虐待時代の話が多く、重い話題が続いたので、ちょっと気分転換を。母の思い出シリーズです。


 考えれば、母は日本の誘拐犯からの虐待のせいで長年記憶を失っていましたが、この数カ月でどんどん思い出せています。逆に言えば、ずっと母に小さい時のことを聞くと異常なほど思い出が少なくて変だと思っていましたが…。医学的に言うと、極端な虐待を受けたりすると、海馬が萎縮し、このような現象が起きるのだとか。


 さて、今回の思い出は【クレヨン】について。


 Bill Pullmanは今では俳優の才能が知られていますが、母の思い出話を聞くと、その才能は多岐に渡っていたことが窺えます。


あらゆる方面に才能があるBill(写真:『あなたが寝てる間に…』)


 1冊の絵本から次々と新しいストーリーを編み出した話は書いたことがありますが、それ以外にも、彼はオリジナルの塗り絵を作ってくれたりもしたそうです。



 実際、絵の才能もかなりのものだったらしく、彼は可愛い動物やお花、風景などを楽々と描き上げることができた、と母は言っています。

 そして、母が驚いたのが彼のクレヨンの巧みな使い方。


「父は少ない色のクレヨンしかなくても、それらを混ぜて驚くほど微妙な色使いができた。"数が少なくても、混ぜればいろいろな色が出せるんだよ"と、父は言っていた。でも、私がしても、ちっともうまく混ざらない。私は"パパみたいにならない"と言い、使っていたクレヨンが短かったので、"短いせいでできない"と理由づけした。すると、父はちょっと笑って、短くなったクレヨンをいくつも使って、びっくりするほど綺麗な色を出した。私が驚くと、"力加減だよ、リーザちゃん。猫ちゃんをくすぐる時みたいな力でやってごらん"。言われた通りに、その感覚でやってみたら、父ほど綺麗ではなくても、色はうまく混ざった。私が声を上げて喜ぶと、父はさらにいろいろ教えてくれた」。


 どうやらBillは才能がある上に、教えるのも上手だったみたい。「猫ちゃんをくすぐる時みたいに」なんて、表現が絶妙ですよね。他にも「棒の先でイヤな虫を追い払うみたいに」とか、いろいろ喩えを使って教えてくれたそうです。


「父はイメージをうまく伝えるのが得意で、とても分かりやすかった。だから、その通りにしたら、ある程度はできるようになって、とても嬉しくなる」


 Billは詩や物語も作れるし、作曲もできて、絵も描ける。乗馬も得意だし、運動神経も抜群。だから、母は「父にできないことなんて、あるのかしら」と、思っていました。