晩ごはんに、近所の中華屋さんへ出かけた。
このお店の存在はずいぶん前から知ってはいたが、
なかなか足を踏み入れることがなかった。
なぜなら、そのお店に到達するまでには、
美味しそうなお店を何軒も通過しなくてはならないからだ。
ついつい、よそに行ってしまう。
が、今日の私は一味違う。
浮気心を封印し、一目散にその店へ向かった。
満を持しての入店だ。
カランッカラァン~
一歩入り、店内をぐるりと見回す。
開店して30年ほど経っているような感じ。
床に天井、机に椅子、テーブルクロスに醤油差し、
どれも真新しいものではないけれど、
全てがきちんと掃除されている。
「いらっしゃい!」
と、感じの良い大将と奥さんが出迎えてくれた。
こういうお店は好きだ。
案内されたテーブルに座り、メニューを開く。
やっぱり中華にはこれよねと紹興酒を頼む。
そういえば、私は紹興酒が苦手だった。
初めて飲んだ時、あの、なんとも言えない味にオェッとし、
製造された方には大変申し訳ないが、ペッ!とさせていただいた。
それからずっと口にしていなかったのだが、
ふらりと行った香港で入った四川料理屋さんの店主さんに、
「これは年代ものですよ!」
と、かめの紹興酒を熱心に勧められ、再度チャレンジすることに。
恐る恐る口に含む。
何か粗相があった場合の、ナプキンとお口直しのエビチリを用意して。
おや?
こ、こ、こ、こ、こ、これは!
な、な、な、な、な、なんて!
美味なんだーーーーーーーーーー!!!
歳を重ねると舌って変わるんだなーと身をもって経験した瞬間だった。
それから、中華を食べるときは紹興酒が定番となった。
大将にお勧めを伺い、つまみを頼む。
こちらとしては“つまみ”のつもりだったのだが、運ばれてきた料理達は
つまみ類には決して属さない、たいそうなボリュームだった。
「・・・・・・。」
出された食べ物は残さず食べるという教育を受けてきた私。
今でもその両親の教えに背いたことはない。
が、今日ばかりは、、、。
ちょっと心が折れる。
とはいえ、まずは一口。
あー、美味しいっ!
で、紹興酒をグビッ。
ひぃー、幸せー!
なんという至福のひと時だろう。
もひとつパクリッ。
さらにパクリッ。
パクっとパクリッ。
パクパクリッ。
パクリッ。
パクリ。
パク。
パ
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果敢にいどんだこの勝負。
見事mariaさんの勝利です!
お父さんお母さん、あなたたちの娘は、教えを守り抜きましたよ!
勝ち誇った顔で、「ごちそうさま」と大将に言う。
と、奥さまが奥から何かを持ってきた。
「良かったらお口直しにどうぞ。サービスですっ」
と、けっこうな量の杏仁豆腐をテーブルに置く。
「・・・。」
壁のすみに吊るされた、季節外れの風鈴が、
寂しくチリンチリンと鳴っていた。
あぁ、ギャル曽根ちゃんに会いたい。