集団的自衛権行使・多国籍軍参加容認

 民主党の枝野幸男衆院議員は、『文芸春秋』10月号に「憲法九条 私ならこう変える 改憲私案発表」と題する論文を発表しました。軍事力の保有、集団的自衛権の行使、国連のもとでの多国籍軍への参加を容認する重大な内容です。枝野氏は、民主党内に新設された代表の直属機関である憲法総合調査会の会長に就任したばかりです。
 枝野「私案」では、日本国憲法9条1、2項に二つの条文(9条の2、9条の3)を追加。追加する「9条の2」3項で、「自衛権に基づく実力行使のための組織」の存在を規定。軍事力の保有を基礎づけました。
 また同2項では、「我が国の安全を守るために行動している他国の部隊に対し、急迫不正の武力攻撃」があった場合に、その「他国」と「共同して自衛権を行使することができる」と規定。集団的自衛権の行使を容認しています。
 もう一つの追加条文となる「9条の3」1項で国連軍への参加を明記。さらに同2項では、国連決議に基づく多国籍軍やPKO(国連平和維持)活動への参加を明記したうえ、活動に対する急迫不正の武力攻撃がなされた場合には「自衛措置」を取れるとして、海外での武力行使を公然と容認する内容になっています。
 現行9条1、2項は名目的に残るだけで、これまでとりわけ2項(戦力不保持、交戦権の否定)の制約として禁じられてきた、国連軍への参加、集団的自衛権の行使、海外での武力行使を容認する中身です。

けん制装い“9条破壊”援護

 枝野「私案」は、2005年に民主党がまとめた改憲志向の『憲法提言』を具体化した内容で、改憲政党としての民主党の性格をあらわにするものです。同時に、この時期に改憲案を発表することは、内容とともに安倍晋三首相の狙う9条改定を後押しする意味しか持ちません。
 枝野氏は、『文芸春秋』掲載の論文で「安倍政権の発足などによって、改憲派と護憲派の両極端な主張がますます激しくぶつかり合うことが予想される状況」を、「極論のぶつかり合いという不幸な事態」と主張。「今求められているのは、より冷静な分析と建設的な議論によって極論のぶつかり合いを収斂(しゅうれん)させること」と述べて憲法擁護の立場を「極論」と攻撃しつつ、“第三の道”があるかのように装っています。
 その主張する改憲私案は、安倍首相と同様に、集団的自衛権行使と国連軍・多国籍軍への参加など、海外での武力行使を容認するものです。安倍首相が狙う集団的自衛権行使に向けた解釈改憲論へのけん制を装いながら、明文改憲を進めることは、議論の軸を右に持っていくだけです。
 枝野氏は、「憲法解釈」によって「歯止め」をかけている現在の状態では「ずるずると自衛隊の活動範囲が拡大し、今後もさらに無原則に拡大する可能性がある」などとし、「『歯止め』を明文化する」ために改憲を進めるとしています。
 しかし、これまで「歯止め」とされたのは9条2項の戦力不保持の規定です。この規定があるために、歴代政府は自衛隊は「軍隊」ではなく、集団的自衛権の行使も、海外での武力行使も禁止されてきたのです。それをすべて容認するというのですから、枝野私案はなんら「歯止め」になっていません。
 日本への攻撃に対する自衛措置としていますが、地理的な限定も示されていません。各国が横並びで戦争する多国籍軍への参加も憲法上可能とするというのですから、安倍首相が目指す、アメリカと肩を並べて「戦争する国」そのものです。
 

枝野9条改定私案―歯止めどころか集団的自衛権の行使に道を開くもの

市田氏が批判

 日本共産党の市田忠義書記局長は9日の記者会見で、民主党の枝野幸男元幹事長が雑誌に発表した憲法9条改定にむけた私案について記者に問われ、「集団的自衛権の行使に道を開く危険な内容だ」と批判しました。
 市田氏は、枝野氏の試案が、安倍政権が狙う集団的自衛権の解釈の見直し、将来的には憲法そのものの明文改憲にたいし対立軸を示し、解釈改憲に歯止めをかけるものといわれているが、「結論からいうと私案は、安倍政権が進める集団的自衛権行使の容認に道を開く、きわめて危険な内容だ。歯止めどころかそれを促進するものだ」と指摘しました。
 市田氏は、「憲法の命ともいうべき、侵略戦争の反省の上にたって『二度と戦争はしない』という9条1項を生かしめているのは、『軍隊をもたない』『交戦権は認めない』という9条2項だ」と強調。その上で、「(私案は)その2項を変えないというが、新たな条項を加えることによって、事実上、日本がアメリカと一緒に海外で戦争できる国にしようとする安倍政権と同じ道を歩む危険なものだ」「(安倍政権の路線の)対立軸でなく促進の役割だ」と述べました。