第201話 初舞台 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第201話 初舞台

姐さん達は

自分の出番が終わると

「おつかれさまでーす」と

全く抑揚のない発音で形ばかりの挨拶をし

座布団を二つ折りにして寝転がり目をつぶる。


一度出番を終えると2時間半は暇だから

みんな昼寝をするようだ。


私は

シャワーを浴び

入念に体を磨き上げる。


ブラをつけて胸を寄せ上げ

パンティをはいて

ヘアーがはみ出していないか手鏡で確認する。


普段より3割増しくらいの濃いメイクを施す。


衣装に着替える。


例のネコ耳もつけ

鏡に向かって可愛い子ぶった笑顔を作る。


『まんざらでもなぃわ!』


自己暗示をかけるように

自分自身にそう言い聞かせる。


プログラムは順調に

淡々と進行していく。


入れ替わり立ち代り

姐さん達は舞台に向かい

また楽屋に戻ってくる。




いよいよ私の出番になり

私は暗幕の内側の中心に立つ。


暗闇のステージ上で
私の両足はワナワナと震えはじめる。


心臓がありえない早さで波打つ。


口の中がカラカラに乾いている。


足の震えをとめようと焦ると

余計に膝が大きく震えて

ヒールの踵がカクカクと音をたてる。


全く勉強をしないまま

大事な試験に挑むかのような緊張感で

頭の中が真っ白になってしまう。


何度も聴きこんだ森高千里の曲。


その伴奏と共に幕が上がり

煌々と光るスポットライトと客席からの視線が

私の身体に突き刺さる。


客席は満員御礼。


立ち見客の人垣が盆を囲んで

何重もの輪になっていて

私は息を呑む。


体が強張って動かない。


記憶が飛ぶ。


振り付けを完全に忘れてしまい

曲はとっくにはじまっているのに

私は舞台中央に突っ立ったままだ。


耳が真っ赤に染まり

引き攣った笑顔が凍りつく。


入り口の扉付近に目をやると

アリちゃんとジイヤが

「マズイ!」という表情で固唾を呑んでいるのが見える。


サビのメロディになり

ようやく振り付けを思い出した私は

唐突に足を振り上げ踊り始めた。


それから後はよく覚えていない。


盆の上では

パンティを早く脱ぎすぎて間がもたず

涙目でただくるくる回っているだけだった。


最後の曲になると

客席のあちこちから手が伸びて

花束やぬいぐるみやケーキの箱やらを

手渡される。


プレゼントを受け取り

握手をかわす。


他の客からも

次々と握手を求められる。


暖かいお客さんの反応を

心からありがたいと感じた。


楽屋に戻った私は

その場にへなへなと座り込んだ。


自分の悲惨な醜態を

思い出すのも嫌だった。


初めてのAV撮影の時でさえ

こんな種類の羞恥心は感じなかった。


今にも泣きそうになっていると

アリちゃんとジイヤが慌てて楽屋に入ってきた。


「おまえ、とちりよったのー! わはは」


アリちゃんがわざとらしいくらい明るい声で言う。


「緊張したのか? おまえさんらしくないじゃないか。」


ジイヤは

なんてことないぞ、という優しい視線を投げかけてくれるが

暗澹たる気分は晴れるどころか

私は余計に落ち込んでしまう。


「超恥ずかしい・・・。」


ふさぎこむ私を

アリちゃんは必死で励まそうとする。


「えらい仰山客入っとるでー。 

今日は大入り袋確定や。 

AV女優の初舞台はほんまによお客はいるんよ。 

もう次からは緊張せんやろ、 なあ?」


「・・・・・・・。」


何も言葉が出てこなかった。


ステージの上では誰も助けてくれない。

自分でどうにかするしかないのだ。


あんなにあがってしまうなんて

思いもしなかった。



たくさん練習したのに・・・


悔しくてたまらない。


森高にネコ耳・・・


みっともない。


あんまりにも格好悪すぎる・・・


あんなに大勢の人前で恥をかくなんて。


最低だ・・・



私のストリップデビュー

初舞台は散々な結果に終わったのだった。





今思い出しても・・・顔から火がでるってかんじで; マジ恥ずかしかったなぁ。

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