第123話 契約
ずっと直樹とだけの世界で生きていた私に
社会との繋がりができ
病的な癒着カプセルの中から抜け出した私は
不思議と精神的に安定していった。
直樹にも
感情的になって
理不尽な態度を取る事はなくなり
私達は
表面的には結婚目前の円満なカップルそのものだった。
全身全霊で直樹にだけ向かっていたベクトルが
多方に分散された事で
皮肉にも心の余裕が生まれたのだろう。
忙しくなった事で
あれこれと考える時間がなくなっただけかもしれない。
いつも忙しく
心を暇にしないという事は
現実逃避の常套手段なのだ。
人は何事にも慣れて麻痺していく。
最初は服を着てのグラビアだった。
それから水着になり
その次はランジェリーの仕事
そしてその下着は
仕事の度に際どくなっていった。
最初は恥らっていた私も
もう何の抵抗もなく
足を開いてポーズをとれるようになっていた。
少しずつ本当に少しずつだけど
私の中の抵抗線は
あいまいになっていく。
梅ちゃんが提示した
アダルトビデオのギャラは破格だった。
パッケージ撮影が1日
ビデオ撮りで2日
たったの3日間で300万円を支払うと言う。
ギャラは事務所と折半という取り決めだから
ジイヤと私がそれぞれ150万円ずつもらう事になる。
梅ちゃんが社長を勤めるAVメーカーは
AV業界では一流で
歴代の有名AV女優達が
軒並み名を連ねていた。
私は契約書を目の前にしていた。
『本当にSEXするわけでもないのに大金が手に入るんだ・・・』
『1本か2本だけならバレやしない・・・』
『大丈夫、私ならきっとうまくやりきれる!』
直樹の顔が一瞬よぎり
ボールペンを握る手が微かに震える。
『直樹にバレたら・・・結婚は破談になる・・・』
『でも・・・私は本当に直樹と結婚するんだろうか・・・』
『私・・・別に・・・直樹と結婚なんてしたくない!』
この契約書にサインをすればもう戻れない。
私は完全に追い込まれ
人生の別れ道に立っていた。
右に行っても左に行っても
どちらも戻れない道だという事に違いなかった。
私はいつでも自分で自分を追い込んでしまう・・・。
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