第117話 結婚秒読み
直樹と会っている時以外は
昼間も深夜もずっと魔法の葉巻を吸って過ごす様になった。
上野にいるイラン人からドラッグを買うのは
コンビニでおにぎりを買うのと何も変わらず
とても簡単な事だった。
直樹が仕事から帰ってくる7時から
終電で帰ってしまう12時まで
私はたった5時間しか生きていない。
あとの時間は
ぐにゃぐにゃになりながら
一人Hをしては寝てしまうという繰り返しだ。
直樹といる時には
そんな様子は一切見せずに
普段どおりに明るく振舞う。
こうして
また直樹の事をごまかして
何食わぬ顔で嘘を重ねていく。
私は天才的な嘘つきだと自分で思う程
巧妙な作り話をするのが得意だったから
直樹に悟られるような事はなかった。
直樹は
まさか私がそんな状態だとは知る由もなく
どんなに仕事が忙しくても必ず会いに来て
疲れた体を引きずって終電で帰っていく。
帰り際には
「結婚まで頑張ろうな!」
と優しいキスをしてくれる。
それでも私は
一人の時間を耐える事が出来ずに
何かから逃げるように葉巻に火をつけるのだった。
そんな生活がしばらく続き
私は二十歳になろうとしていた。
お母さんが記念に写真を撮りましょうと
写真館と美容院の予約を入れてくれ
私は赤い振袖を着て
お母さんと二人、銀座の有賀写真館に向った。
お母さんと会うのは久しぶりだったけれど
たまには電話で話をしていた。
「ここの写真館はね、お母さんも撮った事あるのよ。
大学を卒業する時にね。」
「そうなんだぁ。なんか立派な所だね。」
「まりも、彼氏とはうまくいってる?」
私が近況を話すと
お母さんが直樹と会いたいと言うので
夕食の席に直樹も呼ぶ事にした。
直樹は仕事を早々に切り上げ
急いで銀座に駆けつけてくれた。
振袖姿の私を見てとても喜び
「綺麗だね!」
と小声で褒めてくれた。
直樹とお母さんが会うのは初めてだったけれど
直樹は緊張している様には見えず
きちんと挨拶をしてから
お母さんに結婚の意志を伝えた。
お母さんは
「うちの娘と付き合うのは大変でしょう
いろいろと迷惑をかけていると思いますけれどごめんなさいね。」
と直樹に謝っている。
「そんな事ないですよ。
それよりご挨拶が遅れてしまい
本当にすいませんでした。」
と直樹もお母さんに謝っている。
その後
直樹とお母さんはすっかり意気投合して
食事の最中ずっと楽しそうに話をしている。
いつのまにか本当に結婚秒読みだ。
私は他人事の様に二人の会話を聞いている。
今はきっと
とても大事な場面なんだろうな、と思いながらも
なぜかちっともうれしくない事を不思議に感じていた。
続き気になる人はクリックしてね♪
