしてから

彼はどんな気持ちでどんな生活をしていたのだろう。

そう思うと熱いものがこみ上げてきた。


俊ちゃんは誰に相談することもなく

ただ一人きりで歯を食いしばり頑張っていたに違いない。


家族と医者の万全のサポートの元でどうにか苦難を乗り切った私は

とても幼く中途半端な甘ったれだと感じた。


私は家出をしてからも

本当はちっとも自立できていないのだ。


事ある度に親に尻拭いをさせ

そしてそれをどこかで当然だと思っている。


堪え切れず泣いている彼の背中を

私は言葉にならない思いで抱きしめた。


目を閉じると

全ての境界線が溶けていき

心がじんわりと温かくなるのを感じた。


大きな愛が

二人をすっぽりと包み込んで

私達は完全に一つの物として同化してしまうようだった。


――赤い糸で結ばれたソウルメイト――


何度となく繰り返されるこの感覚は

何よりもリアルで確かなものだった。



布団の中で

互いの体温を分け合うように身を寄せ合った。


「これからは家賃も光熱費も折半で生活しようね。

あたしもすぐに働くよ。 杏奈ちゃんにお店を紹介してもらう」


「そういえば杏奈ちゃん、最近お店移ったらしいよ」


「そぉなんだ。 じゃぁ、私もそこで働かせてもらえるかな?」


「杏奈ちゃんに直接聞いてみたらいいべ」


「それもそうだね」


私は杏奈に電話をいれ、仙台に戻ったことを伝えた。


杏奈は「今まで何してたの~?」と不思議そうに聞いた。


私は口篭りながら

身内が病気になって東京に戻っていたと嘘をついた。


正直に全てを話すにはヘビー過ぎるし

杏奈もそれ以上は尋ねたりしなかった。


「それでね、部屋も借りたことだし、すぐにでも夜働きたいの。

杏奈のお店紹介してもらないかな?」


「今のお店は友達がママをやってる小箱のクラブなんだよね。

まりもちゃんだったら、私が前に勤めてたキャバの方があうかもしれない。

仙台で一番大きな水商売のチェーン店だし、働きやすいと思うよ。

キャバとクラブ、全部で6店舗あるから好きなところを選ばせてもらったらいいんじゃない? 

とにかく相談にのるよ。 良かったら今日逢わない?」


「うん。 お願いできる? 

杏奈、今日は出勤でしょ? 夜、適当に顔出すよ」


「OK。 じゃ、詳しくはその時にね」


杏奈の店に行く約束をして電話を切った。


一段落して私が溜息を吐くと

俊ちゃんは「もうずっと俺の傍にいろよわ」と言いながら唇を重ねてきた。


彼の唇が余韻を残して離れる。


『ようやくここに戻ってこられた』という実感が私の胸を熱くさせた。


幸せだった。


今度こそ

この幸せがいつまでも続いていくのだと信じて疑わなかった。



更新遅くてごめんなさぃー! 暮れは忙しいですね! 

この章もあと一話で終わりです。

実はユウに引き続きヒカルとも再会しました。 

章間の挨拶文で詳しくは書きますねぇ^^


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