昨日は里来翁の三回忌。

里来のことを文章にしました。

長文ですが、よろしければお読みください。

 

僕が里来(リック)翁になったわけ

 

僕の名前はリック。

名古屋でおばあちゃんと暮らしていた。
おじいちゃんはいつの間にかいなくなっちゃった。

僕が16歳になった夏のある日、
おばあちゃん、お出かけしたまま帰ってこない。
晩ごはんの時間になっても、
外が真っ暗になっても帰ってこない。

「おなか減ったよぅ」
「のどが渇いたよぅ」
「暗くて寂しいよぅ」
僕はわんわん吠えたけど、おばあちゃんは帰ってこない。


次の日も、次の夜も帰ってこない。
「おなか減ったよぅ」
「のどが渇いたよぅ」
「暗くて寂しいよぅ」

その次の日も、その次の夜も、
僕は一人ぼっちだった。
おなかが減って、もう吠える元気も無くなってきちゃった.。
おばあちゃん、僕を一人ぼっちにして、
どこ行っちゃったの?

何回か一人ぼっちの夜が過ぎた後
誰かが玄関のカギを開けている音がした。
(おばあちゃん、帰ってきたの?)

違う、
散歩のときによく会う近所のおばちゃんだ。
「リックちゃん、寂しかったね。
おばあちゃんは外で倒れて入院したんだよ。
当分帰ってこれないんだって。
きょうお見舞いに行ったら、
お家にリックが一人でいるから、
助けてほしい、って頼まれたの。
これからは私がご飯をあげに来るからね」

久しぶりのご飯と水だった。
おばちゃんが帰ると、また僕一人の夜が来た。

ときどき、おばちゃんが来てご飯と水をくれた。


そんな日が何日か続いた後、
おばちゃんが保護団体という人を連れて来た。

「おばあさんは退院の目途がつかないようですし、
この子を引き取ってくださる身寄りの方はおられないんですよね?
でしたら私の友人が、この子と同じキャバリア専門の保護活動を

していますので、そちらに相談してみましょう。」


しばらくして、キャバリア・レスキュー隊東海支部という団体の人が来た。

「リックちゃん、一人でよく頑張ったね。
こんなに痩せちゃって…
これからは私たちが一緒だよ。一人ぼっちにはしないよ。
そして新しい家族を見つけて
あげるからね。」

僕はおばあちゃんの家を出て、
名古屋の南の預かりさんと呼ばれる人のうちに行くことになった。

預かりさんのおうちには、僕と同じキャバリアや、ほかのワンコもいた。
そこから何度か病院に行って検査をして、
去勢手術と腫瘍があった脾臓を取る手術をされちゃった。
(本当は悪かった歯も抜く予定だったんだけど、
僕が年寄りなので長時間の麻酔は危ないからって、
抜かれなかった)

おばあちゃんは入院したままで会えないけど、
時々お見舞いに行った人が、
僕が元気にしていることを伝えてくれているらしい。

手術が終わって、里親募集というのが始まったらしい。
他の保護犬たちと譲渡会とかいうのにも参加した。

僕はいつ、おばあちゃんの家に帰れるのか、
そればかり考えていた。

ある日、預かりさんに連れられて、
キャバリア・レスキュー隊東海支部長さんのお家に行った。
「リック、今日はお見合いだよ」
しばらくして玄関に誰か来たようなので見に行ってみると、
男の人と女の人が来た。

「リック、こんにちは~」
この二人、遠く九州というところから来たらしい。
しばらく代表さんと預かりさんと二人は
お話していたけど、
「それじゃあ日程が決まったら連絡します。」
と言って二人は帰っていった。

その日は預かりさんの家に帰ったけど、
「リック、新しい家族が見つかったよ。
 もうすぐお別れだね。」って言われた。

しばらくして、預かりさんに連れられて名古屋に行った。
代表とこの前の二人が待ってた。

「ではトライアル開始です。」
「はい、バトンは最終ランナーが受け取りました。

できるだけゆっくりゴールに向かいます。」


 

僕は別の車に乗せられて、名古屋を後にした。
(どこに行くんだろう?
おばあちゃんの家に帰るのかな?)
車は山を越えてどんどん名古屋を離れていき、
神戸で大きなお船に乗った。

