ガイジンさんおことわり | 是日々神経衰弱なり

 

大雨の日。某所でボールペンのインクの取り替え。

 

黒いキャップに同じく黒のジャージー素材のワンピース。

胸の部分に白い英字でなにやら書いてある(買って着るの二回目で何と書いてあるか知らない)

 

部屋着で急いで出て来たので傘を持って来なかったわたし。

用を済ませ建物から出る頃にはすっかり雨模様。

 

 

雨に濡れたら風邪を引くといけない。

タクシーで帰ろう!

 

が、見渡す限り乗車中。

皆さん急な雨に降られてタクシーに乗ったものと思われ。

 

これは空車がつかまりそうにないな。

諦めかけたところに一台のタクシーが。

 

これを逃すと次はない!

土砂降りのなか躊躇せず道路へ突進み手を挙げた。

 

停車したのは「コンドルタクシー」だった。

 

 

しかしどうしたものか、停まってくれたのにドアーが開かない。ぴくりともしない。

土砂降りの中である。一秒でも早く車の中へ入りたい。

 

 

するとなぜか助手席側の窓が静かに降りた。

運転手が身を屈めこちらを窺い見るように

 

 

「ホェアーユーゴーイング?」

 

 

と訊ねて来た。一瞬「!」と思ったが英語しか話せない観光客と間違われるのは日常茶飯事。

何も否定せずすぐに日本語で「六本木までです」と答えると初めてドアが開かれた。

 

やれやれ

 

車に乗り込むとバッグからハンカチを取り出し、顔や腕、足など濡れた身体を拭いた。そうしていると雨の中に立たさされたことによる怒りが込み上がってきた。

 

「どういうことでしょうか?行き先を言わないと乗せてもらえないのかな」

 

「は?なに?気に入らないなら降りて」

 

「こんなに雨が降っているのに、お客さんを外に立たせたままで行き先を聞くなんて酷いじゃないですか。それにもし行き先を聞いて近かったら乗車拒否をするつもりだったんでしょうか?わたしが日本語を話さない人か、あるいは外国人だったら乗車拒否したんでしょうか?もし日本人ならあなたの勘違いで乗車拒否したということになりますがどうなんです?」

 

「チッ だからよ〜 もういいから降りろよ」

「O.K じゃあ降りますね。その前に…」

 

と言いながら携帯を出して運転手の身分証を写したら思いっきり手を振りかざして制止してきた。

 

「やめろ、そういうことすんなよバカ!」

「痛い!何するんですか!暴力は止めてください。今から録画しますね」

「いやだから、お客さん〜 そういうことは止めてくださいよ〜」

「乗車拒否で降りろと言われたとタクシーセンターに報告しますね」

「いいよいいよどうぞやって。こっちは代金もらわなきゃ問題にならないんで」

 

 

大雨の中に車を降りた。すると不思議。

さっきまでまったく空車タクシーがなかったのに降りた瞬間に空車を拾えた。

 

行き場のない思い。乗り換えたタクシーの運転手さんに経緯を話したら、

その運転手さんはものすごく怒って、タクシー協会に苦情を入れてくれと言う。

 

なんでもそういう態度の悪い運転手がいたら業界全体の評判や意識が下がるとか。

 

「でも、代金をもらわないで降ろしたら問題にならないって言ってましたよ」

 

「いえいえ、今わたしがお聞きしたことは立派に違反行為です。まず行き先を聞いてドアを開けた。これは乗車拒否にあたります。第二に、目的地以外でお客さんを降ろした、これも違反です」

 

「雨のなか立たせたり降ろしたり酷い運転手ですね、まったく」

 

目的地に到着するまでその上品な初老の運転手さんはずっとこんなふうに言い続けてくれ、

わたしの気持ちは晴れたのでした。

 

 

 

チャンチャン!