家は3坪、生活費は月2万円 路上生活を経て行きついた身軽な“小屋”暮らし
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180727-00000061-sasahi-life
AERA dot. 7/30(月) 16:00配信 AERA 2018年7月30日号より抜粋

 

【小屋ブームの火付け役】Bライフ 高村友也(たかむら・ともや)さん/1982年、静岡県生まれ。東京大学哲学科卒業、慶應義塾大学大学院(哲学専攻)博士課程単位取得退学。2009年、小屋を建てる(写真:本人提供)

 

Bライフ を送る高村さんの小屋(写真:本人提供)

 

小屋内部・台所(写真:本人提供)

 

小屋内部・テーブルと薪ストーブ(写真:本人提供)

 


 好きな時間に起きて、好きな時間に寝る。欲しかったのは例えば、そんなささやかな自由。しかし社会人ともなると、至難の業だ。仕事がある。生活費を稼がないといけない。でも視点を少しずらせば、それが可能になることを「発見」した人がいる。高村友也さん(36)だ。その答えは「小屋」にあった。

 小屋ブームの火付け役のひとりともいえる高村さん。これまであまりメディアに出ることがなく、今回、小屋を訪ねることはかなわなかったが、取材には応じてもらえた。

 新緑のまぶしい季節、木漏れ日の差すなか、高村さんは言葉を選びながら静かに語る。

「最初は安い土地を買って適当に小屋でも建てて住んでみよう、と軽い気持ちで始めたんです」

 東京大学哲学科卒業後、慶應大学の大学院に進学。在院中に始めた路上生活を経て、2009年12月、山梨県の雑木林に土地を約70万円で購入。3坪(約9.9平米)の小屋を約10万円でセルフビルドした。27歳にして80万円で、ロフト付き5畳の「マイホーム」を手に入れたかたちだ。

「金づちもろくに握ったことがなかったので、いちから試行錯誤しました」(高村さん)

 電気や水道などのライフラインは引かず、電気はソーラーパネルでまかなう。約10万円で発電システムを作り、夜間の照明やインターネット、スマホの通信に不自由はない。水は原付きバイクで15秒ほどのところにある、湧き水に汲みにいく。20リットルタンク1缶あれば1週間は過ごせる。

 料理はガスのカセットコンロか薪ストーブを使う。排水は庭の畑にまき、トイレは汚物を微生物が生物分解するコンポストトイレを自作した。月々の生活費は約2万円。25万円もあれば1年間は暮らせる生活サイクルを、小屋と共に手に入れた。

 高村さんはその暮らしを「B(ベーシック)ライフ」と名付け、10年秋、「寝太郎ブログ」を開設するとたちまち反響を呼んだ。書籍化もされ、追随する“Bライファー”も現れた。

 家は、本来、屋根と壁があって暖がとれれば十分なのに、高額な住宅ローンや家賃を背負う経済システムが確立されている。家のために仕事をし、心身ともに疲弊させられ、自由もままならない。その高速回転のシステムから降りると、縛られない身軽な暮らしが可能になるのだ。

 高村さんにとって小屋は到達点ではなく、いつでも帰れる「安全地帯」の確保にすぎない。小屋暮らしを始めて約8年。この間、神奈川県の河川敷に約10万円で土地を購入してテント暮らしをしたり、海外を長旅したり、今年に入って東京に約3万円で部屋も借りた。

「(学生時代に専攻した)哲学の勉強をもう少ししたいと思ったのですが、山梨の小屋周辺では欲しい資料が十分手に入らない。東京に部屋を借りて小屋と行き来しながら大学の図書館に通っています」

 理想形として描いていたのは、必要最低限の荷物を持って、知りたいことを知り、寝たいところで寝るバックパック生活。小屋を得ることで、それに近い暮らしが実現した。

「水を汲んだり、薪を集めたり、そんなキャンプみたいな生活、ずっとやると飽きるのではと言われたこともありますが、わりと平気ですね。作業をするのは週1日ですし、これだけやっていれば生活できるわけで。そう思うと、たいしたことではありません」(高村さん)

(文中一部敬称略)(編集部・石田かおる)