お船は初めてだったけど、
二人と一緒の部屋だったから、不思議と怖くはなかった。
一晩、お船に揺られて、大分の港に着いた。

「リック、九州へようこそ」

お船を降りて、しばらく車で走って、
茶色のマンションの前で降ろされた

「リック、ここが新しいお家だよ」
 

初めての場所だったけど、
なぜか僕はこっちに進むんだとわかった。
ママさんが持っているリードを引っ張って、僕は新しいお家に入った。


「リック、今日から君の名前は『里来』だよ
ママさんの名前の一文字『里』と
うちに来てくれたから『来』でリックだ。
リックはリチャードの愛称だから、正式名はリチャード・里来だね。

これからは、絶対に一人ぼっちにはしないよ。どこに行くのも一緒だよ。」

そうして新しいパパさん、ママさんとの生活が始まった。

でもお散歩の途中で、おばあさんに似た人を見つけると、

気になって見つめたり、
懐かしい匂いや音がすると、そっちへ走ってみたりした。
でもそこに、おばあちゃんはいなかった。
 

僕が名古屋を離れる前に、おばあちゃんは天国に行ってしまってたらしい。


僕はあちこちドライブに連れて行ってもらって、ハウステンボスにお泊りもした。

買い物に行くのも、いつも一緒。
お外でご飯を食べるときも
車の中でみんな一緒に食べてた。


九州に来て、ちょうど1年後、17歳の時に、今度は車で名古屋まで里帰りした。
僕を最初に助けてくれた保護団体さんや支部長さん、預かりさんとも再会した。
みんな
「里来、良かったね~
 長生きしてね~」
って言ってくれた。

 

手術してもらった病院の先生にも会えたんだ。
もし今のパパさんママさんが現れなかったら、この先生が

僕を引き取ってもいい、って思ってたんだって。
(そっちのほうが幸せだったかなぁ?)




18歳になった秋には、ダウン症の子供たちと触れ合う
バディ・ウォークでセラピードッグもやってみた。
ほんとは一緒に歩きたかったけど、
もう足が弱くなってしまって、
カートに乗って参加したんだ。
 

19歳になって、
一日中寝ていることが多くなって、
足が弱くなって歩けなくなったから
補助ハーネスやベストを手に入れてくれた。



僕ももう歳を取ったのか、
夜、暗くなると、昔、おばあちゃんの家で

一人ぼっちで吠えてた時のことを思い出すようになった。

怖くて、寂しくて、吠えてしまう。
 

そうしたらママさんが一晩中、横についていてくれて、

僕が吠えると優しくなでてくれた。

だんだん
今が昼なのか、夜なのか
ここがどこなのか、
僕にはわからなくなってきた。

(おばあちゃん、僕さみしいよ!)

怖くて、寂しくて、吠えてしまう。

パパさんが病院の先生と相談してお薬をもらってくれた。
寝る前にそれを飲むと、気持ちが落ち着いて、

吠える回数は減ったんだけど、
体が重くて、一日中眠たくて、
もう立ち上がることもできなくなって…


 

気が付いたら、きれいな虹の見える場所にいた。

「あら、リック、
待ってたよ!」

(おばあちゃんだ!!!)
 

僕は足も軽く動くようになっていて、

ずいぶん前に怪我した左足も
自由に動くようになっていた。

「あのね、おばあちゃん
僕ね、九州というところに行って、

太宰府天満宮とかハウステンボスとか

連れて行ってもらったんだよ。」
 

「ほう、それはすごいね
おばあちゃん、九州には行ったことないんだよ」
 

「それから、高級なフードや、ちゅ~るっていうおやつとか、
ヨーグルトとか、アイスクリームとか、

いろいろ美味しいものも食べさせてもらったんだよ」
 

「そうかい、そうかい。
あの時は、ご飯をあげられなくて ごめんね。
でも、もうここでは、おなかが減ることはないんだよ。」

「あれ? そのワンコはだれ?」
 

「この子は伽羅ちゃんといって、
お前がお世話になった家で
前に飼われていた子だよ。
ここでパパさんやママさんを待ってるんだ。」


「伽羅ちゃん、君がパパさんやママさんを

僕に譲ってくれたんだね。ありがとう。
パパさんやママさんと会えるのは
もう少し先になりそうだけど、待っててね」

僕は、おばあちゃんと虹の橋を渡っていった。 
これからはず~っとおばあちゃんと一緒だ。

 

 

終わり。

長文をお読みくださり、ありがとうございます。

私たち夫婦も年を取り、体力も無くなり、

もうこれから長い時間、犬と暮らすことは難しいと思います。

里来が最後の楽しい思い出を作ってくれました。

ありがとう、里来!