太陽が一瞬にして溶けた、9月23日。


空を紫色に輝かせるマジックアワーのひとときが一瞬にして消え去ったあの日から、どのくらい月日が経ったのだろう。


人々はあの日のことをブラックデイと呼ぶようになった。自然発生的に生まれたそのブラックデイの表現は今ではオフィシャルになっている。


ブラックデイから月日を経たその日、私は勤務先であるムーンソラリスト日本本社のラボラトリーにいた。


日本本社は、大阪の万博公園の中にある。岡本太郎の芸術作品、太陽の塔を模して巨大な自社ビルが建てられた時は世界中の話題をさらったらしいが、私が入社した頃にはそんなことには誰も関心を払わなかった。


釧路や長崎などムーンソラリストの支社は地上からは見えないように作られていて、一般の人はもちろん社員でもその場所を知らない人が多い。


私が所属する「ノウスソル」は、そんな日本中の支社から精鋭メンバーをかき集め構成された研究チームだ。


議論が白熱していた時、私のブローチ携帯が鳴った。

「リーダー、お客様です。宮木様他数名です」

「分かった。お通しして」


2つ目の研究の成果を挙げた後、リーダーだった葉月さんが辞めてしまった。3つ目の今回の研究から私はチームのリーダーになっていた。


あの日、釧路でブラックデイを迎えた私は、出張先の釧路支社には行かず、 そのまま大阪に帰ってきた。

今日のお客様は釧路であの日に出逢った神戸の大学生たち。


ノウスソルは、今は新しい太陽を生み出す方法を模索していた。それぞれの研究結果を持ち寄り、ラボラトリーで顔を合わせてのブレーンストーミング。原始的な方法だが、結局これが一番成果があがる。人間っていうのは不思議なものだ。


「ごぶさたしています」


若い学生の研究チームを迎え、さらに熱い議論が繰り広げられるだろう。


ブレーンストーミングの間、ラボラトリーは真っ暗闇となる。集中するためだ。

暗闇は、時を忘れさせる。


そもそも、太陽がなくなった今、時間なんて意味があるんだろうか。