第072話 産婦人科
私の手首には包帯が巻かれている。
お母さんが部屋に
朝食の梅粥を持ってくるまで
私は泥の様に眠っていた。
寝ている間に
お父さんが処置してくれたのだと
お母さんが言う。
ぐっすり眠っていて
私は気がつかなかったが
きちんと消毒をして
傷口が塞がる軟膏を塗ってあるらしい。
弟と妹は学校に行き
お父さんも仕事に出かけた後だった。
お母さんが
ひとさじづつ
食べさせてくれようとしたけれど
私は自分で食べられるから大丈夫と
起き上がる。
手首にズキンと痛みが走り
お母さんが手をかしてくれる。
「ありがとう。」
お粥を啜る私を
お母さんは切なげに見ている。
「一緒に産婦人科に行きましょう。」
そう言うお母さんの声は優しい。
「うん。」
「相手は…誰なの?」
「うん…。」
「・・・彼氏ってわけじゃないんだけどね…。」
「…すごく好きな人でさ…。」
優弥の事を思い浮かべながら
私は説明に困ってしまう。
「そう…。とにかく病院に行ってから
後の事は話し合いましょう。」
「うん。」
お母さんはそれ以上は何も聞かなかった。
それは本当に意外な事で
説明する気力のない私は
とてもありがたく感じた。
手首を庇いながらシャワーを浴び
身支度も手伝ってもらわなければ出来なかった。
車で20分程走った場所に
こじんまりとした産婦人科がある。
病院に到着すると
吐き気を我慢する私を
お母さんが抱き支えてくれた。
産婦人科の中に入ると
淡いピンク色の小花模様の壁紙で
窓にも薄いピンク色の可愛らしいカーテンが
かけられている。
何人も妊婦さんが座っていて
みんな幸せそうな顔を浮かべ
赤ちゃんに関する雑誌を広げていたり
自分のお腹を愛しそうに擦っていたり
ご主人と一緒に来ている人もいる。
私は受付で保険証を出し
初診だと伝える。
看護婦さんはピンク色のナース服を着ていて
明るい表情で私に問診表と体温計を持ってきた。
「おしっこを取ったらそちらの台の上に置いておいてください。
その後に診察になりますからね。」
紙コップを手渡され
私はだまって頷いた。
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