第115話 直樹の実家へ | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第115話 直樹の実家へ

新宿の伊勢丹でベビーピンクのワンピースを新調し

フルーツタカノで直樹の実家に持っていくお菓子を買った。


その晩

私は緊張してなかなか寝付けずに

頭の中で何度も

直樹の親に挨拶をするシュミレーションを繰り返した。


直樹の実家は

埼玉と東京の境目にあり

閑静な住宅地にある一戸建てで

椿や山茶花の木が綺麗に剪定されている和風のお庭のある家だった。


「ただいまー」

と直樹が玄関を入るとお母さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃい、ごめんなさいね、お父さんがちょうど出張中でね、帰りが明日なのよ。

どうぞ、あがってちょうだい。」


とにこやかな笑顔で招き入れてくれる。


直樹ってお母さん似なんだなぁ!

なんて思いながら

直樹のぶんまで靴を揃えて中に入る。


「あの、これつまらないものですけど」

と用意していたお菓子を差し出す。


こんな事をするのははじめての経験だけど

それなりに出来ているかも!

と好調な滑り出しに自分なりに満足していた。


お母さんは日本茶とさくら餅を用意していてくれて

私は簡単に挨拶をしてからは

いつ直樹が結婚話を切り出すのだろうと

ずっとドキマギしている。


ところが

直樹は仕事の話ばかりしていて

一向にそっちの方向には話が向かわない。


私はお母さんが台所に立った隙に

直樹をせっついてやった。


お母さんが戻ってくると直樹は

「おふくろー、俺、結婚しようかな~と思ってるんだけど。」

と恥ずかしそうに言ってくれた。


『やった!!』


私はその直樹の言葉を聞き

天にも舞い上がる気持ちになったのだけど

お母さんから返ってきた言葉を聞いてその気持ちは一転した。


「そうかい。 まぁ、結婚するのはいいけどさ。

付き合いを反対する気は全くないけどね

でもね直樹・・・。

結婚前のお嬢さんと一緒に暮らすっていうのはケジメがなさすぎるよ。」


お母さんは静かに言葉を選びながら続ける。


「だいたい、まりもさんのご両親に申し訳ないよ。

まりもさんは、まだ二十歳にもなってないんだから、おまえがしっかりしないでどうするんだい?

結婚してから一緒に暮らすという段階をちゃんと踏みなさいよ。

ちょっとだらしないとは思わない?大人としてさ。

まりもさんの親も心配してるんじゃないの?」


「あ・・・えっと、うちの両親は知っているんです。だから、全く問題ないんですよ!」

私が焦ってそう言うと


「そう・・・。でもねぇ。」

とお母さんは黙ってしまった。


「まぁ、たしかにそうだよなぁ~」

なんて直樹まで言い出すから

私の頭の中は真っ白になってしまう。


いかにも直樹の親らしいその言葉に

私はそれ以上何も言う事が出来なかった。


直樹のお母さんはごくごく当たり前の

一般常識を言っているのだと思う。


正論も正論だ!



私ってばなんてバカだったんだろう!


直樹の親に紹介してもらえれば勝ちだ!

みたいな安易な考えだけで

全然こんな展開は予想していなかった。


「また遊びにいらっしゃいね」


とお母さんは快く見送ってくれたけれど

私は車に乗るなり直樹に詰め寄った。


「直樹! 同棲やめるなんて絶対に言わないでよ! そんなの私嫌だからね!」


「ああ。 でも、うちの親の意見もわかるよなぁ~。 うーん、やっぱ心配してるんだろうな。

結婚までは実家に帰るけど、毎日デートするってのはどう?

俺は仕事が終わったら毎日まりもの家に行く。終電で帰るけど、それなら心配ないだろ?

土、日はずっと一緒にいるしさ。な?」


「嫌だよ!! 絶対嫌だ。 無理無理無理無理!!」


「まりもも結婚するまで実家に戻るってのはどう?

花嫁修業とかさ、家族との時間持っておくのもいいんじゃないかなと思うけど」


「ハァ?! 直樹、私の事嫌いになったんでしょ! だったらはっきりそう言えばいいじゃない!」


「おまえねぇ・・・ なんでいつもそうなの?

何のためにおまえを実家に連れていったと思ってるの?

少しは俺の気持ちもわかってくれよ。まりもとの事、真剣だからなのわからない?」


「わかんないよ!!」


「俺さ、結婚する前に親孝行もしておきたいって気持ちもあるんだよ。

弟は仕事で千葉に住んでるしさ、おふくろもちょっとさみしそうな顔してた様な気がしてさ~」


「何よ! このマザコン!! もういい! 車降りるから止めて!!」


「もう! 本当にわからず屋だなー。

ちゃんと、まりもが納得するようにするから。

帰って、きちんと話し合おう。おまえも冷静になってちゃんと話そうよ。な?

これから先はいろいろ話し合わなきゃいけない事も増えてくるんだぞ。

なんかあるたびにヒステリー起こしてたら、おまえの身が持たないぞ?」


直樹は私の目をまっすぐに見てそう言う。


直樹が私との結婚を考えて

一歩づつ前に進もうとしてくれているのがわかる。


でも、私はもう一人では眠れない。

結婚も大事だけど

今日の夜の事の方がもっともっと切実なのだ。


直樹と離れ離れの夜なんて本当に無理なの・・・。

我侭じゃないよ・・・。

直樹がいないと不安で死んじゃいそうになるのよ・・・。


この胸の中を見せる事が出来れば

きっとわかってもらえるのに・・・。


言葉じゃとても説明できない・・・。



「まりも、わかった?」


直樹があんまり真摯な瞳で私を見詰めるから

私も変わらなきゃいけないんだと思い

心細く、うん、と頷いた。





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