第121話 業界への一歩
私が直樹と付き合い
見た目にはとても平和な日常を送っている間に
どうやら世の中はずいぶん変化していたようだ。
先日久しぶりに遊びにいったディスコでも
2年前と比べるとお客さんは3分の1くらいしかいなかった。
バブルがはじけたのだ。
私自身は外で働いているわけでもなく
夜遊びもしていなかったから実感はなかったけれど
世間のあちらこちらでその煽りを受けている人がいた。
直樹に内緒でスカウトマンと待ち合わせをした日
スカウトマンは二人の男を連れて現れた。
一人は30代前半のAVメーカーの社長さんで
『梅ちゃん』と呼ばれていてる。
もう一人は
友人と二人で商社を起業し
バブル全盛期には病院経営なども手がけていたという50代のおじさん。
バブルがはじけて借金を背負い
知り合いのAVメーカーの社長のところに
泣きついてきたところを拾われたらしい。
垂れ目で優しそうな風貌のそのおじさんは
「中山です」と名乗った。
今までずっと表稼業を歩んできたおじさんは
業界人特有の擦れたかんじは全くなく
少しくたびれたサラリーマンに見える。
そのおじさんがプロダクションをやるというので
ぜひタレント1号になってやって欲しいという話だった。
「何したい? 逆にこれはやりたくないっていうのはある?
もしもビデオに出るならいくらほしいとか希望あるかな?
おじさんに何でも言ってみて!」
AVメーカーの社長、梅ちゃんは
サバサバと単刀直入にいろいろと聞いてくる。
「うーん。 とりあえず・・・ビデオはちょっと・・・。
親や彼氏にバレちゃうと困るので・・・。」
「そうだよねー! じゃーさ、宣材だけ撮ってみようよ。
センザイっていうのは宣伝材料の事ね!
プロのメイクさんとカメラマンで撮るとね、別人みたいに写るんだよ!
それを見てやるかどうかは決めたらいいんじゃない?」
「あぁ・・・でも・・・。 うーん」
なんとなく警戒して返事を躊躇していると
梅ちゃんは手をパチンと叩いて
「大丈夫だから信用してよ!」
と大きな声で言う。
「嫌な事はやれって絶対に言わないのがおじさんの主義だからね!」
その言葉はとても頼もしく聞こえ
私の心を開かせた。
「OK! わかりました。 じゃそうするのでよろしくお願いします。」
スカウトマンはいいかげんでろくでもない男にみえるけれど
梅ちゃんと中山さんの事は信じてもいいかもしれない。
私の直感がそう言っている。
「グラビアって脱がないでもいいんですよね?」
「そうだね、とりあえず『アクションカメラ』っていう業界誌があるんだけど
コンビニとかでは売ってないから彼氏にもバレないだろうし
一発目はそれに出てみようか!
セーラー服とかでパンチラとかその程度だよ。」
「胸も出さないでいいんですよね?」
「グラビアでは出さないでいいよ。 ただ宣材を撮る時は胸までは撮ろう!
それは了解してくれる?」
「それは表には出ないんですよね?」
「プロダクションで保有するプロフィールみたいなものだよ。
その写真で仕事を取るだけ。 大丈夫! おじさんに全部まかせなさいよ!
こっちのおじちゃんも本当に良い人だからさ。
君はすっごいラッキーだと思うよ。悪い事務所も山ほどあるんだから。」
梅ちゃんにそう言われて
中山さんは恥ずかしそうににこにこと笑っている。
「そぉですかぁ。 絶対に彼にバレないなら・・・うん。いいですよ。」
「私、グラビアやってみます!」
いよいよ怪しい業界へ足を踏み入れる私!
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