第180話 取引 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第180話 取引

六本木通りをしばらく歩くと

外国人の人口が急に増える。


彼らはいつでも上機嫌だ。


こんなに寒い日でも

店の外に出て陽気にビールを飲んでいる。


外人の露天商が

ホステス向けの派手なアクセサリーを売っている。


ここのアクセサリーは

1つ3千円とお手ごろ価格なのに洒落ていて

私もよく身に着けている。


今日も気に入ったイヤリングがあったので

いつもどおり2つで5千円にまけてもらい

金具をピアスに変えてもらう。


露天商のお兄ちゃんは

口笛を吹きながら

器用な手つきでペンチを使い

金具を取り替えてくれる。


ユウは寒そうに両手をこすり合わせながら

ピアスが出来上がるのを一緒に待っていてくれる。



待っている間に

お釣りの5千円札を幾重にも折り畳む。


小さくなった札を右手に握って隠し持つ。


ピアスを受け取り

さらに六本木通りを歩いていくと

国道に出る。


国道を右折すると

待ち合わせ場所であるホンダのショールームだ。


トミーはいつも

どこからともなく現れる。


私達は

ほんの少しだけ世間話をする。


「hi!最近どう?」


「ご機嫌よ♪」


などのどうでもいい会話だが

彼の日本語はなかなか上手い。


トミーの国籍を私は知らない。


白人で金髪

背が高くて男前。


だから私は

イタリア人かアメリカ人だと

かってに決め付けている。


それから私達は

ヒソヒソ声で短い会話を交わす。


「またね」

そんな挨拶と同時に

私とトミーはごく自然に右手を握り合う。


取引完了だ。


私はすぐにタクシーを止めて

ユウに乗るように促す。


タクシーに行き先を告げ

後ろを振り返ると

トミーはもうどこにもいない。


『チョコワンジーデ』

たしかにどこかの国の言葉に聞こえないこともないか

と私は一人で可笑しくなる。


これは

「チョコ1Gで」

つまり、マリファナの樹脂を1グラム買いたいという

ドラッグ取引での隠語なのだ。


私とヒカルは

チョコの常習者だった。


上野のイラン人から仕入れていたのだけど

ある日

「アナタ達はもう常連だから、コチラの番号で」

片言の日本語でそう言われ

渡されたメモ帳の切れ端にはトミーの電話番号が書いてあった。


馴染みのプッシャーが出来ると

値下げはしてくれなくても量をサービスしてくれたり

何か別のドラッグをサンプルでつけてくれたりする。


今日は

「煙草の空き箱の中に

オマケ入れておいた」

とヒソヒソ声で耳打ちされていた。


タクシーの中で

こっそり開けてみると

はじめは何も入っていないように見えた。


よく中を覗き込むと

小さな正方形の紙が入っている。


本当に小さいものだ。


直径が1cmあるだろうか

こんなに小さな紙が何かのドラッグなの?

私はふに落ちないまま

その煙草の空き箱を毛皮のポケットにしまった。


「何? 一体なんなの? 何の用だったんだよ?」


ユウの質問攻めがはじまる。


「家に帰ったら説明するわ。」


私がそう言ってもユウは納得しない。


「さっきから蚊帳の外にしないでよ! 何でも話し合う約束でしょ? まりも!!」


しまいにはユウが

「トミーってまりもの元彼なの?!」

なんて言い出す始末で

私は思わず噴出してしまった。


「少しだまっててよ。 家に帰ったら嫌なことは全部忘れさせてあげるわ。」




チョコワンジーデの意味わかった人けっこういましたね! さて、運命の分かれ道。

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