朝~夜で3通目。
2時間待って、やっと来た返事。
普通に。
雨降ってきたとか。
私の送った内容やさみしいって言葉も無視されて。

なんで分からないの?
なんで気付いてくれないの?

そんなこと言っても、あなたは嫌な顔をするだけだろうな。

私もなんでもないメールを返した。
風邪引かないようにね。
って。

泣きたい。
「おはよう」「おやすみ」「おかえり」「ただいま」

日常で交わすメール

付き合い始めの頃は、あなたのたった一言だけで嬉しかったのに…

たくさん悩んで推敲して送ったメール、たった一言しか返ってこないことが悲しくなった

私がワガママなだけなのかなぁ…って思うけど
たくさん考えて送り届けた言葉たちを
ものすごく適当にあしらわれているように思えて

私の思いは届いているの?

あなたの一言であなたの思いを信じられないのは
私が弱くなったから?

梅雨の合間のよく晴れた1日だった。

僕は職場でパソコンとにらめっこをしながら、遠くに見える窓の向こうのかすかな日の光をぼんやりと眺め、静かに息を吐いた。

こんな日はいつもはしゃいで外に出て、隣に住む優太を呼びだして冒険へでかけていたものだ。妹の志穂が連れて行けとごねるので、あの頃は3人でよく冒険をした。

冒険といっても行く先はいつも大体同じで、近所の野良猫がたくさんいる駐車場とか、遊歩道をちょっと歩いたところにあった栗林とか、家の前の畑を抜けたところの大きな犬のいる家とか、そんなものだったけど、あの頃の僕たちにはそれが一番楽しくて一番ワクワクする遊びだった。

冒険に行くときは、3人の中で役割分担みたいなものがあって、僕と優太が勇者・戦士を交代でやって、志穂が(ちっともか弱くなんてないのに)姫を演じていた。

優太は志穂のことをいつも「姫」と呼んでいて、その呼び方は遊びの役割を飛び出して、志穂のあだ名のようになっていた。優太のお母さんまで志穂を「姫」と呼ぶのだから…志穂はもう、すっかりお姫様気分だったに違いない。まぁ、成長の過程で現実を知っていくわけだけど。

「冒険の旅にいきたい」

なんだか大人気なくそんなことを思った。

優太はもう結婚して小さな子供もいて(「ゆき」という自分の名前を「うき」としか言えない可愛い女の子だ)、志穂にもどうやら奇跡的に彼氏がいるようで、仕事休みの日は朝からうきうきとでかけている。そんな日々の中で、唐突ながら思った。

「冒険の旅にいきたい」

仕事終わりに彼女の亜樹と待ち合わせをして、駅ビルの上の洋食屋に入った。

その時、ふと思い出して「冒険」の話をしてみる。

亜樹は大きな丸い目で僕を見つめ、そして柔らかく微笑んだ。

「篤志はなんだか少年だよね」

僕より3つも年下の亜樹にそう言われると、なんとなく恥ずかしい気持ちになってきて、僕は「懐かしいだけだよ」と誤魔化してしまう。

「でも、私も行きたいな、冒険の旅」

亜樹はぼんやりと遠くの方を見つめて…そして、もう一度つぶやいた。

「行きたいな、冒険の旅」

僕は、亜樹がとても楽しそうだったので(本当は僕が一番ワクワクしていたのかもしれないけど)ついつい思いつきで言ってしまったのだ。

「行こうか、冒険の旅に」

そう。それが全ての始まりだったんだ。

食事を済ませ、僕たちは「逆側の電車に乗ってみよう」とか「電車に乗らないで歩いてみよう」とか、些細な冒険のアイディアを話し合いながら席を立った。

伝票を片手に店の出口まできて、亜樹が出したアイディアを絶賛したり、僕のくだらない思いつきで亜樹を笑わせたりして、もう頭の中はこのあとの「冒険」のことでいっぱいだった。

早く店を出て冒険の旅にでかけたいのに、店員は一向に出てくる様子が無い。

僕らは冒険の話を中断し、店員を呼ぶべく声をかける。

「すみません」

店の中を覗き込み店員の姿を探してみたが、そこには誰もいなかった。さっきまで「お水はいかがですか?」なんて言って店内を歩き回っていたのに。

…というか、僕ら以外にもお客さんがいたような気がするのだけど、いつの間に僕らだけになったのだろう?

「なんか、やけに静かじゃない?」

亜樹が不安そうな声を出した。

確かに何かがおかしかった。人がいないのだ。洋食屋の中だけではない。外を見まわしても、隣のお店を覗いてみても、誰ひとりいない。突然僕ら以外の人間が全て消えてしまったとでもいうのだろうか。

「お会計とりあえず置いとくか」

こんな時に?という気もするが、やっぱりそこはちゃんとしなきゃいけない気がする。お釣りをもらうことができなかったので、数百円だけ余分に払ってきた。少し損をした気分だが、まぁ仕方が無い。

亜樹は僕の左手をしっかりと握りしめ、後ろを怖々と歩き始める。

エスカレーターは通常通りに動いているし、店内のBGMも当たり前に流れているし、人がいないということを除けば、いつも通りの駅ビルの姿だった。

僕らはエスカレーターに乗って、下のフロアに降りてみることにした。

ひとつ下のフロアは「くらしのフロア」。日用品なんかがきれいに並べられている。僕らは周りに誰かいないか、見回しながら歩いてみる。レストランフロアと同じで、やっぱり人がいない。人がいない場所はこんなに静かなんだな…と、変に落ち着いた気持ちで思いながら、僕は亜樹の方をふりかえる。亜樹は、キョロキョロと周りを見回しながら、僕の手を両手で握りしめて歩いていた。

―カタンッ

遠くの方で何かが倒れるような音がした。亜樹がびくっと肩をこわばらせる。

「…行ってみる?」

正直、僕はワクワクしていた。どう考えたって異常な事態。でも確かに何かが始まっているのだ。そんな期待が僕の胸を膨らませていた。すると、知らず知らずのうちに声が弾んでいたのだろうか。亜樹がきょとんとして、そして小さく笑った。

「篤志…楽しんでるでしょ」

そこからは、亜樹も冒険のパーティーのひとりになった。

二人で音がした方向へと歩みを進めていく。そこにはやじるしの看板が倒れていて、そしてそのやじるしの先に『せーぶぽいんと』と書かれた謎の魔法陣(にしてはかなり下手くそな絵のようなもの)があった。

「コレ、子供の字だよな?」

僕はその魔法陣に近付き、指先でコツコツとつついてみる。特に何も起こらない。僕らは、この全ての出来事が小さな子供のいたずらのように感じて(恐ろしく不思議なことはおきているのだけど)自然と微笑んでしまった。

「冒険の旅が始まったみたいね」

亜樹が嬉しそうに言う。僕も頷く。普通ならばパニックに陥ってもおかしくない状況だったのに、何故だか僕らは楽しかった。何故だか、自然にこの状況を受け入れ始めていた。まるで、「お前はロトの子孫だ」と突然告げられ、当たり前に旅立つ勇者のように。

そうだ、冒険が始まったのだ!

なんとなく、自分であって自分でない自分のページが欲しくなったので。

日記を書いたり。

作品書いたり。

していこうと思います。