第150話 多才な彼氏
付き合い始めたばかりの頃
私はいつもヒカルに驚かされていた。
意外な一面を
次から次と出してくる。
私が最初に驚いたのは
ヒカルの話術と歌だった。
カラオケに関しては
目をつぶって聞いていると
BzのCDを聞いているかの様だ。
決して大袈裟ではなく
ヒカルは声も歌い方もBzの稲葉にそっくりだった。
そして
ヒカルは例え遊びとはいえ
勝負事には全力の本気で
何をさせても強かった。
一緒に住んでいて
筋トレをしているところなどは見た事はないのに
腕相撲は店で一番強かった。
誰にでもすぐに
「腕相撲やりましょうよ!」と一戦持ちかけるクセがある。
ビリヤード、ボウリング
なぜかローラースケートなども抜群の腕前だ。
ボウリングで
たまに太一君に負けたりすると
癇癪を起こして勝つまで勝負を続ける。
一度ヒカルがスペアを取れなくて
太一君と二人してからかったら
ボウリングの玉とドカッと落として切れた事がある。
何もそんなに怒らなくても!
と私はびっくりしてしまった。
熱い男なのだ。
料理も上手かった。
ある日ヒカルが炒飯を作ると台所に立った。
玉ねぎの微塵切りをする包丁捌きと
米粒一つ落とさないフライパン返しに私は圧倒された。
ヒカルは何事も形から入るタイプで
料理の味はともかく
料理をする姿はどんなシェフよりも格好良いのではないかと
私は思った。
絵も上手かった。
写実画が得意でよく似顔絵を描いてくれる。
グラビアなどを見ながら書く事が多くて
まるで写し絵を見ている様だった。
一番驚いた出来事は
ヒカルが裁縫道具と何色かの刺繍糸を買ってきた日の事だ。
なんでもない安物のポロシャツが
あっというまにラルフローレンのポロシャツへと生まれ変わった。
ラルフローレンのポロシャツなんて100枚でも買えるだろうけど
ヒカルは自分で何かを創り上げる事が好きな様だ。
得意になって私に見せる姿は
母親に褒めてもらいたい子供のようなあどけなさがある。
ヒカルの自信は
このような才能に裏打ちされているのだなぁと
私は毎回感心していた。
ヒカルにはさらに特殊な才能もあった。
逆さ言葉だ。
「俺、逆さ言葉が得意なんだよね! なんか言葉言ってみて!」
ヒカルに言われて私は適当な言葉を言う。
「ん~・・・ マハラジャ」
「ジャラハマ!」
間髪入れずにヒカルが答える。
「うーん・・・たばこ」
「こばた! もっと難しい言葉を言って!」
「ぇぇ・・・そんな事急に言われても・・・えっと・・・マイルドセブン」
「・・ンブセドルイマ!!」
「てか・・・すごいな! なんでそんなにすぐ出てくるのぉ?」
逆さから言われても
正直あっているのかも私にはわからない。
本当に驚いてしまう。
ヒカルは
「次は? 次は? もっとなんか言葉言ってみて! どんどん続けて言って!」
と私を急かした。
ヒカルはとてもおしゃべりだ。
本当によくしゃべるから
私が疲れている時などは
適当に同意したり曖昧に返事をしながら
ヒカルが疲れて止めるまで話を聞く。
ヒカルの話は楽しい事も多いけれど
「俺ってすごいだろ?」という自己アピールも
同じくらい多かった。
実際ヒカルは本当にすごいと思う。
付き合い始めて2ヶ月がたった今
私はヒカルがどれだけすごい事をしても驚かなくなっていた。
ヒカルだもん、出来て当然。
そうとしか思えなくなってしまった。
ヒカルが多才で出来が良い所を
散々見せ付けられている私には
今更ヒカルが何を出来たところで意外性がないのだ。
ヒカルの才能はホストとしては
最大の武器になっているはずだ。
お客を喜ばすパフォーマンスには事欠かない。
女の子達が夢中になるのも当然だと思う。
ただ
恋人として付き合うには
ちょっぴり疲れる男だと私は思い初めていた。
ヒカルは本当に何をさせても器用だった。反面、自分の感情を取り扱うのは意外と下手だったかも
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