わしはずっと八月を、

くり返してきたんじゃ。

 

 

2010年8月

もうすぐ78歳になる熊谷亮輔(クマガイリョウスケ)は白血病で入院していたが希望して退院し自宅療養することになり、妻と娘が自宅で受入れ準備をしていると青い蝶の入った古い標本箱が見つかる。なにこれ?

 

1945年8月

広島に住む中学1年生の亮輔は、学徒動員の作業やる気なし。2歳で母を亡くし軍人の父と継母との三人暮らしのところへ、遠縁の娘という19歳の小川希恵(オガワキエ)を引き取ることになる。希恵は若く、美しく、妊娠していて、関東に単身赴任中だった時の父の妾。今、父は戦地にいる。

 

東京生まれの希恵は昆虫学者の娘でした。父は病死して母は再婚。肺病体質な希恵は縁談もなく、ずっと年上で地位のある軍人の現地妻になるしかなかった。

 

死産した希恵、希恵に関心を持ち近づく亮輔。希恵が昆虫好きと知り、虫が好きになる亮輔。虫も殺さない顔の美しい希恵は、昆虫を秒殺して標本を作るのが得意。

 

病弱で引きこもりがちの希恵を外に連れ出し、昆虫の標本作りを教えてもらおうと張り切る亮輔は、行き場のない希恵の悲しみと父の狡さを知ります。

 

亮輔と希恵はすれ違ったまま、広島で8月6日を迎える。

8月15日、お国のために戦いすべてを失った亮輔の父の希恵への思い。

 

敗戦、被爆者‥

 

白血病闘病中の亮輔は、さまざまなことを思い出します。あの時、こうしていれば、ああしていたら‥

 

 

思うようにならない運命の残酷さを淡々と描いています。亮輔や希恵の気持ちに寄り添いながら、運命の犠牲になる意味を昆虫の標本に例えているのでしょうか。

 

抵抗することもできず、すべてをありのままを受け入れるしかない状況に、やるせなさとせつなさがあります。戦争はダメ、ゼッタイと訴えているようでもあります。

 

妻妾同居、男の息子と若い妾の淡い恋。未来ある中1男子と絶望の19歳女子。ドロドロにならず、さらりと柔らかく描かれています。