第203話 大御所 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第203話 大御所

初舞台で

史上最悪の失態を演じた私であったが

その後のステージではリラックスして踊ることが出来た。


「もうあれ以上最悪なことはおこりえない!」


そう思うことで

気が楽になったのだと思う。


夜になるにつれ

客はさらに増えていった。


アリちゃんから踊り子全員に

熨斗袋が配られた。


「大入り袋」と書かれた

その赤い袋の中身は

千円札が一枚としょぼいものだった。


ビデオメーカーやプロダクションから

たくさんの花束が楽屋に届けられた。


花瓶にも限りがあるので

いくつかの花束をドライフラワーにしようと思い

茎をカットして水気を拭き取り一まとめにしてから壁に吊るした。


「ドライフラワーやめてくれない?」


威圧的な口調で文句をつけてきたのは

このメンバー内で一番年上に見える

一条 蘭華 姐さんだ。


「ドライフラワーは客が枯れるって、縁起悪いんだよ。」


げぇ・・・

またもやくだらねーーーー!


「あぁ、そうなんですか! すいませーん。」


私はいそいそと吊るした花をはずし

おだやかな笑顔を作って

ペコリと会釈をした。


蘭華姐さんは無視した。


・・・やれやれ・・・


初日からこれじゃ先が思いやられるなぁ・・・

私はため息をついた。


蘭華姐さんは

投光室の照明のおじさんを楽屋に呼びつけて

いろいろと指示を出している。


「2曲目は赤のスポットライトにして」

「4曲目の終わりはフェードアウトにして」


おじさんは

「はい、はい、はい、」

とメモを取りながら

真剣に話を聞いている。


蘭華姐さんは

藤の花のかんざしが挿さった花魁みたいなカツラをかぶり

仰々しい真っ赤な振袖の衣装で

和ものの出し物をしている。


ギャラは全て衣装代に消えるのではないか

と思わずにはいられない豪華さである。

細面の輪郭に

切れ長で冷たい印象を与える瞳。

綺麗ではないけれど

決して不細工ともいえない

不思議な顔立ちをしている。

「蘭華姐さん、 お勉強させていただきまーす。」

杏姐さんがそう言いだすと

他の踊り子達も「私もお願いしまーす!」

と全員が蘭華姐さんのステージを見学にいった。


きっと相当な大御所なのだろう。


だだっ広い楽屋に

一人ポツンと取り残された私は

『ガァァァァァァ~~~~~!!!』

と声にならない声をあげ

大の字で寝転がって足をバタつかせた。


一日過ごしてみて

楽屋内の力関係のようなものが

おぼろげなから解ってきたような気がする。


最低限の会話しかなされていないが

それでもみんなが

蘭華姐さんに気を使っていることは

ありありと見て取れた。


買い物に行く踊り子は必ず

「蘭華姐さん、何か必要なものありませんか?」

と聞いてから出ていくし

お茶を出したり灰皿を変えたりと

みんなが小間使いのような役割を果たしている。


蘭華姐さんは

楽屋という狭い世界の中で

女王のように君臨しているのだった。


この人の機嫌を損ねちゃいけない。

私は直感的にそう感じていた。






後々、蘭華姐さんの日舞を私も見せてもらう機会があったのですが

素晴らしかったですー。 あれはストリップではなく芸術でしたー。

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