第242話 壊れた玩具 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第242話 壊れた玩具

宝石ブルー携帯からの目次を作りました  



「正直に話して」


鋭い眼差しでユウを正面から覗き込む。


虚ろなユウの瞳には

絶望の影が色濃く揺らいでいる。


大きく開いた瞳孔は

深く悲しい漆黒の湖を思わせた。


「俺は・・・シャブを憎んでる。 シャブを憎んでいるんだ。

シャブが憎い シャブが憎い シャブが憎い シャブが憎い・・・・・・」


小刻みに頭を振りながら

ユウは独り言のように繰り返す。


あまりにもシュールな現状に

私は根源的な恐怖を感じて身震いした。


「ユウ、しっかりして!! 

何時にどのくらいの量をやったの?!」


強い口調で

一番肝心だと思われることを訊いた。


「・・・・・・

4時か・・・ 5時か・・・

わからない・・・  あれは何時くらいだったのかな・・・」


ユウの心もとない言葉が耳を通り抜けていく間に

いつもの隠し場所に元通り仕舞われていたシャブのパケを取り出した。


照明に透かして中身を確認する。


ビニールの上から

指先で何度かパンパン叩き

軽く左右に振ってみる。


量が減っているようには見えない。


ユウの演技? いたずら?

手の込んだ悪ふざけをしているの?

それとも夢?


ああ、そんなはずはない!


私は自分の甘すぎる考えを追い払い

台所へと走った。


唇を噛み締めて

残っていたシャブを全てシンクに流す。


静かな部屋に

水が流れる音だけが響き渡った。


ああ、神様!

一体どうすればいいの!


頭が混乱して

思うように言葉が出てこず

神様に縋ることしか思い付かない。


呆然と立ち尽くす私に

ユウは悲しげな目を向けた。


何秒間か

私達は無言のまま見詰めあった。


「シャブをやっていなかったら

絶対に同意書にはサインをしなかった。

本来、子供を殺すという選択肢は俺の中にはない!」


語尾は震えていたけれど

口調は力強く意思が篭っていた。


ユウの言葉が私の全身を貫いた。


この子にとって中絶という現実は

想像も出来ない程の破壊力を持っていたんだ。


今更ながらそれを痛感し私は途方に暮れた。


事態を好転させる方法がないものか

それはもはや絶望的に思えたけれど

私は諦めずに糸口を探った。


今起きていることを

正確に把握しなければならない。


「それで・・・ どうしてシャブを?」


勤めて平静を保ちながら尋ねる。


ユウが重い口を開く。

「帰ってきて・・・ すぐにテキストを開いた。

まりもとの約束通り、明日の試験に集中しようと気持ちを奮い立たせた。


ここ何日間かは勉強は出来なかったけど問題はない。

試験に受かるだけの準備は今までに充分してきていたから。


でも・・・

練習問題を解きながら俺は焦った。


ダメなんだ・・・

いつのまにか頭が空っぽになってしまう。


問題の答えは全部きちんと正解なんだよ。

だけど・・・ 3問とか5問とか解答すると知らない間にぼおっとしてる。

時間があっというまに過ぎていくんだ・・・。 


集中しろ! って何度言い聞かせても

意識が全然まとまらない。 散漫なんだ。


脳が・・・ 入力を拒絶しているみたいで

自分の意思ではどうにもならなかった。


恐ろしくて一人でがたがた震えた。

俺は壊れてしまったのか? って何度も自問自答しながら・・・。


このままじゃ、明日の試験なんて受かるわけがない。

まともに最後まで解答用紙を埋めることもままならないよ!


シャブを入れれば・・・

ほんの少しだけシャブを入れれば

集中力が戻るかもしれない・・・


その考えは心の隙間にすっと入り込んできて

俺を縛り付けた。


本当に少しだけ。

3粒くらいだったけど・・・ アルミに乗せて炙った。 


そのとき俺は悟ったよ。


ああ、俺は本当におかしい。

狂ったに違いないってさ。


だってそうだろ? はは・・・ ははは 

何よりも憎くて堪らないシャブを何故? 


ねえ、まりも、 俺は壊れちゃったのかな? 

どうしてこんなことになっちゃったの?」


ユウは泣きながら笑っていた。


不気味なユウの笑い顔を見て

私は愕然として目を逸らした。


こんな結末を誰が予想しただろう。


ユウは完全に精神に異常をきたしている。


原因が中絶で

きっかけはシャブ?

その逆? 

ああ わからないけれど

とにかくユウは臨界点を超えてしまった。


私は自分も涙を堪えるのに必死になりながら

ユウの頬を次から次と流れ落ちる雫を両手で拭った。


「かわいそうに」

言いながらユウを抱きしめると目をきつく瞑った。


心の中で何度も神様に祈った。

「ユウを元通りにしてください、私に罰を与えてください」


壊れた玩具を抱きながら私は思い知った。


私と付き合う男は絶対に無傷ではいられない。


さんざ危ない橋を渡りながら生きながらえてきた私とこの子は違うんだ。  

こんなに無理をさせていたなんて。

今ならユウはギリギリ生還できるかもしれない。




人の心はとても脆い。 ユウが、特別に繊細だったのだろうか。

いつも整然と論理的思考の出来たユウが別人になってしまった。

もちろん、そうなった大きな要素は覚醒剤であったと思う。

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